黒の騎士と未来を視る少女

スナオ

文字の大きさ
上 下
11 / 19

第11話 主にあだなす者に裁きを

しおりを挟む
 サウザスの民族衣装ユカタに着替えたアルファとマリアはサウザス王を待っていた。

「お揃いだね」

 マリアがうれしそうに言うように、2人のユカタは同じ六芒星の模様――籠目――だった。ユカタの色はアルファが黒、マリアは白だった。しばらくの間、2人は祭の見渡せるテラス席で椅子に座ってサウザス王を待っていた。そしてサウザス王の従者が、「国王陛下の御着きです」と声をかけてきた。
 その声を受けてアルファは椅子から立ち上がった。出迎えのためだ。しかしマリアが立ち上がらないので、アルファは「こら立て」と小声で叱った。

「……やれやれ」

 アルファにだけ聞こえるようにそうつぶやくとマリアも立ち上がり、2人揃ってサウザス王を迎えるため、テラスを出た。そして廊下を歩いていると、テラスに向かって歩いていたサウザス王と鉢合わせすることになるのは必然だった。アルファが早速片膝をついて、礼意を示す。

「お久しぶりです。サウザス国王陛下」

「久しいなアルファ。そちらは……」

「妻のマリアです。はじめまして、サウザス国王陛下」

 マリアも深々と頭を下げて礼意を示す。小太りの老人であるサウザス王は、うれしそうに笑った。

「ははは、そう畏まるな。アルファ、お前さんのことは実の息子のように思っているのだからな。マリアさん、お堅い奴だがアルファは良い奴だ。くれぐれもよろしく頼むよ。ではいこうか」

「はい」

サウザス王が先頭を歩き、その後ろをアルファとマリア、そして王の護衛である家臣が続いた。やがてテラスに出ると、サウザス王は家臣の用意した椅子に座り、その左にアルファ、さらに左にマリアが座った。

「しかし、本当に久しいなアルファ。息災であったか?」

「はい、国王陛下。陛下もお変わりなきようで」

 アルファの慇懃な態度に、サウザス王は不満そうな声をもらした。

「そんな堅苦しい。昔のようにおーさまと呼んではくれぬのか? 私はそなたのことを息子のように思っているのに」

 そんなサウザス王に「恐縮です」と返すアルファの頑固さに、マリアは笑いそうになった。

「息子、ということは国王陛下とアルファ様は、親しい間柄で?」

「なんだアルファ、そんなことも話していないのか?」

「ええ、まあ……」

「皇帝陛下の母はこの私の娘なのです。ゆえに幼き時分に姿を隠さなければならなかった陛下を私がお匿い申し上げました。そのとき陛下の護衛はアルファ1人、そのアルファもなんの後ろ盾も持たぬ天涯孤独の身。私は2人に心からの同情を寄せ、守りました」

 懐かしむように語るサウザス王は少し涙ぐんで目頭をもんだ。

「しかし一匹狼のお前が結婚とは……。本当は結婚式にも行きたかったのだが、星祭の最中、国王は国を離れられないのでな」

「承知しております。陛下」

「だからその堅苦しいのを……」

 そんなやり取りをしている間に時間となり、サウザス王のお出ましを待つ人々が建物の前に集まり始めた。

「さて……」

 サウザス王はバルコニーの手すりのところまで移動すると、国民に向かって笑顔で手を振り、御言葉を述べた。その後アルファが呼ばれ、「皇帝陛下の御言葉」が彼の口から述べられていく。

「『余の偉大なる臣民諸君。此度の星祭の良き夜、余もそなたらを祝福しよう。余は幼き日をこのサウザスで過ごし……』」

◆◆◆

 別荘のある湖畔の草原に腰かけ、アルファとマリアは星を見ていた。星祭の最後は大切な人と思い思いの場所で星を見るのが習わしとなっていた。だから星祭の期間中はサウザス王配下の魔術師たちが雲を払いのける魔術を使って空を晴れさせていた。

「……星がきれいだね」

「……それはどの意味で言っているんだ?」

「さあ? ぼくにはなんのことだかわからないな」

 サウザスでは異性に「星がきれいですね」というのは帝国でいうところの「愛している」に近い意味を持っていた。自分より明らかに年下に見えるのに、いつも余裕そうなのがアルファをいら立たせ、マリアの顎を彼につかませていた。指で顔をあげさせると、唇を重ねようとアルファはゆっくり顔を近づけていく。マリアが目を大きく広げたのが、アルファの気分を良くさせていた。

「アルファ! アルファ!」

 騒ぐマリアにかまわず口づけようとしたアルファだったが、彼女は抵抗を止めなかった。

「なにかくる!」

 マリアが空を指さす。「仕方ない、乗ってやるか」と後ろを振り向くと、空に月より明るい光のゲートが開いていた。それがなにかアルファは知っていた。天使が降臨するときに使うゲートだ。だがそこから現れたのはいつもの女性の天使ではなかった。アルファよりも年上に見える美青年、その背中から生えた翼は白く美しい。そしてその眼は明確な敵意を持ってアルファとマリアを見ていた。

――ミカエルに気を付けなさい。

 女性の天使の言葉がよみがえる。アルファは思わず口に出していた。

「ミカエル……?」

「ミカエル、ミカエルだと?」

 アルファのつぶやきにマリアが反応する。

「知っているのか?」

「知らないのかい? 2代目天使長で、三大天使に次ぐ実力者だぞ!」

 そんな会話をしている間にもミカエルは腰の聖剣を引き抜いた。そして気合を込めてアルファに切りかかってきた。

「ちっ」

 アルファも護身用に近くに置いていた剣を鞘から抜き取り、天使の聖剣の攻撃を受け止めた。天使が美しい声で唱えるように言う。

――主にあだなす者に裁きを
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

京都式神様のおでん屋さん

西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~ ここは京都—— 空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。 『おでん料理 結(むすび)』 イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!

猫又の恩返し~猫屋敷の料理番~

三園 七詩
キャラ文芸
子猫が轢かれそうになっているところを助けた充(みつる)、そのせいでバイトの面接に遅刻してしまった。 頼みの綱のバイトの目処がたたずに途方にくれていると助けた子猫がアパートに通うようになる。 そのうちにアパートも追い出され途方にくれていると子猫の飼い主らしきおじいさんに家で働かないかと声をかけられた。 もう家も仕事もない充は二つ返事で了承するが……屋敷に行ってみると何か様子がおかしな事に……

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

孤独な少年の心を癒した神社のあやかし達

フェア
キャラ文芸
小学校でいじめに遭って不登校になったショウが、中学入学後に両親が交通事故に遭ったことをきっかけに山奥の神社に預けられる。心優しい神主のタカヒロと奇妙奇天烈な妖怪達との交流で少しずつ心の傷を癒やしていく、ハートフルな物語。 *丁寧に描きすぎて、なかなか神社にたどり着いてないです。

名無しスズメと猫目尼僧

めけめけ
キャラ文芸
動物と会話ができる青年、羽佐間剛(はざまごう)は、静岡から東京にやってきた。剛には不思議な能力があり、動物に名を着けると人と同じように会話ができるようになる。東京へ向かう列車の中、小田原から乗ってきた美しき尼僧に出逢う。自らを猫目尼僧と名乗るその僧侶は、”祓いごと”を生業としている破戒僧であることを、まだ剛は知らないのであった。

黒の騎士と三原色の少女たち

スナオ
キャラ文芸
 四方院家。それは天皇を始め世界中の王族とコネクションを持つ大家である。その大家である四方院家の命令で特別相談役の水希桜夜は青森に向かっていた。そこで自身の運命を揺るがす出会いがあるとも知らずに……。  ドライだけど優しい青年と個性豊かな少女たちのコントラクトストーリー、始まります!

処理中です...