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9.時間は待ってくれないわ
しおりを挟む「ほら、お母さんのところに帰るわよ」
私は床に座り込んだまま呆然としているエミに手を伸ばした。
お父さんとは言わない。
彼はあくまで父親の代わりをしているだけなのだ。
必要以上にエミの前で存在を意識させなくてもいいだろう。
「……おばさんはたすけてくれたの?」
「ぐっ……、ええ、そうよ。
あと、私はおばさんじゃなくて、お姉さんだからね」
思わず頬の筋肉がひきつる。
確かにエミからしたら母親と同年代の私はおばさんだろう。
だが、その発言を認めるわけにはいかなかった。
私は今の姿が最高の状態だと考えたからこの街に帰ってきたのだ。
もし彼に年増だと思われたら、立ち直れる気がしない。
いや、優しい彼が年齢で相手を判断するはずがないのだが。
「おば……、おねえさんはどうしてたすけてくれたの?」
「……たまたまよ。
たまたまあなたが攫われるところを見たから助けただけ。
人を助けるのは良いことだから」
彼の隣に立つに相応しい優しい人。
今回は失態を犯してしまったが、見たところエミに外傷はないし、最悪の事態は免れたようだ。
寛大な彼なら今回の失態は多目に見てくれるだろう。
だが、その優しさに甘えてばかりもいられない。
二度と同じ失敗は繰り返さないようにしなければ。
「ひとをたすけるのはいいこと……。
……ねえ、わたしも。
わたしもおば……、おねえさんみたいに、だれかをたすけられるような、つよいひとになれる?」
「うん? まあ、頑張ればなれるんじゃないかしら」
知らないけど。
「ねえ、おば……、おねえさん。
わたしをおば……、おねえさんのでしにしてください!」
「弟子? なんで私がそんな……」
否定の言葉を口にしようとしたところで、ふと私はあることに気がついた。
(エミが強くなるってことは、彼の庇護を必要としなくなるってことよね?
ということはつまり、彼はエミの父親代わりをする必要がなくなるってことで……。
そうなれば彼は自由の身! これで私と結婚できるわ!)
素晴らしいことに気がついてしまった。
正直、彼の代わりになるような人物を見つけるというのは不可能に近い手段であり、またエミとその母親を亡き者にするというのは彼の意に反する行為だ。
難航するかと思われた矢先に、まさかこのような解決策が見つかるとは。
キラキラした瞳を向けてくるエミに向き合うと、私はコホンと咳払いをした。
「いいわ。あなたを私の弟子にしてあげる。
その代わり、早急に強くなりなさい。
時間は待ってくれないわ」
私の女としての魅力。
いくら寛大な彼だって、老婆になった私などと結婚したくないだろう。
いや、彼ならしてくれるかもしれないが、そんなの私が申し訳なくてしたくない。
エミには一刻も早く強くなってもらおう。
私が若さを失うその前に。
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