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シスターの日常
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空が白み始めたころ、私は重い目蓋を擦りながらベッドを抜け出した。
窓を開け、涼しい風で胸を満たす。
寝間着を脱ぎ修道服に着替えると食堂へと移動した。
かまどに火を入れ屑野菜のスープを作る。
黒パンを並べたら子供たちを起こしにいく。
「みんな朝よ」
子供部屋の窓を開けると年長者から順番に起きていく。
起きた子と協力しながら小さい子を連れて食堂へと向かう。
スープを取り分けると皆が着席したのを確認して食前の祈りを捧げる。
「主よ、この食事を糧として今日も生きていきます。我々に祝福を」
先程まで寝ぼけていたというのに、食事となると途端に騒がしくなる。
子供たちの元気溢れる姿に自然と笑みが漏れる。
ゴルドランド領は比較的豊かな土地であり、教会への支援も充実している。
しかし、食べ盛りの子供たちに毎食十分な食事を用意してあげられるわけではない。
今日のような質素な食事の日は少し申し訳ない気持ちになってしまう。
朝食が終わると掃除の時間だ。
年長者を中心に手分けをして教会と自分たちの居住スペースの清掃を行う。
私は洗濯を担当した。
子供たちが踏んだり揉んだりして洗ったものを一つずつ受け取って干していく。
「あっ! セレーネのパンツだ!」
洗濯物の中にあった私の下着を見つけた子が、広げて皆に見せつけていた。
「こら、遊ばないの」
「司祭様にも見せてこよ!」
「それはやめなさい!」
私は慌てて自分の下着を奪い取った。
子供たちのおもちゃにされるのは日常茶飯事なのですでに諦めているが、さすがに上司である司祭に自分の下着を見られるのは恥ずかしい。
洗濯が終わると畑仕事だ。
畑といっても教会の裏庭の一角にある小さなものだ。
管理しているのが私と子供たちだけなので、これ以上の規模となると手に追えなくなる。
少しでも子供たちにいろいろ食べてもらおうと私が作ったものであり、多少は食事の彩りに貢献してくれていると思う。
日が上りきったところで昼食になる。
といってもメニューは朝と同じなのだが。
午後は年長者二人を連れて買い物に行く。
食料だけでなく日用品なども買うとなると私一人では大変なので、子供とはいえ荷物持ちがいてくれるのはありがたい。
「セレーネちゃん、ほらこれ持ってきな」
野菜を買いに行くと店主のおじさんが籠に入った野菜を出してきてくれた。
それは形が悪かったり、多少虫に食われたりしている所謂不良品だが、食べる分にはなにも問題ない。
この店の店主は私たちの懐事情を知っていて、こうして不良品を融通してくれるのだ。
「いつもすみません」
「いいって、俺たちも教会には世話になってるんだから。
セレーネちゃんやガキたちには元気でいてもらいたいしな」
「ありがとうございます」
この店だけではない。
他のところでも同様に助けてもらっている。
本当にこの街の人たちには頭が上がらない。
買い物が終わるとお務めの時間だ。
今日は子供たちとともに街のゴミ拾いである。
子供たちとともにできる奉仕活動は限られているが、日頃の恩を返すために手を抜くようなことはない。
日が暮れてくると夕食の時間だ。
今日は少し奮発して肉を出した。
といっても屑肉を一切れだけだが、それでもやはり育ち盛りの子供たちにとって肉は嬉しいものなのだろう。
美味しそうに食べる姿を見ているだけでこちらまで幸せになる。
夕食が終わると洗い場に行って子供たちを一人ずつ洗っていく。
自分で洗える子もいるが、面倒がって適当に済まそうとする子もいるのでそういう子を捕まえて磨き上げるのだ。
「ほら、じっとして」
教会にいるのは皆孤児だ。
孤児はそれだけで見下されることもある。
身綺麗な服を買い与えてやることはできないが、せめて清潔にしてあげたいというのが私の願いだった。
「セレーネのことは俺たちが洗ってやるよ」
そう言って手の空いている子供たちが私の身体へと手を伸ばしてくる。
「そう言ってまた悪戯するんでしょう」
「そんなことしないって」
しないと言いつつ、子供たちの手付きは明らかに洗うためのものではなかった。
私の胸や尻を揉んだり、抱きついたり。
本当なら叱るべきなのだろうが、母親の温もりを知らない子供たちの生い立ちを考えると、これもその反動から来るスキンシップなのだろう。
いつも一生懸命小さな身体で私の手伝いをしてくれているのだから、私をおもちゃにすることくらい微笑ましいものだ。
「ありがとう。私はもういいから、風邪を引く前に身体を拭いて服を着なさい」
身体にまとわりつく子供たちを引き剥がしながら服を着せていく。
「あははは!」
「こら、待ちなさい」
裸のまま駆け出していく子を捕まえるために私も洗い場を飛び出す。
しかしここで事故が起きた。
飛び出した私はなにかにぶつかったのだ。
「おっと、大丈夫ですかシスター・セレーネ?」
顔を上げるとそこにいたのは司祭、ギークだったのだ。
私は慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません、司祭様」
シスターが走って司祭にぶつかるなど、場合によっては叱責どころの話ではないだろう。
「いつも子供たちのお世話ありがとうございます。さあ、いつまでもそんな格好をしていると風邪を引きますよ」
そこで私は己の格好を思い出しはっとした。
一糸まとわぬ全裸。
なにも隠さぬ状態で異性であるギークの前に立っていたのだ。
「も、申し訳ありません!」
私は慌てて手で恥部を隠した。
顔を赤くして狼狽える私。
それを微笑ましそうに見ているギークと、面白そうに見ている子供たち。
なんとも居たたまれなかった。
窓を開け、涼しい風で胸を満たす。
寝間着を脱ぎ修道服に着替えると食堂へと移動した。
かまどに火を入れ屑野菜のスープを作る。
黒パンを並べたら子供たちを起こしにいく。
「みんな朝よ」
子供部屋の窓を開けると年長者から順番に起きていく。
起きた子と協力しながら小さい子を連れて食堂へと向かう。
スープを取り分けると皆が着席したのを確認して食前の祈りを捧げる。
「主よ、この食事を糧として今日も生きていきます。我々に祝福を」
先程まで寝ぼけていたというのに、食事となると途端に騒がしくなる。
子供たちの元気溢れる姿に自然と笑みが漏れる。
ゴルドランド領は比較的豊かな土地であり、教会への支援も充実している。
しかし、食べ盛りの子供たちに毎食十分な食事を用意してあげられるわけではない。
今日のような質素な食事の日は少し申し訳ない気持ちになってしまう。
朝食が終わると掃除の時間だ。
年長者を中心に手分けをして教会と自分たちの居住スペースの清掃を行う。
私は洗濯を担当した。
子供たちが踏んだり揉んだりして洗ったものを一つずつ受け取って干していく。
「あっ! セレーネのパンツだ!」
洗濯物の中にあった私の下着を見つけた子が、広げて皆に見せつけていた。
「こら、遊ばないの」
「司祭様にも見せてこよ!」
「それはやめなさい!」
私は慌てて自分の下着を奪い取った。
子供たちのおもちゃにされるのは日常茶飯事なのですでに諦めているが、さすがに上司である司祭に自分の下着を見られるのは恥ずかしい。
洗濯が終わると畑仕事だ。
畑といっても教会の裏庭の一角にある小さなものだ。
管理しているのが私と子供たちだけなので、これ以上の規模となると手に追えなくなる。
少しでも子供たちにいろいろ食べてもらおうと私が作ったものであり、多少は食事の彩りに貢献してくれていると思う。
日が上りきったところで昼食になる。
といってもメニューは朝と同じなのだが。
午後は年長者二人を連れて買い物に行く。
食料だけでなく日用品なども買うとなると私一人では大変なので、子供とはいえ荷物持ちがいてくれるのはありがたい。
「セレーネちゃん、ほらこれ持ってきな」
野菜を買いに行くと店主のおじさんが籠に入った野菜を出してきてくれた。
それは形が悪かったり、多少虫に食われたりしている所謂不良品だが、食べる分にはなにも問題ない。
この店の店主は私たちの懐事情を知っていて、こうして不良品を融通してくれるのだ。
「いつもすみません」
「いいって、俺たちも教会には世話になってるんだから。
セレーネちゃんやガキたちには元気でいてもらいたいしな」
「ありがとうございます」
この店だけではない。
他のところでも同様に助けてもらっている。
本当にこの街の人たちには頭が上がらない。
買い物が終わるとお務めの時間だ。
今日は子供たちとともに街のゴミ拾いである。
子供たちとともにできる奉仕活動は限られているが、日頃の恩を返すために手を抜くようなことはない。
日が暮れてくると夕食の時間だ。
今日は少し奮発して肉を出した。
といっても屑肉を一切れだけだが、それでもやはり育ち盛りの子供たちにとって肉は嬉しいものなのだろう。
美味しそうに食べる姿を見ているだけでこちらまで幸せになる。
夕食が終わると洗い場に行って子供たちを一人ずつ洗っていく。
自分で洗える子もいるが、面倒がって適当に済まそうとする子もいるのでそういう子を捕まえて磨き上げるのだ。
「ほら、じっとして」
教会にいるのは皆孤児だ。
孤児はそれだけで見下されることもある。
身綺麗な服を買い与えてやることはできないが、せめて清潔にしてあげたいというのが私の願いだった。
「セレーネのことは俺たちが洗ってやるよ」
そう言って手の空いている子供たちが私の身体へと手を伸ばしてくる。
「そう言ってまた悪戯するんでしょう」
「そんなことしないって」
しないと言いつつ、子供たちの手付きは明らかに洗うためのものではなかった。
私の胸や尻を揉んだり、抱きついたり。
本当なら叱るべきなのだろうが、母親の温もりを知らない子供たちの生い立ちを考えると、これもその反動から来るスキンシップなのだろう。
いつも一生懸命小さな身体で私の手伝いをしてくれているのだから、私をおもちゃにすることくらい微笑ましいものだ。
「ありがとう。私はもういいから、風邪を引く前に身体を拭いて服を着なさい」
身体にまとわりつく子供たちを引き剥がしながら服を着せていく。
「あははは!」
「こら、待ちなさい」
裸のまま駆け出していく子を捕まえるために私も洗い場を飛び出す。
しかしここで事故が起きた。
飛び出した私はなにかにぶつかったのだ。
「おっと、大丈夫ですかシスター・セレーネ?」
顔を上げるとそこにいたのは司祭、ギークだったのだ。
私は慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません、司祭様」
シスターが走って司祭にぶつかるなど、場合によっては叱責どころの話ではないだろう。
「いつも子供たちのお世話ありがとうございます。さあ、いつまでもそんな格好をしていると風邪を引きますよ」
そこで私は己の格好を思い出しはっとした。
一糸まとわぬ全裸。
なにも隠さぬ状態で異性であるギークの前に立っていたのだ。
「も、申し訳ありません!」
私は慌てて手で恥部を隠した。
顔を赤くして狼狽える私。
それを微笑ましそうに見ているギークと、面白そうに見ている子供たち。
なんとも居たたまれなかった。
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