縁の下の勇者

黒うさぎ

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61.依頼完了

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「まさか私がこんなに早く19階層まで探索できるようになる日が来るなんて思ってもみなかったわ」

「それには私も同意だな。
 魔法の腕には多少の自信はあったが、ダンジョンに潜った経験はないし森で魔物を倒した時もうちの騎士団に守ってもらいながらだったからな。
 一桁階層ならともかく、10階層以降へ潜るようになるには後数年はかかると思っていた」

 ミランダとフロスティの話し声を聞きながら脳内マップで隠し部屋を探す。

 ミランダも最初は伯爵令嬢が相手ということもあって、丁寧な口調を崩さなかったがさすがに何週間も一緒にダンジョンへ潜っていればフロスティの人となりも理解できたのであろう。

 今となってはすっかり口調も普段通りだし、フロスティもそんなミランダを好ましく思っているようで今ではすっかり意気投合している。

「……というわけで私とフロスティは現状に比較的満足しているわけだけど、どうしてケントはそんなに難しい顔をしているの?
 魔剣が見つからなくて焦るのもわかるけれど、もともと数年に一度しか発見されないような物よ。
 そこまで気負うこともないと思うのだけれど」

「報酬のことを気にしているなら心配ないぞ、しっかり1ヶ月分の報酬は払うつもりだ。
 正直私も1ヶ月で魔剣が入手できるとは思っていない。
 魔剣は入手できなかったかもしれないが、2人とダンジョンへ潜った経験は私にとって魔剣に匹敵するほどの価値ある物だと思っている。
 2人さえよければ依頼の延長か、このままパーティーに入れてもらいたいくらいだ」

 依頼の期限と20階層が迫っていることに対しての焦りが顔に出てしまっていたようだ。

 2人に気を使わせてしまった。

 2人を見ていると、ケントの今回の依頼に対する考えはつまらないこだわりに思えなくもないが、依頼に対して真摯になることは間違ったことではないと思うので、2人に今回の依頼に対するケントなりの考えを伝えた。

「ケントはそんなことを考えていたのか。
 確かに当初は上層から魔剣が入手できるかもしれないという話を聞いて、唯一の隠し部屋発見者であるケントとミランダに依頼したわけだが。
 ケントの実力を知った今だから言えるが、隠し部屋探しにおいてケント以上に適任な冒険者はたとえ高ランク冒険者であったとしてもいないと思うぞ。
 そしてケントはいくつもの隠し部屋をちゃんと見つけた。
 魔剣は見つかっていないかもしれないが、それはケントのせいではないし、私もそんなことで文句を言うつもりもない。
 冒険者としてやることをやったのだから、それ以上気にする必要はない」

「ケントは確かに強いし、その気になれば今すぐにでも高ランクの冒険者になれると思うわ。
 でもケントは冒険者になって1年も経っていないような新人なのよ。
 強い言い方かもしれないけど、いくら強くたって新人がどんな依頼でも完璧にこなせると思っていたらそれは驕りすぎよ。
 特に今回のような運の絡んでくる依頼は、高ランク冒険者にだって確実に達成できるものではないわ。
 ケントはケントなりに最善を尽くしたのだから、それでダメなら仕方ないと割り切らないと。
 これから依頼を受けて、失敗するたびにそんなことを考えていたら心が病んで冒険者なんて続けることができないわ」

 驕り、か。

 確かにそうかもしれない。

 女神様から貰ったスキルを使えばどんなことだってできる、どんな依頼だって達成できるという思いがあったことを否定できない。

 力に溺れないように意識していたつもりだったが、その考え自体が自分の力に酔っていた証拠なのかもしれない。

 女神様に貰ったスキルさえなければ、ケントなどただの凡人にすぎないのだ。

 そんな凡人が依頼の達成だけでなく、依頼された意味を考えるなどおこがましいにもほどがある。

 ケントはただ自分にできることだけをやればいいのだ。

 それでダメだったのなら仕方がない。

 それでいいじゃないか。

「ごめんね2人とも、もう大丈夫。
 俺は俺にできることだけをするよ。
 まずはこの階層の隠し部屋を見つけないとね」

 そう言ってケントは脳内マップで隠し部屋探しを再開した。

 どこか吹っ切れたような顔をしているケントの顔を見た2人は、微笑みながらケントの後を追いかけるのだった。


 ◇


 結論から言うと19階層の隠し部屋の宝箱にも魔剣は入っていなかった。

 元々依頼はフロスティの魔剣探しを手伝うというものだったので、魔剣を発見できなくとも1ヶ月の間フロスティと共に魔剣探しを行っていたので、依頼は達成扱いとなった。

 少し納得がいかないが、それは仕方ないことだと割り切ることにした。

 諭されなかったらいつまでもうじうじしていたかもしれないと思うと、2人には感謝しかない。

 9階層にあった隠し部屋についてだが、予定では魔剣を発見した場合9階層で見つけたと報告し、魔杖は11階層以降の隠し部屋で見つけた他のアイテム同様に秘匿しようかと思っていた。

 だが今回魔剣を期限内に見つけることはできなかったので、9階層の隠し部屋からは魔杖が発見されたと事実を報告することにした。

 魔杖の所有権についてだが、フロスティが所有することになった。

 フロスティは受け取れないと拒否していたのだが、1ヶ月の間、魔杖を振り回すフロスティの姿をずっと見ていたのだ。

 ケントもミランダもすでにあの魔杖はフロスティの物だという認識である。

 それにケントは魔杖が無くても魔法の火力は十分であるし、ミランダは戦闘に魔法を使わない。

 そのことをフロスティへ伝えると、しぶしぶといった様子で魔杖を受け取ってくれた。

 だがその口元が少し緩んでいたのをケントは見逃さなかった。

 フロスティとしても1ヶ月の間ずっと共にあった魔杖に愛着がわいていたのかもしれない。

 そんな感じで初めての指名依頼は完璧とはいえないものの、無事完了した。

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