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33.食事事情とトイレ事情
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時間は少し早かったが、テントを張って夕食を摂ることにした。
7階層寄りの壁際が空いていたのでそこにテントを張る。
アウトドア経験など無く、説明書のないテントを張ることができるのか今更焦りを覚えたが、ミランダは知っているようだったので指示通りに動いて何とか設営することができた。
夕食は火をおこす予定もなかったので、テントの中で食べることにした。
外だとアイテムボックスも使いにくいしね。
メニューは丸パンとスープ。
水魔法で熱湯を沸かして、そこへ具材を入れる。
味付けはシンプルに塩味。
料理は少ししていたが、如何せん現代調味料に頼り切ったものばかり。
コンソメとか言われてもどうやって作るのか見当もつかない。
ちなみに調理は鍋ではなく空中で行っている。
空中に浮かべた熱湯の中に具材を放り込み、内側に向けて力を込める。
これによって疑似的な圧力鍋と同じ空間になっているはず。
圧力鍋って具材に火が通りやすくて料理がおいしくなるイメージがあるよね、使ったことないけど。
「相変わらず器用なことをするわね…」
若干ミランダに呆れられているような気がしないでもないが、気にしない。
ミランダの前では自重無しでいこうと思う。
「こんなものかな」
アイテムボックスから取り出した器にスープを注ぎ、残りはそのままアイテムボックスへ。
個別保存できるって楽でいいね。
……入れてから気がついたが、一度水魔法の指揮下から離れた水ってまた操れるのだろうか。
気になってアイテムボックスを開き、スープを操ろうと意識を向ける。
すると、ケントの意思に従ってスープが動いた。
よかった、操れなかったら再加熱を魔法でできないし、器に注ぐのもアイテムボックスから直接っていうのはこぼしそうで嫌だったし。
それにこれを使えば相手の背後から攻撃もできるんじゃないか?
相手の背後にアイテムボックスを開いて、あらかじめ入れておいた水で攻撃。
なかなか凶悪ではないだろうか。
まあいいや、とりあえず食べよう。
ミランダにもスープを渡し、自分の器に口をつけて一口飲んでみる。
…なかなかいいんじゃないか。
シンプルな味付けだがしっかり野菜のうまみが溶け出している。
「おいしいわ。
ケントって料理もできるのね」
「ありがとう。
でもこれくらいの物しか作れないんだけどね。
泊りがけでダンジョンに潜るなら料理のレパートリーもどうにかしなきゃいけないね」
「そもそも、ダンジョン内で温かいものを食べられるだけでも十分なんだけどね。
全てのパーティーに水魔法を使える人がいるわけじゃないし、いてもケントほど自由に扱えるわけじゃないから。
ましてやアイテムボックスなんてケント以外使えないし。
基本的に保存食をかじりながら水を飲むだけよ」
保存食と水だけか。
1日、2日だけならそれでもいいかもしれないが、長期間ダンジョンに潜るとなると毎食保存食と水だけの生活はなかなか厳しいな。
水魔法のスキルをくれた女神様に感謝しておこう。
スープをお替りしながらケントは感謝を捧げた。
◇
「ケント、少しお願いがあるんだけど…」
食後のお茶(これも水魔法で沸かした)を飲んでいると、少し遠慮がちにミランダが話しかけてきた。
「何?
俺にできることなら手伝うよ」
「その…いいというまでテントの外に出ていてもらってもいいかしら」
「どうかしたの?」
「えっと、その…」
どうにも歯切れが悪い。
ケントには言えないことだろうか。
出会ってからまだ日も浅い、言えないことの一つや二つあってもおかしくはない。
しかし、いいというまで入るなとは鶴の恩返しだろうか。
「いいにくいことなら無理に言わなくてもいいよ。
とりあえず外に出ていればいいんだよね」
そういってテントから出ようとするとミランダが慌てたように言葉を投げかけてきた。
「違うの、別にケントに言えないようなことじゃないのよ。
ただ、初めての泊りがけでのダンジョン探索だからうっかりしていたというか。
というよりケントにも関係のあることだから言っておかなければいけないんだけど、ケントはダンジョンのマナーに疎いみたいだし」
「俺にも関係すること?」
「…トイレよ」
「…トイレ?」
「そうよ。
ダンジョン内では冒険者の死体が時間とともにダンジョンに吸収されるように、用を足した後の物も時間とともにダンジョンに吸収されるのよ。
だからダンジョン内で用を足したくなったときは仲間を見張りに立てて人気のないところでするか、安全地帯ならテントの中でするらしいわ」
確かにトイレ事情はダンジョンでは重要な問題だろう。
用を足している時ほど無防備な状態もそうあるまい。
ということはテントの消音機能は密談のためだけではなく、トイレのためにもついているのかもしれない。
「…なるほど、ごゆっくりどうぞ」
そう言ってケントはテントから出た。
出るときに顔を真っ赤にしたミランダの顔が見えた。
可愛かった。
しかし、今このテントを一枚隔てた向こう側でミランダが用を足しているのか。
なかなか興奮するシチュエーションである。
耳を澄ませてみたが中から音は聞こえない。
どうやらテントの消音機能はしっかり作動しているようだ、チッ。
とはいえ用を足した後の物はダンジョンが吸収してくれるようだが、その上で寝るというのは心理的にダメージを負うこともあるのではないだろうか。
よかった、うちのパーティーメンバーが野郎じゃなくて美人で。
ダメージどころか背徳感で興奮する。
数分後、顔を赤くしながら出てきたミランダに続いてテントに入り、こっそり深呼吸をする童貞をこじらせてコアな変態へと昇華したケントであった。
7階層寄りの壁際が空いていたのでそこにテントを張る。
アウトドア経験など無く、説明書のないテントを張ることができるのか今更焦りを覚えたが、ミランダは知っているようだったので指示通りに動いて何とか設営することができた。
夕食は火をおこす予定もなかったので、テントの中で食べることにした。
外だとアイテムボックスも使いにくいしね。
メニューは丸パンとスープ。
水魔法で熱湯を沸かして、そこへ具材を入れる。
味付けはシンプルに塩味。
料理は少ししていたが、如何せん現代調味料に頼り切ったものばかり。
コンソメとか言われてもどうやって作るのか見当もつかない。
ちなみに調理は鍋ではなく空中で行っている。
空中に浮かべた熱湯の中に具材を放り込み、内側に向けて力を込める。
これによって疑似的な圧力鍋と同じ空間になっているはず。
圧力鍋って具材に火が通りやすくて料理がおいしくなるイメージがあるよね、使ったことないけど。
「相変わらず器用なことをするわね…」
若干ミランダに呆れられているような気がしないでもないが、気にしない。
ミランダの前では自重無しでいこうと思う。
「こんなものかな」
アイテムボックスから取り出した器にスープを注ぎ、残りはそのままアイテムボックスへ。
個別保存できるって楽でいいね。
……入れてから気がついたが、一度水魔法の指揮下から離れた水ってまた操れるのだろうか。
気になってアイテムボックスを開き、スープを操ろうと意識を向ける。
すると、ケントの意思に従ってスープが動いた。
よかった、操れなかったら再加熱を魔法でできないし、器に注ぐのもアイテムボックスから直接っていうのはこぼしそうで嫌だったし。
それにこれを使えば相手の背後から攻撃もできるんじゃないか?
相手の背後にアイテムボックスを開いて、あらかじめ入れておいた水で攻撃。
なかなか凶悪ではないだろうか。
まあいいや、とりあえず食べよう。
ミランダにもスープを渡し、自分の器に口をつけて一口飲んでみる。
…なかなかいいんじゃないか。
シンプルな味付けだがしっかり野菜のうまみが溶け出している。
「おいしいわ。
ケントって料理もできるのね」
「ありがとう。
でもこれくらいの物しか作れないんだけどね。
泊りがけでダンジョンに潜るなら料理のレパートリーもどうにかしなきゃいけないね」
「そもそも、ダンジョン内で温かいものを食べられるだけでも十分なんだけどね。
全てのパーティーに水魔法を使える人がいるわけじゃないし、いてもケントほど自由に扱えるわけじゃないから。
ましてやアイテムボックスなんてケント以外使えないし。
基本的に保存食をかじりながら水を飲むだけよ」
保存食と水だけか。
1日、2日だけならそれでもいいかもしれないが、長期間ダンジョンに潜るとなると毎食保存食と水だけの生活はなかなか厳しいな。
水魔法のスキルをくれた女神様に感謝しておこう。
スープをお替りしながらケントは感謝を捧げた。
◇
「ケント、少しお願いがあるんだけど…」
食後のお茶(これも水魔法で沸かした)を飲んでいると、少し遠慮がちにミランダが話しかけてきた。
「何?
俺にできることなら手伝うよ」
「その…いいというまでテントの外に出ていてもらってもいいかしら」
「どうかしたの?」
「えっと、その…」
どうにも歯切れが悪い。
ケントには言えないことだろうか。
出会ってからまだ日も浅い、言えないことの一つや二つあってもおかしくはない。
しかし、いいというまで入るなとは鶴の恩返しだろうか。
「いいにくいことなら無理に言わなくてもいいよ。
とりあえず外に出ていればいいんだよね」
そういってテントから出ようとするとミランダが慌てたように言葉を投げかけてきた。
「違うの、別にケントに言えないようなことじゃないのよ。
ただ、初めての泊りがけでのダンジョン探索だからうっかりしていたというか。
というよりケントにも関係のあることだから言っておかなければいけないんだけど、ケントはダンジョンのマナーに疎いみたいだし」
「俺にも関係すること?」
「…トイレよ」
「…トイレ?」
「そうよ。
ダンジョン内では冒険者の死体が時間とともにダンジョンに吸収されるように、用を足した後の物も時間とともにダンジョンに吸収されるのよ。
だからダンジョン内で用を足したくなったときは仲間を見張りに立てて人気のないところでするか、安全地帯ならテントの中でするらしいわ」
確かにトイレ事情はダンジョンでは重要な問題だろう。
用を足している時ほど無防備な状態もそうあるまい。
ということはテントの消音機能は密談のためだけではなく、トイレのためにもついているのかもしれない。
「…なるほど、ごゆっくりどうぞ」
そう言ってケントはテントから出た。
出るときに顔を真っ赤にしたミランダの顔が見えた。
可愛かった。
しかし、今このテントを一枚隔てた向こう側でミランダが用を足しているのか。
なかなか興奮するシチュエーションである。
耳を澄ませてみたが中から音は聞こえない。
どうやらテントの消音機能はしっかり作動しているようだ、チッ。
とはいえ用を足した後の物はダンジョンが吸収してくれるようだが、その上で寝るというのは心理的にダメージを負うこともあるのではないだろうか。
よかった、うちのパーティーメンバーが野郎じゃなくて美人で。
ダメージどころか背徳感で興奮する。
数分後、顔を赤くしながら出てきたミランダに続いてテントに入り、こっそり深呼吸をする童貞をこじらせてコアな変態へと昇華したケントであった。
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