61 / 65
61.依頼完了
しおりを挟む
「まさか私がこんなに早く19階層まで探索できるようになる日が来るなんて思ってもみなかったわ」
「それには私も同意だな。
魔法の腕には多少の自信はあったが、ダンジョンに潜った経験はないし森で魔物を倒した時もうちの騎士団に守ってもらいながらだったからな。
一桁階層ならともかく、10階層以降へ潜るようになるには後数年はかかると思っていた」
ミランダとフロスティの話し声を聞きながら脳内マップで隠し部屋を探す。
ミランダも最初は伯爵令嬢が相手ということもあって、丁寧な口調を崩さなかったがさすがに何週間も一緒にダンジョンへ潜っていればフロスティの人となりも理解できたのであろう。
今となってはすっかり口調も普段通りだし、フロスティもそんなミランダを好ましく思っているようで今ではすっかり意気投合している。
「……というわけで私とフロスティは現状に比較的満足しているわけだけど、どうしてケントはそんなに難しい顔をしているの?
魔剣が見つからなくて焦るのもわかるけれど、もともと数年に一度しか発見されないような物よ。
そこまで気負うこともないと思うのだけれど」
「報酬のことを気にしているなら心配ないぞ、しっかり1ヶ月分の報酬は払うつもりだ。
正直私も1ヶ月で魔剣が入手できるとは思っていない。
魔剣は入手できなかったかもしれないが、2人とダンジョンへ潜った経験は私にとって魔剣に匹敵するほどの価値ある物だと思っている。
2人さえよければ依頼の延長か、このままパーティーに入れてもらいたいくらいだ」
依頼の期限と20階層が迫っていることに対しての焦りが顔に出てしまっていたようだ。
2人に気を使わせてしまった。
2人を見ていると、ケントの今回の依頼に対する考えはつまらないこだわりに思えなくもないが、依頼に対して真摯になることは間違ったことではないと思うので、2人に今回の依頼に対するケントなりの考えを伝えた。
「ケントはそんなことを考えていたのか。
確かに当初は上層から魔剣が入手できるかもしれないという話を聞いて、唯一の隠し部屋発見者であるケントとミランダに依頼したわけだが。
ケントの実力を知った今だから言えるが、隠し部屋探しにおいてケント以上に適任な冒険者はたとえ高ランク冒険者であったとしてもいないと思うぞ。
そしてケントはいくつもの隠し部屋をちゃんと見つけた。
魔剣は見つかっていないかもしれないが、それはケントのせいではないし、私もそんなことで文句を言うつもりもない。
冒険者としてやることをやったのだから、それ以上気にする必要はない」
「ケントは確かに強いし、その気になれば今すぐにでも高ランクの冒険者になれると思うわ。
でもケントは冒険者になって1年も経っていないような新人なのよ。
強い言い方かもしれないけど、いくら強くたって新人がどんな依頼でも完璧にこなせると思っていたらそれは驕りすぎよ。
特に今回のような運の絡んでくる依頼は、高ランク冒険者にだって確実に達成できるものではないわ。
ケントはケントなりに最善を尽くしたのだから、それでダメなら仕方ないと割り切らないと。
これから依頼を受けて、失敗するたびにそんなことを考えていたら心が病んで冒険者なんて続けることができないわ」
驕り、か。
確かにそうかもしれない。
女神様から貰ったスキルを使えばどんなことだってできる、どんな依頼だって達成できるという思いがあったことを否定できない。
力に溺れないように意識していたつもりだったが、その考え自体が自分の力に酔っていた証拠なのかもしれない。
女神様に貰ったスキルさえなければ、ケントなどただの凡人にすぎないのだ。
そんな凡人が依頼の達成だけでなく、依頼された意味を考えるなどおこがましいにもほどがある。
ケントはただ自分にできることだけをやればいいのだ。
それでダメだったのなら仕方がない。
それでいいじゃないか。
「ごめんね2人とも、もう大丈夫。
俺は俺にできることだけをするよ。
まずはこの階層の隠し部屋を見つけないとね」
そう言ってケントは脳内マップで隠し部屋探しを再開した。
どこか吹っ切れたような顔をしているケントの顔を見た2人は、微笑みながらケントの後を追いかけるのだった。
◇
結論から言うと19階層の隠し部屋の宝箱にも魔剣は入っていなかった。
元々依頼はフロスティの魔剣探しを手伝うというものだったので、魔剣を発見できなくとも1ヶ月の間フロスティと共に魔剣探しを行っていたので、依頼は達成扱いとなった。
少し納得がいかないが、それは仕方ないことだと割り切ることにした。
諭されなかったらいつまでもうじうじしていたかもしれないと思うと、2人には感謝しかない。
9階層にあった隠し部屋についてだが、予定では魔剣を発見した場合9階層で見つけたと報告し、魔杖は11階層以降の隠し部屋で見つけた他のアイテム同様に秘匿しようかと思っていた。
だが今回魔剣を期限内に見つけることはできなかったので、9階層の隠し部屋からは魔杖が発見されたと事実を報告することにした。
魔杖の所有権についてだが、フロスティが所有することになった。
フロスティは受け取れないと拒否していたのだが、1ヶ月の間、魔杖を振り回すフロスティの姿をずっと見ていたのだ。
ケントもミランダもすでにあの魔杖はフロスティの物だという認識である。
それにケントは魔杖が無くても魔法の火力は十分であるし、ミランダは戦闘に魔法を使わない。
そのことをフロスティへ伝えると、しぶしぶといった様子で魔杖を受け取ってくれた。
だがその口元が少し緩んでいたのをケントは見逃さなかった。
フロスティとしても1ヶ月の間ずっと共にあった魔杖に愛着がわいていたのかもしれない。
そんな感じで初めての指名依頼は完璧とはいえないものの、無事完了した。
「それには私も同意だな。
魔法の腕には多少の自信はあったが、ダンジョンに潜った経験はないし森で魔物を倒した時もうちの騎士団に守ってもらいながらだったからな。
一桁階層ならともかく、10階層以降へ潜るようになるには後数年はかかると思っていた」
ミランダとフロスティの話し声を聞きながら脳内マップで隠し部屋を探す。
ミランダも最初は伯爵令嬢が相手ということもあって、丁寧な口調を崩さなかったがさすがに何週間も一緒にダンジョンへ潜っていればフロスティの人となりも理解できたのであろう。
今となってはすっかり口調も普段通りだし、フロスティもそんなミランダを好ましく思っているようで今ではすっかり意気投合している。
「……というわけで私とフロスティは現状に比較的満足しているわけだけど、どうしてケントはそんなに難しい顔をしているの?
魔剣が見つからなくて焦るのもわかるけれど、もともと数年に一度しか発見されないような物よ。
そこまで気負うこともないと思うのだけれど」
「報酬のことを気にしているなら心配ないぞ、しっかり1ヶ月分の報酬は払うつもりだ。
正直私も1ヶ月で魔剣が入手できるとは思っていない。
魔剣は入手できなかったかもしれないが、2人とダンジョンへ潜った経験は私にとって魔剣に匹敵するほどの価値ある物だと思っている。
2人さえよければ依頼の延長か、このままパーティーに入れてもらいたいくらいだ」
依頼の期限と20階層が迫っていることに対しての焦りが顔に出てしまっていたようだ。
2人に気を使わせてしまった。
2人を見ていると、ケントの今回の依頼に対する考えはつまらないこだわりに思えなくもないが、依頼に対して真摯になることは間違ったことではないと思うので、2人に今回の依頼に対するケントなりの考えを伝えた。
「ケントはそんなことを考えていたのか。
確かに当初は上層から魔剣が入手できるかもしれないという話を聞いて、唯一の隠し部屋発見者であるケントとミランダに依頼したわけだが。
ケントの実力を知った今だから言えるが、隠し部屋探しにおいてケント以上に適任な冒険者はたとえ高ランク冒険者であったとしてもいないと思うぞ。
そしてケントはいくつもの隠し部屋をちゃんと見つけた。
魔剣は見つかっていないかもしれないが、それはケントのせいではないし、私もそんなことで文句を言うつもりもない。
冒険者としてやることをやったのだから、それ以上気にする必要はない」
「ケントは確かに強いし、その気になれば今すぐにでも高ランクの冒険者になれると思うわ。
でもケントは冒険者になって1年も経っていないような新人なのよ。
強い言い方かもしれないけど、いくら強くたって新人がどんな依頼でも完璧にこなせると思っていたらそれは驕りすぎよ。
特に今回のような運の絡んでくる依頼は、高ランク冒険者にだって確実に達成できるものではないわ。
ケントはケントなりに最善を尽くしたのだから、それでダメなら仕方ないと割り切らないと。
これから依頼を受けて、失敗するたびにそんなことを考えていたら心が病んで冒険者なんて続けることができないわ」
驕り、か。
確かにそうかもしれない。
女神様から貰ったスキルを使えばどんなことだってできる、どんな依頼だって達成できるという思いがあったことを否定できない。
力に溺れないように意識していたつもりだったが、その考え自体が自分の力に酔っていた証拠なのかもしれない。
女神様に貰ったスキルさえなければ、ケントなどただの凡人にすぎないのだ。
そんな凡人が依頼の達成だけでなく、依頼された意味を考えるなどおこがましいにもほどがある。
ケントはただ自分にできることだけをやればいいのだ。
それでダメだったのなら仕方がない。
それでいいじゃないか。
「ごめんね2人とも、もう大丈夫。
俺は俺にできることだけをするよ。
まずはこの階層の隠し部屋を見つけないとね」
そう言ってケントは脳内マップで隠し部屋探しを再開した。
どこか吹っ切れたような顔をしているケントの顔を見た2人は、微笑みながらケントの後を追いかけるのだった。
◇
結論から言うと19階層の隠し部屋の宝箱にも魔剣は入っていなかった。
元々依頼はフロスティの魔剣探しを手伝うというものだったので、魔剣を発見できなくとも1ヶ月の間フロスティと共に魔剣探しを行っていたので、依頼は達成扱いとなった。
少し納得がいかないが、それは仕方ないことだと割り切ることにした。
諭されなかったらいつまでもうじうじしていたかもしれないと思うと、2人には感謝しかない。
9階層にあった隠し部屋についてだが、予定では魔剣を発見した場合9階層で見つけたと報告し、魔杖は11階層以降の隠し部屋で見つけた他のアイテム同様に秘匿しようかと思っていた。
だが今回魔剣を期限内に見つけることはできなかったので、9階層の隠し部屋からは魔杖が発見されたと事実を報告することにした。
魔杖の所有権についてだが、フロスティが所有することになった。
フロスティは受け取れないと拒否していたのだが、1ヶ月の間、魔杖を振り回すフロスティの姿をずっと見ていたのだ。
ケントもミランダもすでにあの魔杖はフロスティの物だという認識である。
それにケントは魔杖が無くても魔法の火力は十分であるし、ミランダは戦闘に魔法を使わない。
そのことをフロスティへ伝えると、しぶしぶといった様子で魔杖を受け取ってくれた。
だがその口元が少し緩んでいたのをケントは見逃さなかった。
フロスティとしても1ヶ月の間ずっと共にあった魔杖に愛着がわいていたのかもしれない。
そんな感じで初めての指名依頼は完璧とはいえないものの、無事完了した。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】徒花の王妃
つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。
何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。
「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる