縁の下の勇者

黒うさぎ

文字の大きさ
上 下
54 / 65

54.宝箱の中身

しおりを挟む
 王女様にお会いするとかなんとか話がずれてしまったが、今回ダンジョンへ潜った目的はフロスティの試練達成に必要な魔剣探しである。

 気を取り直して隠し部屋へと向かう3人。

 隠し部屋探しはしばらくしないと誓ったばかりだった気もするが仕方がない。

 そう、仕方がないんだ。

 それに大義名分さえあればケントだって隠し部屋を探したい。

 男子高校生として惹かれるものが確かにあるからだ。

 隠し部屋の中には8階層の時と同じ黒い金属質な光沢のある宝箱が1つ、中央に置かれていた。

「俺が空けるけど大丈夫?」

「問題ない」

 フロスティの許可を取り、罠の可能性を考慮して念のため氷壁越しに氷で宝箱を開けた。

 器用に氷魔法を操るケントに感嘆の声を上げるフロスティ。

 ミランダ以外の前でも堂々と氷魔法を使えるというのは、少し気分がいい。

 やはり罠の類はなかったようで、宝箱はすんなり開いた。

 1ヶ月の探索期間を設定してある依頼の2日目で目的の物を見つけてしまうというのも少し味気ないという気がしないでもない。

 ……そんなことを考えてしまったせいであろうか。

 3人で覗いた宝箱の中に入っていたものは魔剣ではなかった。

「これは……、杖?」

 いやいや、早合点はいけない。

 それは黒い木の根のようなものが3本よじり合うようになっていて、一方は細く、もう一方は内側に巻き込むように丸まっていた。

 どう見ても木製の杖にしか見えないが、まだ仕込み刀という可能性もある。

 ということで鑑定。

 ~鑑定~

【名称】魔杖 インカーネーションディザスター

 厄災の化身。魔法におけるMPの消費量を2倍、効果を4倍にする。


 うん、杖だね、わかっていたけど。

「魔剣じゃなくて魔杖みたいだね。
 フロスティ、この場合って依頼はどうなるの?」

「確かに魔杖も貴重な品ではあるが、試練のお題はあくまでも魔剣であるからな。
 依頼は続行で頼む」

 マジか~。

 探し続けること自体は良いんだけど、問題は隠し部屋の場所についてギルドへ報告しなければいけないことなんだよな。

 隠し部屋発見2回目ってだけでも目立つのに、魔剣に当たるまでいくつも隠し部屋を見つけたりするのはさすがに怪しまれる。

 10階層までのマッピングは既に終わっているので、仮に黙っていたとしても地図上に無い隠し部屋があればすぐにわかってしまう。

 まあそれだけなら誰が隠し部屋を見つけたかわからないので、しらばっくれることもできるのだが。

 今回の場合、魔剣捜索という依頼内容であるため、依頼が完了したイコール隠し部屋を見つけたということが明らかになってしまう。

 要するにギルドのマッピングが終わっていないところなら隠し部屋を見つけても黙っていればばれないわけだが。

「ミランダ、この前ボス部屋に挑戦してみないかって話したよね?」

「そうね。
 それがどうかしたの?」

「今から行こうか、ボス討伐」

「ええっ!?」

 ケントは2人にこれ以上上層で隠し部屋探しをしたくない理由を話した。

 フロスティには隠し部屋について心当たりがあると言って連れてきたので、ケントに隠し部屋を探す手段があるということを話した時は苦笑されたが、氷魔法を使えることを知られている以上、隠す必要もあるまい。

 ケントも普通の男子高校生であったから、目立つのは嫌だが自分の持つ能力については正直自慢したいのだ。

 自慢してちやほやされたいが、目立ちたくない。

 この反する気持ちのせいでなかなか自慢する機会に恵まれないのだが。

「ギルドのマッピングは10階層まで終わっていて、11階層はまだなんだよね?」

「ええ。
 11階層へ行くにはどうしても10階層のボス部屋を通らなくてはいけないから、なかなかマッピングが進まないみたいね」

 ダンジョンのマッピング作業はギルドからの依頼という形で冒険者が行っている。

 ただこのマッピング作業にも得手不得手がある。

 そもそも10階層まではギルドで発売しているマップがあるので、それを頼りに探索している冒険者にマッピング技能はほとんどない。

 10階層より下層に潜る冒険者ならばマッピング技能もあるが、自分たちの帰り道さえ分かればいいので道の長さなどは適当であり、他の冒険者が見ても使えるというクオリティでマッピングができる人材はそう多くない。

 そして冒険者にしてみても自分たちの絶好の狩場ポイントを他の冒険者に教えるということに抵抗があるという者もいる。

 当然ながら、下層へ行くほど魔物も強くなるため冒険者としての実力も必要になる。

 10階層までをマッピングしていた冒険者でも、10階層のボス部屋を突破できず、11階層以降のマッピングができないという事情もある。

 そんなこともありマッピングの依頼を受ける冒険者はそう多くないため、遅々としてマッピング作業が終わらないという現状に繋がる。

「11階層以降ならマッピングも終わっていないし、どれだけ隠し部屋を見つけても黙っていればばれないと思うんだ。
 もし魔剣を見つけたら9階層で見つけたことにすればいいしね。
 それに今はフロスティがいるからボス部屋を突破してもそれほど怪しくないと思うし」

 ミランダによるとフロスティの魔法使いとしての実力は攻撃力、発動速度、発射速度のどれをとっても最低でもCランクの冒険者に匹敵すると言っていたので、総合すればBランクくらいあるだろう。

 今見つけた魔杖をフロスティに渡せばさらに火力も上がるだろうし。

 そんなフロスティと一緒ならボスを倒しても不自然ではない。

 2人に確認したところ、とくに異議はないということなので早速10階層へ向かうことにした。

 いざボス戦だ!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...