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52.ファイアー!(アイス)
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「それにしてもケントはすごいな、料理といい、洗浄といいそんなことができる者など見たことないぞ!
どうやってお湯を作り出したのか未だによくわからないし、洗浄だって洗うだけでなく脱水まで行うとは。
ケントの水魔法はこの国随一ではないだろうか。
それにそのリュックサックだ。
物が大量に入る魔道具など聞いたこともないぞ。
間違いなく国宝級だ」
現在3人は9階層にて魔剣の捜索を行っている。
捜索方法は単純で、ケントの脳内マップの感知範囲内に隠し部屋が入り込むまでひたすら歩きまわるだけだ。
この階層に隠し部屋が存在すればこの方法で発見できるはずだ。
ちなみにフロスティには心当たりがいくつかあるからそこを回りたいと伝えてある。
基本的にひたすら歩いて、時々魔物を倒すだけなので暇を持て余したフロスティがやたらとケントを褒めてくる。
昨日の空中でスープを作ったのと洗浄がたいそう気になるらしい。
アイテムボックスについては、リュックサックから物を取り出しているように見せかけ、魔道具であるリュックサックの性能であるということにしてある。
実際は安物のただのリュックサックなのだが。
「どうだ、ケント。
我が家に仕える気はないか?
ケントほどの魔法使いならおそらく特別待遇でウチの魔術師団に入れるぞ」
突然のフロスティの勧誘にケントだけでなく、ミランダまでも驚きで視線をフロスティへ向けた。
「いやいや、落ち着いてよフロスティ。
魔術師団って言ったって基本的にランドンから離れないよね?
ランドンにいるなら普通に料理をしたり、水浴びをしたりすれば事足りるよ。
それに水魔法は攻撃力がないでしょ。
俺が魔術師団に入ったところで穀潰しにしかならないよ。
俺のこの技術は冒険者だからこそ力を発揮できるんだよ。
それにミランダとの冒険者活動も楽しいしね」
貴族お抱えの魔術師。
例えるならば地方公務員といったところだろうか。
魔術師と魔法使いという呼び方の違いはあるが、本質的にはスキルを使って魔法を発動する存在なので同じといっていい。
魔術師は国や貴族に使える者、魔法使いはそれ以外という程度の認識である。
もちろん魔術師は武力集団であるので場合によっては命の危険もあるだろうが、冒険者として魔法使いを続けていくよりよほど安定した収入を得られるだろう。
だが今のところケントに国や貴族へ仕えるつもりはない。
安定した収入は確かに望ましいものではあるが、今でもたいした危険もなく十分生活できている。
それに何よりミランダとの冒険者活動を楽しいと感じている自分がいる。
安定した収入を考えるのは、家庭を築いてからでも遅くないと思う。
ケントの能力ならフロスティの言う通り貴族にだって仕えることができるはずだ。
「そんなことは無いと思うが。
まあ、無理強いをするつもりはない。
気が変わったら私に声をかけてくれ、いつでも推薦させてもらうぞ」
ニカッと笑うフロスティ。
フロスティのような貴族になら仕えてもいいかもしれない。
将来の就職先候補に入れておこう。
チラッとミランダの様子を窺うと、ケントがミランダの誘いを断って少しほっとしたように見えた。
こそばゆいが、ミランダの中にケントの存在を感じることができて嬉しかった。
◇
「おっ」
昼食を挟んで探索することしばらく、ようやく脳内マップに隠し部屋らしき空間が映り込んだ。
良かった。
探索自体は脳内マップのおかげで非常に楽だが、この階層に隠し部屋があるかどうかは定かではなかった。
最悪、何日も無駄に9階層を歩き回る可能性もあったので探索初回に見つけることができたのは幸運といえよう。
「どうかしたのか?」
「いや、何でもないよ」
フロスティには脳内マップのことを話していないので、隠し部屋を見つけたことを教えようもない。
空間のある場所へのルートは比較的直線であったため、30分とかからず目的の場所に着くことができた。
「ここだ」
「この壁の向こうに隠し部屋があるのか?
私には周りの壁と同じに見えるのだが…」
コンコンと壁を叩きながら疑問を呈してくるフロスティ。
おそらく素材自体は周囲の壁と同じなのだろう、厚さが違うだけで。
ケントの力なら通路から通路へダンジョンの壁を破壊しながら進むことも不可能ではないと思うが、比較的近くに通路が並走している場所でも隠し部屋を塞ぐ壁の数倍の厚さがあるので、かなり骨が折れるだろう。
もちろん、やるつもりもないが。
「とりあえず壊してみるから2人とも少し下がっていて」
「む?
ケントが壊すのか。
なるほど、魔剣を使うのだな」
フロスティの言葉を聞き苦笑するケント。
確かにフロスティの前では魔剣でしか戦っていないので、そう思うのも仕方ないだろう。
おそらく魔剣でも壁を破壊することはできると思うが、鏨たがねで岩石を削るように少しずつしか壊せないと思うので効率が悪い。
なので前回と同じように魔力コーティングした氷塊で壁をぶち抜くことにする。
「今からやることも秘密でお願いね」
一言フロスティに声をかけてから、自分たちを守るための氷の壁を作り出す。
「なっ…!」
後ろでフロスティが驚く声が聞こえるが、話は後でいいだろう。
氷壁越しに魔力でコーティングした、直径1メートルほどの氷塊を生みだす。
「ファイアー!」
ドゴオォォォォオン
アイスなのにファイアかよ!?とセルフ突っ込みをしつつ壁の破片が飛散し終わるのを待つ。
砂埃が納まったところで氷壁を霧散させる。
「それじゃあ行こうか」
そう言って後ろを振り向くと、
「……」
放心しているフロスティと、そんなフロスティを見て苦笑するミランダがいた。
どうやってお湯を作り出したのか未だによくわからないし、洗浄だって洗うだけでなく脱水まで行うとは。
ケントの水魔法はこの国随一ではないだろうか。
それにそのリュックサックだ。
物が大量に入る魔道具など聞いたこともないぞ。
間違いなく国宝級だ」
現在3人は9階層にて魔剣の捜索を行っている。
捜索方法は単純で、ケントの脳内マップの感知範囲内に隠し部屋が入り込むまでひたすら歩きまわるだけだ。
この階層に隠し部屋が存在すればこの方法で発見できるはずだ。
ちなみにフロスティには心当たりがいくつかあるからそこを回りたいと伝えてある。
基本的にひたすら歩いて、時々魔物を倒すだけなので暇を持て余したフロスティがやたらとケントを褒めてくる。
昨日の空中でスープを作ったのと洗浄がたいそう気になるらしい。
アイテムボックスについては、リュックサックから物を取り出しているように見せかけ、魔道具であるリュックサックの性能であるということにしてある。
実際は安物のただのリュックサックなのだが。
「どうだ、ケント。
我が家に仕える気はないか?
ケントほどの魔法使いならおそらく特別待遇でウチの魔術師団に入れるぞ」
突然のフロスティの勧誘にケントだけでなく、ミランダまでも驚きで視線をフロスティへ向けた。
「いやいや、落ち着いてよフロスティ。
魔術師団って言ったって基本的にランドンから離れないよね?
ランドンにいるなら普通に料理をしたり、水浴びをしたりすれば事足りるよ。
それに水魔法は攻撃力がないでしょ。
俺が魔術師団に入ったところで穀潰しにしかならないよ。
俺のこの技術は冒険者だからこそ力を発揮できるんだよ。
それにミランダとの冒険者活動も楽しいしね」
貴族お抱えの魔術師。
例えるならば地方公務員といったところだろうか。
魔術師と魔法使いという呼び方の違いはあるが、本質的にはスキルを使って魔法を発動する存在なので同じといっていい。
魔術師は国や貴族に使える者、魔法使いはそれ以外という程度の認識である。
もちろん魔術師は武力集団であるので場合によっては命の危険もあるだろうが、冒険者として魔法使いを続けていくよりよほど安定した収入を得られるだろう。
だが今のところケントに国や貴族へ仕えるつもりはない。
安定した収入は確かに望ましいものではあるが、今でもたいした危険もなく十分生活できている。
それに何よりミランダとの冒険者活動を楽しいと感じている自分がいる。
安定した収入を考えるのは、家庭を築いてからでも遅くないと思う。
ケントの能力ならフロスティの言う通り貴族にだって仕えることができるはずだ。
「そんなことは無いと思うが。
まあ、無理強いをするつもりはない。
気が変わったら私に声をかけてくれ、いつでも推薦させてもらうぞ」
ニカッと笑うフロスティ。
フロスティのような貴族になら仕えてもいいかもしれない。
将来の就職先候補に入れておこう。
チラッとミランダの様子を窺うと、ケントがミランダの誘いを断って少しほっとしたように見えた。
こそばゆいが、ミランダの中にケントの存在を感じることができて嬉しかった。
◇
「おっ」
昼食を挟んで探索することしばらく、ようやく脳内マップに隠し部屋らしき空間が映り込んだ。
良かった。
探索自体は脳内マップのおかげで非常に楽だが、この階層に隠し部屋があるかどうかは定かではなかった。
最悪、何日も無駄に9階層を歩き回る可能性もあったので探索初回に見つけることができたのは幸運といえよう。
「どうかしたのか?」
「いや、何でもないよ」
フロスティには脳内マップのことを話していないので、隠し部屋を見つけたことを教えようもない。
空間のある場所へのルートは比較的直線であったため、30分とかからず目的の場所に着くことができた。
「ここだ」
「この壁の向こうに隠し部屋があるのか?
私には周りの壁と同じに見えるのだが…」
コンコンと壁を叩きながら疑問を呈してくるフロスティ。
おそらく素材自体は周囲の壁と同じなのだろう、厚さが違うだけで。
ケントの力なら通路から通路へダンジョンの壁を破壊しながら進むことも不可能ではないと思うが、比較的近くに通路が並走している場所でも隠し部屋を塞ぐ壁の数倍の厚さがあるので、かなり骨が折れるだろう。
もちろん、やるつもりもないが。
「とりあえず壊してみるから2人とも少し下がっていて」
「む?
ケントが壊すのか。
なるほど、魔剣を使うのだな」
フロスティの言葉を聞き苦笑するケント。
確かにフロスティの前では魔剣でしか戦っていないので、そう思うのも仕方ないだろう。
おそらく魔剣でも壁を破壊することはできると思うが、鏨たがねで岩石を削るように少しずつしか壊せないと思うので効率が悪い。
なので前回と同じように魔力コーティングした氷塊で壁をぶち抜くことにする。
「今からやることも秘密でお願いね」
一言フロスティに声をかけてから、自分たちを守るための氷の壁を作り出す。
「なっ…!」
後ろでフロスティが驚く声が聞こえるが、話は後でいいだろう。
氷壁越しに魔力でコーティングした、直径1メートルほどの氷塊を生みだす。
「ファイアー!」
ドゴオォォォォオン
アイスなのにファイアかよ!?とセルフ突っ込みをしつつ壁の破片が飛散し終わるのを待つ。
砂埃が納まったところで氷壁を霧散させる。
「それじゃあ行こうか」
そう言って後ろを振り向くと、
「……」
放心しているフロスティと、そんなフロスティを見て苦笑するミランダがいた。
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