15 / 25
【八つ当たり】
しおりを挟む
仕事中、何度か朗太と目があった。
部署が違うのでそうそう会うこともないが、一度など目があった瞬間ニッコリと微笑まれたので、鬼を殺さんばかりの勢いで睨みつけてやった。
業務がずれ込み、食堂で少し遅いランチをとる奏のスマートホンがガタガタと震え硬質な音を立てる。
『夕方会えませんか? 東口の三角ビルにあるカンガワって店で待ってます』
相変わらず飾り気のない文章のみのLINE。
そして、夕べ送られてきていたLINEへの返信をしていなかったことを思い出した。
それに連なるように思い浮かべるのは、ワールドカップ記念キーホルダーのついた鍵のこと。
朗太との関係を慮ってそうしたのだろうが、なんだか相良に切り捨てられたようで切なくなった。
そもそもは二人の関係が特殊で、恋人同士でも親類縁者でも同居人間ですらない人間が合鍵を持っていることがおかしいのだ。
そうは言っても。
ついつい朗太に八つ当たりしたくなる。
『空けるのは次の日曜では?』
こちらから送るのも、愛想なしの文字だけの内容。
『釣り、まずかったですか? 仲間内で言ったら怒られた。釣りはないだろと。怒ってる?』
まさかの文面に目を見開く。
『誰にも私のこと言ってないでしょうね!!!?』
言ってたら刺し違えてでも殺す。
もうあんな好奇の目にさらされるのは耐えられない。
過去を暴かれた高校時代の苦しさは忘れていない。
絶対一生忘れることなんてできない。
『言ってない。約束だから。でも女の人と釣りに行ったこと自慢したかったんです。ごめんなさい』
ここで初めて頭を下げるスタンプが貼られ、挙句ペコリと腰を折る朗太自身が浮かんで図らずも少し笑を浮かべてしまった。
『そんなことしなくても、あんただったら生きてるだけで自慢できるのに』
『清白さんがオレを認めてくれたら、そんな気にもなれるかも。じゃあ、夕方店で』
『行くとは言ってない』
『行かないとも言われなかったから待ってます。では』
はあ?
くそっ、こいつ。
「じゃあ、いかないっと」
文字を打ちながら思わず口の中で呟いてしまった。
最後の返信には、もう何も返されず。
……むかつく奴。
押し付けがましことこの上ない。
絶対に行くものかと心に誓って、まだ残っていた皿の中身を一気に口に詰め込んだ。
部署が違うのでそうそう会うこともないが、一度など目があった瞬間ニッコリと微笑まれたので、鬼を殺さんばかりの勢いで睨みつけてやった。
業務がずれ込み、食堂で少し遅いランチをとる奏のスマートホンがガタガタと震え硬質な音を立てる。
『夕方会えませんか? 東口の三角ビルにあるカンガワって店で待ってます』
相変わらず飾り気のない文章のみのLINE。
そして、夕べ送られてきていたLINEへの返信をしていなかったことを思い出した。
それに連なるように思い浮かべるのは、ワールドカップ記念キーホルダーのついた鍵のこと。
朗太との関係を慮ってそうしたのだろうが、なんだか相良に切り捨てられたようで切なくなった。
そもそもは二人の関係が特殊で、恋人同士でも親類縁者でも同居人間ですらない人間が合鍵を持っていることがおかしいのだ。
そうは言っても。
ついつい朗太に八つ当たりしたくなる。
『空けるのは次の日曜では?』
こちらから送るのも、愛想なしの文字だけの内容。
『釣り、まずかったですか? 仲間内で言ったら怒られた。釣りはないだろと。怒ってる?』
まさかの文面に目を見開く。
『誰にも私のこと言ってないでしょうね!!!?』
言ってたら刺し違えてでも殺す。
もうあんな好奇の目にさらされるのは耐えられない。
過去を暴かれた高校時代の苦しさは忘れていない。
絶対一生忘れることなんてできない。
『言ってない。約束だから。でも女の人と釣りに行ったこと自慢したかったんです。ごめんなさい』
ここで初めて頭を下げるスタンプが貼られ、挙句ペコリと腰を折る朗太自身が浮かんで図らずも少し笑を浮かべてしまった。
『そんなことしなくても、あんただったら生きてるだけで自慢できるのに』
『清白さんがオレを認めてくれたら、そんな気にもなれるかも。じゃあ、夕方店で』
『行くとは言ってない』
『行かないとも言われなかったから待ってます。では』
はあ?
くそっ、こいつ。
「じゃあ、いかないっと」
文字を打ちながら思わず口の中で呟いてしまった。
最後の返信には、もう何も返されず。
……むかつく奴。
押し付けがましことこの上ない。
絶対に行くものかと心に誓って、まだ残っていた皿の中身を一気に口に詰め込んだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
婚姻届の罠に落ちたら【完結保障・毎日投稿】
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
年下の彼は有無を言わさず強引に追い詰めてきて――
中途採用で就社した『杏子(きょうこ)』の前に突如現れた海外帰りの営業職。
そのうちの一人は、高校まで杏子をいじめていた年下の幼馴染だった。
幼馴染の『晴(はる)』は過去に書いた婚姻届をちらつかせ
彼氏ができたら破棄するが、そうじゃなきゃ俺のものになれと迫ってきて……。
恋愛下手な地味女子×ぐいぐいせまってくる幼馴染
オフィスで繰り広げられる
溺愛系じれじれこじらせラブコメ。
内容が無理な人はそっと閉じてネガティヴコメントは控えてください、お願いしますm(_ _)m
◆レーティングマークは念のためです。
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。
〇構想執筆:2020年、改稿投稿:2024年
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった
ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。
その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。
欲情が刺激された主人公は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる