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第7章 君に逢いたい

第4話 スカウト

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「また呼び捨てにして……ちゃんとお姉ちゃんと……ってもういいか」

「?」

「ずいぶんあたしのために頑張ったみたいだからね。……暴漢相手に大立ち回りをしたらしいじゃないか。……あたしのために?」

 そこであずさはそっぽを向いてしまった。その顔はどこか赤くなっていたような気がした。

「これからはあずさって呼んで良いの?」

「ま、ご褒美だからしかたな それから僕は1晩眠り続け、不意に誰かに頭を撫でられる感触で目を覚ました。思い瞼を開けると、そこには大好きな少女の笑顔があった。

「やっと起きた」

「あずさ……」いな」

「ありがとう、あずさ! 大好き!」

「ええい抱き着くな! この犬っころ!」

 それからしばらくは平和な時間が流れた。でも僕が高校生くらいのときかな、あずさの御両親が亡くなったのは、事故に見せかけた暗殺だったよ。お2人は人から恨まれるような役回りをしていたからね。まあ、相談役も同じだけど。僕がはじめてけいくんと会ったのは、彼らの葬式でのことだった。ご両親の方針でけいくんはお見舞いに来ていなかったし、僕も如月家の敷居を上がらせてもらえなかった。まあ仕方ないんだけどね。四方院家に連なる者なのに病気で役に立てない“出来損ない”と、水希という四方院家の分家の姓をもらったとはいえもとはどこから来たかもわからない野良犬。後継者たる長男とは関わらせたくなかったのだろう。
 だから葬式にも行く気はなかったんだけど、あずさが代わりに行ってほしいというから雨の中わざわざ出かけて行った。見様見真似で葬式を終えると、けいくんが僕に話しかけてきた。

「あの、お兄ちゃんですか?」

「いや違うよ」

「え? でもお姉ちゃんがお兄ちゃんになるかもしれない人だって」

 そういってけいくんはスマホを取り出すと1つのメールを見せる。差出人はあずさ。そこには「しつこい奴だからいつかあんたのお兄ちゃんになるかもね。だから何かあったら何でもわがままを言いなさい」と書いてあり、ご丁寧に僕とあずさが病室で一緒に撮った写真が添付してあった。

「よろしくね。お兄ちゃん」

「あ、ああ」

 どう扱っていいのかわからなかったが、とりあえずよく弟分の司にしていたように頭を撫でてみた。するとけいくんは幸せそうに笑った。

(僕が野良犬なら、この子は血統書付きの犬って感じだな)

 やがてけいくんが親戚に呼ばれていったのを見て、僕は早々にここを出ようと思っているとまた呼び止められてしまった。

「よう坊主、久しぶりだな」

 渋々と振り返ると、そこには紋付袴を着た「相談役」がいた。

◆◆◆

「いやあ、あれからずっとお前さんと話してみたかったんだが、何かと忙しくてなあ」

「はあ……」

 夜の公園でワンカップ片手に笑うおっさんとも爺さんとつかない紋付姿の男と、近隣の名門四方院学園大学付属高校の制服を着た桜夜の姿はよく目立つだろう。周囲に人気がないとは言え、早く帰りたくて仕方がなかった。

「しかしお前、ずいぶんと腕が立つと思ったら明人さんの弟子なんだってな」

「なんでそんなこと……」

「お前のことはだいたい調べさせてもらったからな、今日はスカウトに来た」

「スカウト……?」

「ああ、お前、俺の下で働けよ。今なら最初から相談役補佐官に……」

「お断りします。僕は忙しいので。それでは……」

 矢継ぎ早に言うと、僕は相談役に背を向けて立ち去ろうとした。その背中に相談役は飲み終わったワンカップを投げつけた。僕はすぐに反射し、それを左手で受け止め、相談役をにらんだ。

「お見事。やっぱりおしいなあ。なら取引しようじゃないか」

「取引?」

 殴りかかってもこの相談役とかいう男を殴り倒せないことは理解しているので、僕は公園のごみ箱にワンカップを投げ捨てた。

「ああ、俺は今、世界でいくつもの原因不明の難病を治療してきた若き名医武藤静馬という男に四方院の専属になるように交渉中だ」

「それと僕になんの関係が……」

「お前さんにもいるだろ、治ってほしい女が」

 僕はぎりっと奥歯を噛んだ。

「明日俺は静馬とオンラインで取引をする。その場にお前も招待してやるよ。明日お前の家に車を寄越すから、俺の下で働くつもりがあるなら乗るといい」

 じゃあな、と男は後ろ手に手を振りながら去っていった。「気に入らない」。そう思った。でもわずかでも可能性があるなら……。

to be continued
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