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6.旦那様の思惑
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「旦那様、一つお聞きしていいですか?」
「どうしたんだい、急に?」
「旦那様はよく私に何かを食べさせようとなさいますよね?
確かにどれも美味しいものばかりでしたが、どうしてそのようなことをなさるのかと。
美味しいものを勧めてくださるお気持ちは嬉しいのですが、あまり食べすぎると私も身体の管理が難しいのです。
旦那様も、丸々と太った私など見たくないでしょう?」
私の問いに、ロックウェルはゆっくりとその口を開いた。
「そういえば、まだメリーにちゃんと話したことなかったね。
どうして僕が君をパートナーとして選んだのか」
「自分で言うことではないかもしれませんが、私の容姿に惹かれて、ではないのですか?」
「もちろん、それもないわけではないけど。
一番の決め手は、メリーが美味しそうに料理を食べていたからなんだ」
「えっ!?」
私が美味しそうに料理を食べていたから?
そんな理由で?
「初めてパーティーで君を見かけたとき、それはもう美味しそうに料理を食べていたよ。
貴族のパーティーで出される料理は、どれも一流の料理人たちがその腕をふるって作ったものばかりだ。
でも、貴族たちが料理に目を向けることはない。
それは当然のことだけどね。
貴族にとってパーティーとは社交の場であり、料理を食べる場所ではない。
情報を交換し、仲間を作り、家同士の繋がりを作る。
そういうところだ」
ロックウェルの話を聞きながら、私は冷や汗を流していた。
(パーティーって、美味しいものをたくさん食べられる場所じゃなかったのね……)
貧乏な暮らしをしていた私にとって、パーティーで出される料理は滅多に食べることのできないご馳走ばかりだった。
会場を去れば、また質素な生活が待っている。
そう思うと、料理を食べる手が止まらなかったのだ。
「そんなある日、君を初めて見た僕は衝撃を受けたよ。
こんなに美味しそうに料理を食べる子がいるのかってね。
メリーの幸せそうな顔を見ていたら、いつの間にか僕は一目惚れしていた。
だから君をパートナーに選んだんだ」
嬉しそうに話すロックウェル。
実は私の食い意地が張っていただけだなんて、夢にも思っていない顔だ。
本当の私は玉の輿を狙って嫁いできただけだというのに。
なんだか、とても申し訳ない気分になる。
「旦那様のお気持ちはわかりましたわ。
少し恥ずかしいですが、私の食べている姿を旦那様が好きだと仰ってくださるのは、私もその……、嬉しいですし。
ですが、せめて食事のときだけにしてくださいね。
間食ばかりだと、体型の維持が難しくなるので」
私だって、美味しいものを食べるのは好きだ。
ロックウェルが私の食べる姿を好きだと言うのなら、少しくらい食べすぎてもいいのかもしれない。
その分、私が頑張って運動する時間を増やせばいいのだ。
「それともう一つ、言ってなかったことがあるんだけどね」
「何ですか?」
「実は僕、もう少しふくよかな方が好みなんだ。
具体的には腹周りの径が、身体の中で一番大きくなるくらいかな。
だから、メリーにはもっとたくさん食べてもらいたいな」
「絶っっ対に嫌ですわ!!」
まさかロックウェルがデブ専だったとは。
「まあまあ。ほら、デザートもあるよ」
ロックウェルの声に合わせて、メイドがデザートを運んでくる。
「あんな話を聞かされたあとで、食べられるわけがないでしょう!」
「ええっ!?食べてくれないのかい?
折角料理人たちが腕をふるって作ってくれたのに。
メリーはそれを残すというのかい?」
悲しそうな顔のロックウェル。
この顔が私に食べさせるためのものだということはわかっている。
だがそれでも、そんな顔を向けられたら、食べないわけにはいかないではないか。
「……間食はいただきませんからね」
私は渋々デザートを口へと運ぶ。
うん、美味しい。
「たくさん食べて、大きくなってね」
「言い方!!」
この先大丈夫だろうか。
私を太らせようとしてくる卑劣な旦那様から、逃げ惑う日々はこれからも続きそうだ。
「どうしたんだい、急に?」
「旦那様はよく私に何かを食べさせようとなさいますよね?
確かにどれも美味しいものばかりでしたが、どうしてそのようなことをなさるのかと。
美味しいものを勧めてくださるお気持ちは嬉しいのですが、あまり食べすぎると私も身体の管理が難しいのです。
旦那様も、丸々と太った私など見たくないでしょう?」
私の問いに、ロックウェルはゆっくりとその口を開いた。
「そういえば、まだメリーにちゃんと話したことなかったね。
どうして僕が君をパートナーとして選んだのか」
「自分で言うことではないかもしれませんが、私の容姿に惹かれて、ではないのですか?」
「もちろん、それもないわけではないけど。
一番の決め手は、メリーが美味しそうに料理を食べていたからなんだ」
「えっ!?」
私が美味しそうに料理を食べていたから?
そんな理由で?
「初めてパーティーで君を見かけたとき、それはもう美味しそうに料理を食べていたよ。
貴族のパーティーで出される料理は、どれも一流の料理人たちがその腕をふるって作ったものばかりだ。
でも、貴族たちが料理に目を向けることはない。
それは当然のことだけどね。
貴族にとってパーティーとは社交の場であり、料理を食べる場所ではない。
情報を交換し、仲間を作り、家同士の繋がりを作る。
そういうところだ」
ロックウェルの話を聞きながら、私は冷や汗を流していた。
(パーティーって、美味しいものをたくさん食べられる場所じゃなかったのね……)
貧乏な暮らしをしていた私にとって、パーティーで出される料理は滅多に食べることのできないご馳走ばかりだった。
会場を去れば、また質素な生活が待っている。
そう思うと、料理を食べる手が止まらなかったのだ。
「そんなある日、君を初めて見た僕は衝撃を受けたよ。
こんなに美味しそうに料理を食べる子がいるのかってね。
メリーの幸せそうな顔を見ていたら、いつの間にか僕は一目惚れしていた。
だから君をパートナーに選んだんだ」
嬉しそうに話すロックウェル。
実は私の食い意地が張っていただけだなんて、夢にも思っていない顔だ。
本当の私は玉の輿を狙って嫁いできただけだというのに。
なんだか、とても申し訳ない気分になる。
「旦那様のお気持ちはわかりましたわ。
少し恥ずかしいですが、私の食べている姿を旦那様が好きだと仰ってくださるのは、私もその……、嬉しいですし。
ですが、せめて食事のときだけにしてくださいね。
間食ばかりだと、体型の維持が難しくなるので」
私だって、美味しいものを食べるのは好きだ。
ロックウェルが私の食べる姿を好きだと言うのなら、少しくらい食べすぎてもいいのかもしれない。
その分、私が頑張って運動する時間を増やせばいいのだ。
「それともう一つ、言ってなかったことがあるんだけどね」
「何ですか?」
「実は僕、もう少しふくよかな方が好みなんだ。
具体的には腹周りの径が、身体の中で一番大きくなるくらいかな。
だから、メリーにはもっとたくさん食べてもらいたいな」
「絶っっ対に嫌ですわ!!」
まさかロックウェルがデブ専だったとは。
「まあまあ。ほら、デザートもあるよ」
ロックウェルの声に合わせて、メイドがデザートを運んでくる。
「あんな話を聞かされたあとで、食べられるわけがないでしょう!」
「ええっ!?食べてくれないのかい?
折角料理人たちが腕をふるって作ってくれたのに。
メリーはそれを残すというのかい?」
悲しそうな顔のロックウェル。
この顔が私に食べさせるためのものだということはわかっている。
だがそれでも、そんな顔を向けられたら、食べないわけにはいかないではないか。
「……間食はいただきませんからね」
私は渋々デザートを口へと運ぶ。
うん、美味しい。
「たくさん食べて、大きくなってね」
「言い方!!」
この先大丈夫だろうか。
私を太らせようとしてくる卑劣な旦那様から、逃げ惑う日々はこれからも続きそうだ。
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