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第10章 イグドラシルとの闘い

プロローグ イグドラシルとはなにか

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 あずさが夢を見ているころ、桜夜も夢を見ていた。彼女のように明るく色彩に富んだ夢ではなく、真っ暗な道を1人歩く夢を。道を歩いているとやがて1人の男に出会った。自分とよく似た顔立ちをした男。岩に座っている男は顔をこちらに向けて手を上げた。

「アルファ卿」

 男、一番最初の神殺しと呼ばれたアルファはにやりと笑った。彼の服装は騎士というよりは旅人とといった風情で、フード付きのマントを着用していた。

「まあ座れ、水希桜夜。我が弟よ」

 アルファが彼の前を示すと、そこに座るのに丁度いい岩が現れた。だが桜夜は、岩の出現よりも、アルファの言葉に驚いた。これまではサタン同様、模造品と呼んでいたのが急に弟に変われば当然だ。

「突然どうしました、弟だなんて」

 桜夜は勧められるままに岩に腰かける。アルファがパチリと指を鳴らすと、桜夜の格好もアルファと同じものになった。

「お前は僕の魂をモデルに造られた。それは弟も同然だ。まあ弟子筋でいけばお前は僕の孫弟子になるわけだが」

「孫弟子、ですか?」

 よく驚かされる夢だ。だが先生は確かに懐かしむように言っていた。

「それは先生が神隠しにあった話ですか」

 神隠しにあい、そこで不思議な人たちと冒険をしたと。誰も信じない戯言。桜夜だけが信じていた戯言だった。

「うむ、あいつは伸びしろがあったからな、少しだけ手ほどきをした。さて……」

 アルファは仕切り直しとばかりに言葉を切った。

「このままお前の大好きな師匠の話を続けてもいいが、今日は別件だ。お前、イグドラシルに挑むんだってな」

「はい、デミウルゴスを討ったあなたとしても気になりますか」

「まあな。イグドラシルは旧約の時代から続くデミウルゴスの使徒。歴史の裏で暗躍し続けた組織だ。その目的は……」

「人類の選別。新たなるノアの大洪水を起こし、イグドラシルに、デミウルゴスに従う人間だけを残すこと」

 そこでアルファがにやあと笑う。

「してその新たなるノアの大洪水の方法は?」

「……ウイルス兵器です。抗ウイルス薬を“選ばれし者”にのみ与え、あとは全滅させる。すでに我が身かわいさにイグドラシルについた人間も多くいると聞きます」

 その言葉にまたアルファは、ふっと笑う。

「懐かしいな。世界を敵に回して戦うというのは、ぜひ僕も参戦したいところだが」

 そこでアルファは岩から立ち上がり、ブーツでしっかりと地面を踏みしめる。

「ここは弟君のお手並み拝見といこう。そうそう君がイグドラシルに勝ったら、また話したいことがあるから、しっかり寝ていてくれよ」

 桜夜は頬をかく。

「あまり夢に入り込まれると疲れるんですけどね」

「夢渡りは僕の特技でね。それではオー・ルヴォワール」

 アルファは闇に消え、桜夜の意識も闇に飲み込まれていった。

――例え世界を敵に回しても、君を……

to be continued
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