異世界の裏側

黒うさぎ

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女騎士の日常

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 「はあああっ!」

 木剣の打ち合う音が訓練場に響く。

 ゴルドランド騎士団。
 ゴルドランド家お抱えの騎士団であり、ゴルドランド領における治安の維持と防衛を担っている組織だ。
 その実力は国内でも随一であり、こうした日々の鍛練により養われている。

 私は小さい頃から騎士に憧れていた。
 きっかけは物語に登場する騎士のかっこいい姿に惹かれたという、なんともありふれたものである。
 ただ、その憧れを目指し努力した結果、私はゴルドランド騎士団に入団することができた。
 訓練は辛いこともあるが、その積み重ねの先に憧れていた騎士の姿があると思えば決して苦ではなかった。

 「そこまで!」

 団長の合図で私はその場に座り込んだ。
 体力には自信があると思っていた私のプライドを容易く折る程度には、騎士団の訓練はハードだ。
 滝のように流れる汗で茶色の髪が顔に貼りつく。

 これが一日の終わりであればこのまましばらく休んでいたいところだが、残念ながらこれは朝の訓練だ。
 私は重い身体を起こすとシャワー室へと移動した。

 騎士団はときに互いの背中を預ける必要がある。
 何よりも信頼関係が重要であり、そこに男女の差はない。
 男だから、女だからといっていざというときに迅速な行動がとれなくては問題だからだ。

 ゴルドランド騎士団では所属するものは皆騎士である。
 それ以上でもそれ以下でもなく、男女で区別をつけることはない。
 したがってシャワー室も男女共用である。

 私は裸になると平静を装ってシャワー室へと入った。
 入団してしばらく経つが、未だに異性の前で裸体を晒すということに慣れていない。
 だが、隠すようなことはしない。

 初めはどうしても脱ぐことができなくてよく仕置きを受けていた。
 あの恥ずかしさと惨めさは思い出したくもない。
 仕置きと自分から脱ぐことを天秤にかけ、ようやく最近自ら脱ぐことができるようになったのだ。

 シャワーの前に立ち、少し熱めのお湯で汗を流していく。

 露骨に見てくる者はいないが、それでも時折チラチラと視線を感じる。
 内心恥ずかしくて仕方ないが、その感情を表に出してしまえばまた仕置きをされてしまう。
 私にできるのは気がつかない振りをすることだけだった。

 「ヴィクトリア」

 不意にかけられた男の声に私は直ぐ様振り返ると、足を肩幅に開き手を背中で組んだ。

 「お疲れ様です、団長」

 そこには巌のような全裸の男が立っていた。
 ゴルドランド騎士団の団長であるドグラだ。

 入団してまず叩き込まれたのが、上官に対する挨拶だ。
 見かけたとき、声をかけられたときは足を肩幅に開き手を後ろに組む。
 それが基本姿勢である。
 いついかなるときもこの規律は優先され、それがたとえ全裸でシャワーを浴びているときでも例外ではない。
 私は恥ずかしさを隠しながら、まるで見せつけるように胸を張り、その裸体を晒した。

 「入団した頃に比べると大分動きが良くなってきたな」

 「ありがとうございます!」

 入団して日が浅い私にとって騎士団長とははるか上の存在だ。
 こうして声をかけられることですら光栄だといえよう。
 厳格であり訓練は厳しいが、それでもドグラのことは一人の騎士として尊敬していた。
 そんな相手に褒められたことを素直に嬉しく思った。

 「ただ、体力はまだまだだな。
 一朝一夕でつくものではないが、朝の訓練で座り込んでいるようでは騎士としてやっていけないぞ」

 「はい、精進します!」

 訓練終了の合図とともに座り込んだところを見られていたようだ。
 限界だったとはいえ、尊敬する相手に情けない姿を見られていたことを恥じた。 

 「いい返事だ。気合いをいれてやる。尻を出せ」

 私は腰を直角に曲げると壁に手つき、肩幅に足を開いて尻をドグラへと向けた。

 他の団員たちの視線をはっきりと感じる。
 おそらく後ろから見れば、私の秘すべきところが全て見えてしまっていることだろう。
 騎士団に入団するまで誰にも見せたことなかった女の部分。
 しかし、今となってはすべての団員に見られてしまっている。

 「いくぞ」

 その言葉とともに鋭い張り手が私の臀部に打ちすえた。

 「かはっ……」

 臀部から脳天へと抜けるような衝撃に息が漏れた。
 重力に従い垂れていた胸が揺れる。
 見開かれた目元にはわずかに涙が滲んだ。

 崩れ落ちそうになるが、どうにか震える足で耐えることができた。

 「これからも励むように」

 「ありがとう、ございました」

 絞り出すように礼を言うとドグラは去っていった。
 尻を見るとそこには大きく真っ赤な手形がはっきりと残っていた。

 騎士団の人間であれば、気合い入れの尻叩きで手形がつくことなど珍しくもない。
 尻を赤くしていても誰も気にしないだろう。
 しかし、まだ騎士になりきれていない女の部分が残る私にはあまりにも恥ずかしいものだった。

 私は手早く汗を流すと、足早にシャワー室を後にした。
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