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第11話 主にあだなす者に裁きを
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サウザスの民族衣装ユカタに着替えたアルファとマリアはサウザス王を待っていた。
「お揃いだね」
マリアがうれしそうに言うように、2人のユカタは同じ六芒星の模様――籠目――だった。ユカタの色はアルファが黒、マリアは白だった。しばらくの間、2人は祭の見渡せるテラス席で椅子に座ってサウザス王を待っていた。そしてサウザス王の従者が、「国王陛下の御着きです」と声をかけてきた。
その声を受けてアルファは椅子から立ち上がった。出迎えのためだ。しかしマリアが立ち上がらないので、アルファは「こら立て」と小声で叱った。
「……やれやれ」
アルファにだけ聞こえるようにそうつぶやくとマリアも立ち上がり、2人揃ってサウザス王を迎えるため、テラスを出た。そして廊下を歩いていると、テラスに向かって歩いていたサウザス王と鉢合わせすることになるのは必然だった。アルファが早速片膝をついて、礼意を示す。
「お久しぶりです。サウザス国王陛下」
「久しいなアルファ。そちらは……」
「妻のマリアです。はじめまして、サウザス国王陛下」
マリアも深々と頭を下げて礼意を示す。小太りの老人であるサウザス王は、うれしそうに笑った。
「ははは、そう畏まるな。アルファ、お前さんのことは実の息子のように思っているのだからな。マリアさん、お堅い奴だがアルファは良い奴だ。くれぐれもよろしく頼むよ。ではいこうか」
「はい」
サウザス王が先頭を歩き、その後ろをアルファとマリア、そして王の護衛である家臣が続いた。やがてテラスに出ると、サウザス王は家臣の用意した椅子に座り、その左にアルファ、さらに左にマリアが座った。
「しかし、本当に久しいなアルファ。息災であったか?」
「はい、国王陛下。陛下もお変わりなきようで」
アルファの慇懃な態度に、サウザス王は不満そうな声をもらした。
「そんな堅苦しい。昔のようにおーさまと呼んではくれぬのか? 私はそなたのことを息子のように思っているのに」
そんなサウザス王に「恐縮です」と返すアルファの頑固さに、マリアは笑いそうになった。
「息子、ということは国王陛下とアルファ様は、親しい間柄で?」
「なんだアルファ、そんなことも話していないのか?」
「ええ、まあ……」
「皇帝陛下の母はこの私の娘なのです。ゆえに幼き時分に姿を隠さなければならなかった陛下を私がお匿い申し上げました。そのとき陛下の護衛はアルファ1人、そのアルファもなんの後ろ盾も持たぬ天涯孤独の身。私は2人に心からの同情を寄せ、守りました」
懐かしむように語るサウザス王は少し涙ぐんで目頭をもんだ。
「しかし一匹狼のお前が結婚とは……。本当は結婚式にも行きたかったのだが、星祭の最中、国王は国を離れられないのでな」
「承知しております。陛下」
「だからその堅苦しいのを……」
そんなやり取りをしている間に時間となり、サウザス王のお出ましを待つ人々が建物の前に集まり始めた。
「さて……」
サウザス王はバルコニーの手すりのところまで移動すると、国民に向かって笑顔で手を振り、御言葉を述べた。その後アルファが呼ばれ、「皇帝陛下の御言葉」が彼の口から述べられていく。
「『余の偉大なる臣民諸君。此度の星祭の良き夜、余もそなたらを祝福しよう。余は幼き日をこのサウザスで過ごし……』」
◆◆◆
別荘のある湖畔の草原に腰かけ、アルファとマリアは星を見ていた。星祭の最後は大切な人と思い思いの場所で星を見るのが習わしとなっていた。だから星祭の期間中はサウザス王配下の魔術師たちが雲を払いのける魔術を使って空を晴れさせていた。
「……星がきれいだね」
「……それはどの意味で言っているんだ?」
「さあ? ぼくにはなんのことだかわからないな」
サウザスでは異性に「星がきれいですね」というのは帝国でいうところの「愛している」に近い意味を持っていた。自分より明らかに年下に見えるのに、いつも余裕そうなのがアルファをいら立たせ、マリアの顎を彼につかませていた。指で顔をあげさせると、唇を重ねようとアルファはゆっくり顔を近づけていく。マリアが目を大きく広げたのが、アルファの気分を良くさせていた。
「アルファ! アルファ!」
騒ぐマリアにかまわず口づけようとしたアルファだったが、彼女は抵抗を止めなかった。
「なにかくる!」
マリアが空を指さす。「仕方ない、乗ってやるか」と後ろを振り向くと、空に月より明るい光のゲートが開いていた。それがなにかアルファは知っていた。天使が降臨するときに使うゲートだ。だがそこから現れたのはいつもの女性の天使ではなかった。アルファよりも年上に見える美青年、その背中から生えた翼は白く美しい。そしてその眼は明確な敵意を持ってアルファとマリアを見ていた。
――ミカエルに気を付けなさい。
女性の天使の言葉がよみがえる。アルファは思わず口に出していた。
「ミカエル……?」
「ミカエル、ミカエルだと?」
アルファのつぶやきにマリアが反応する。
「知っているのか?」
「知らないのかい? 2代目天使長で、三大天使に次ぐ実力者だぞ!」
そんな会話をしている間にもミカエルは腰の聖剣を引き抜いた。そして気合を込めてアルファに切りかかってきた。
「ちっ」
アルファも護身用に近くに置いていた剣を鞘から抜き取り、天使の聖剣の攻撃を受け止めた。天使が美しい声で唱えるように言う。
――主にあだなす者に裁きを
「お揃いだね」
マリアがうれしそうに言うように、2人のユカタは同じ六芒星の模様――籠目――だった。ユカタの色はアルファが黒、マリアは白だった。しばらくの間、2人は祭の見渡せるテラス席で椅子に座ってサウザス王を待っていた。そしてサウザス王の従者が、「国王陛下の御着きです」と声をかけてきた。
その声を受けてアルファは椅子から立ち上がった。出迎えのためだ。しかしマリアが立ち上がらないので、アルファは「こら立て」と小声で叱った。
「……やれやれ」
アルファにだけ聞こえるようにそうつぶやくとマリアも立ち上がり、2人揃ってサウザス王を迎えるため、テラスを出た。そして廊下を歩いていると、テラスに向かって歩いていたサウザス王と鉢合わせすることになるのは必然だった。アルファが早速片膝をついて、礼意を示す。
「お久しぶりです。サウザス国王陛下」
「久しいなアルファ。そちらは……」
「妻のマリアです。はじめまして、サウザス国王陛下」
マリアも深々と頭を下げて礼意を示す。小太りの老人であるサウザス王は、うれしそうに笑った。
「ははは、そう畏まるな。アルファ、お前さんのことは実の息子のように思っているのだからな。マリアさん、お堅い奴だがアルファは良い奴だ。くれぐれもよろしく頼むよ。ではいこうか」
「はい」
サウザス王が先頭を歩き、その後ろをアルファとマリア、そして王の護衛である家臣が続いた。やがてテラスに出ると、サウザス王は家臣の用意した椅子に座り、その左にアルファ、さらに左にマリアが座った。
「しかし、本当に久しいなアルファ。息災であったか?」
「はい、国王陛下。陛下もお変わりなきようで」
アルファの慇懃な態度に、サウザス王は不満そうな声をもらした。
「そんな堅苦しい。昔のようにおーさまと呼んではくれぬのか? 私はそなたのことを息子のように思っているのに」
そんなサウザス王に「恐縮です」と返すアルファの頑固さに、マリアは笑いそうになった。
「息子、ということは国王陛下とアルファ様は、親しい間柄で?」
「なんだアルファ、そんなことも話していないのか?」
「ええ、まあ……」
「皇帝陛下の母はこの私の娘なのです。ゆえに幼き時分に姿を隠さなければならなかった陛下を私がお匿い申し上げました。そのとき陛下の護衛はアルファ1人、そのアルファもなんの後ろ盾も持たぬ天涯孤独の身。私は2人に心からの同情を寄せ、守りました」
懐かしむように語るサウザス王は少し涙ぐんで目頭をもんだ。
「しかし一匹狼のお前が結婚とは……。本当は結婚式にも行きたかったのだが、星祭の最中、国王は国を離れられないのでな」
「承知しております。陛下」
「だからその堅苦しいのを……」
そんなやり取りをしている間に時間となり、サウザス王のお出ましを待つ人々が建物の前に集まり始めた。
「さて……」
サウザス王はバルコニーの手すりのところまで移動すると、国民に向かって笑顔で手を振り、御言葉を述べた。その後アルファが呼ばれ、「皇帝陛下の御言葉」が彼の口から述べられていく。
「『余の偉大なる臣民諸君。此度の星祭の良き夜、余もそなたらを祝福しよう。余は幼き日をこのサウザスで過ごし……』」
◆◆◆
別荘のある湖畔の草原に腰かけ、アルファとマリアは星を見ていた。星祭の最後は大切な人と思い思いの場所で星を見るのが習わしとなっていた。だから星祭の期間中はサウザス王配下の魔術師たちが雲を払いのける魔術を使って空を晴れさせていた。
「……星がきれいだね」
「……それはどの意味で言っているんだ?」
「さあ? ぼくにはなんのことだかわからないな」
サウザスでは異性に「星がきれいですね」というのは帝国でいうところの「愛している」に近い意味を持っていた。自分より明らかに年下に見えるのに、いつも余裕そうなのがアルファをいら立たせ、マリアの顎を彼につかませていた。指で顔をあげさせると、唇を重ねようとアルファはゆっくり顔を近づけていく。マリアが目を大きく広げたのが、アルファの気分を良くさせていた。
「アルファ! アルファ!」
騒ぐマリアにかまわず口づけようとしたアルファだったが、彼女は抵抗を止めなかった。
「なにかくる!」
マリアが空を指さす。「仕方ない、乗ってやるか」と後ろを振り向くと、空に月より明るい光のゲートが開いていた。それがなにかアルファは知っていた。天使が降臨するときに使うゲートだ。だがそこから現れたのはいつもの女性の天使ではなかった。アルファよりも年上に見える美青年、その背中から生えた翼は白く美しい。そしてその眼は明確な敵意を持ってアルファとマリアを見ていた。
――ミカエルに気を付けなさい。
女性の天使の言葉がよみがえる。アルファは思わず口に出していた。
「ミカエル……?」
「ミカエル、ミカエルだと?」
アルファのつぶやきにマリアが反応する。
「知っているのか?」
「知らないのかい? 2代目天使長で、三大天使に次ぐ実力者だぞ!」
そんな会話をしている間にもミカエルは腰の聖剣を引き抜いた。そして気合を込めてアルファに切りかかってきた。
「ちっ」
アルファも護身用に近くに置いていた剣を鞘から抜き取り、天使の聖剣の攻撃を受け止めた。天使が美しい声で唱えるように言う。
――主にあだなす者に裁きを
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