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雪女ちゃんの日常
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「あ゛つ゛い゛~~」
射すような日の光がジリジリと降り注ぐ。
この季節に窓際の席になってしまうといつも後悔する。
貧乏なうちの学校にはエアコンなんて気のきいたものはない。
窓は既に全開だが、風が吹かないことには冷房としての効果は薄いといわざるをえない。
背もたれに身を預け天井を仰ぐと、濡れた額に前髪が張りつく。
半袖のカーディガンから覗くワイシャツは既に肌の色を透かしていた。
(そろそろ着替えなきゃ……)
そう思うが暑さによる倦怠感で動く気力が湧いてこない。
「雪穂は今日もびしょ濡れだね~」
額に重さが加わった。
目を開くとペットボトルを持った奏の顔が逆さに見えた。
「お茶買ってきたよ」
「おおっ!
奏愛してる!!」
がばっと起き上がると二人分のお茶を手に取る。
そしてシャーベット状になるまで冷やしていく。
「相変わらず便利だね~、雪穂印の冷凍庫」
「よかったら代わってあげるよ。
今なら全身の保湿効果もついてくるよ」
そういってずぶ濡れの制服を見せながら、シャーベットになった奏の分のお茶を手渡す。
「それは嫌だな……」
奏は苦笑をこぼした。
雪穂は雪女である。
正確にいうと先祖返りというべきか。
大昔に雪女と子をなしたご先祖様がいたらしい。
以降子孫の中から時々雪穂のような雪女の性質を持った赤子が産まれるようになったそうだ。
先祖返りは珍しいことではあるが、ないわけではない。
国内でも、雪穂の他にも祖返りの性質を持った人々はそれなりに存在する。
先祖返りの性質は珍しいので場合によってはいじめの対象になることもあるが、幸い雪穂がその類いの悪意に晒されたことはなかった。
所詮いじめなどというものは本人の振る舞いと周囲の環境によって左右されるに過ぎないのだ。
雪穂の雪女の性質はそれなりに強力だ。
ペットボトルのお茶を凍らせることくらいなら片手間でできる。
その力を人に向かって使えば危険極まりないが、そんなもの拳を振り回せば誰だって危険人物になりえる。
雪穂にそんな暴力的な思考はないし、今でこそ受け入れているものの、こんな力必要ないとさえ考えているくらいだ。
一見便利な雪女の性質だが、日常生活を送る上では不便な面の方が目立つ。
まず、常人に比べ暑さに弱い。
夏なんて雪穂にとって地獄に等しい。
実際のところ頼めば窓際の席を替わって貰うことくらいはできるだろう。
だが雪穂としては雪女の性質のせいで特別扱いはされたくなかった。
皆と同じでいられるためなら暑さくらい我慢しようと思えた。
まあ、割りと頻繁にその決意は揺らいでいるのだが。
そして結露する。
雪穂はあまり汗をかかない。
汗腺がほとんどないのだ。
しかし極端に温度の低い体が夏の日射しに晒されると、体表面が結露してしまう。
そのためこの季節はあっという間にびしょ濡れになってしまい、学校にいる間だけでも三回は着替えなくてはならない。
かなり手間ではあるが、高校生にもなるとさすがにそんな生活にも慣れてしまった。
「そろそろ着替えに行く?
つきあうよ」
「そだね、行くとするか」
キンキンに冷えたお茶を喉に流し込み席を立つ。
共学ゆえ、さすがに教室で着替えるのははばかられるのだ。
「カーディガンを脱ぐだけでも違うんだろうけどなー」
「透けちゃうもんね。
私は脱いでもいいと思うけど、そんなことしたら男子が雪穂に夢中で授業に集中できなくなっちゃうし」
「夢中かどうかはしらないけど、恥ずかしいしね」
いくらキャミソールを着ているとはいえ、ずぶ濡れになればそれなりに透けてしまう。
どちらかといえばサッパリとした性格の雪穂ではあるが、それでも男子の目はさすがに気になってしまう。
「せっかく雪女なんだから自分で自分を冷やせればいいのにね~」
「できなくはないけど疲れるんだよね、冷気出すのも。
ほら、あれ。
うちわで扇いでいる間は涼しいけど、止めた途端倍の暑さに襲われる感じ」
「なるほどね~。
いつも頑張っていて偉いね~」
よしよしと奏に頭を撫でられる。
「でしょ。
だから今度ご褒美に駅前のアイス奢って」
「まったくすぐ調子にのるんだから。
この、この」
「ごめんて!」
優しくこずかれた腕をさすりながら更衣室の扉を開ける。
手早く服を脱ぐと、予備の制服に着替える。
雪穂は親戚からお下がりとして貰った分も含め5着も制服を所持している。
かなりいたい出費だったが、こればかりは仕方ない。
「雪穂って濡れた服の脱衣選手権あったら優勝できそうだよね。
普通濡れた服って張りついてそんなに早く着替えられないし」
「そうかな」
水浸しの制服をビニール袋に入れながら答える。
確かに脱ぎにくくはあるが、慣れてしまえばどうということはない。
「雪穂~」
突然奏が背後から抱きついてきた。
「冷たくて気持ちいい~!
やっぱり着替えた後の雪穂に抱きついているこの時間が一番幸せ~」
「冬にも同じ台詞をいえるなら、奏専属の抱き枕になってあげるよ。
ほら、次の授業始まるし行くよ」
雪穂は抱きつく奏を引きずりながら更衣室を後にした。
射すような日の光がジリジリと降り注ぐ。
この季節に窓際の席になってしまうといつも後悔する。
貧乏なうちの学校にはエアコンなんて気のきいたものはない。
窓は既に全開だが、風が吹かないことには冷房としての効果は薄いといわざるをえない。
背もたれに身を預け天井を仰ぐと、濡れた額に前髪が張りつく。
半袖のカーディガンから覗くワイシャツは既に肌の色を透かしていた。
(そろそろ着替えなきゃ……)
そう思うが暑さによる倦怠感で動く気力が湧いてこない。
「雪穂は今日もびしょ濡れだね~」
額に重さが加わった。
目を開くとペットボトルを持った奏の顔が逆さに見えた。
「お茶買ってきたよ」
「おおっ!
奏愛してる!!」
がばっと起き上がると二人分のお茶を手に取る。
そしてシャーベット状になるまで冷やしていく。
「相変わらず便利だね~、雪穂印の冷凍庫」
「よかったら代わってあげるよ。
今なら全身の保湿効果もついてくるよ」
そういってずぶ濡れの制服を見せながら、シャーベットになった奏の分のお茶を手渡す。
「それは嫌だな……」
奏は苦笑をこぼした。
雪穂は雪女である。
正確にいうと先祖返りというべきか。
大昔に雪女と子をなしたご先祖様がいたらしい。
以降子孫の中から時々雪穂のような雪女の性質を持った赤子が産まれるようになったそうだ。
先祖返りは珍しいことではあるが、ないわけではない。
国内でも、雪穂の他にも祖返りの性質を持った人々はそれなりに存在する。
先祖返りの性質は珍しいので場合によってはいじめの対象になることもあるが、幸い雪穂がその類いの悪意に晒されたことはなかった。
所詮いじめなどというものは本人の振る舞いと周囲の環境によって左右されるに過ぎないのだ。
雪穂の雪女の性質はそれなりに強力だ。
ペットボトルのお茶を凍らせることくらいなら片手間でできる。
その力を人に向かって使えば危険極まりないが、そんなもの拳を振り回せば誰だって危険人物になりえる。
雪穂にそんな暴力的な思考はないし、今でこそ受け入れているものの、こんな力必要ないとさえ考えているくらいだ。
一見便利な雪女の性質だが、日常生活を送る上では不便な面の方が目立つ。
まず、常人に比べ暑さに弱い。
夏なんて雪穂にとって地獄に等しい。
実際のところ頼めば窓際の席を替わって貰うことくらいはできるだろう。
だが雪穂としては雪女の性質のせいで特別扱いはされたくなかった。
皆と同じでいられるためなら暑さくらい我慢しようと思えた。
まあ、割りと頻繁にその決意は揺らいでいるのだが。
そして結露する。
雪穂はあまり汗をかかない。
汗腺がほとんどないのだ。
しかし極端に温度の低い体が夏の日射しに晒されると、体表面が結露してしまう。
そのためこの季節はあっという間にびしょ濡れになってしまい、学校にいる間だけでも三回は着替えなくてはならない。
かなり手間ではあるが、高校生にもなるとさすがにそんな生活にも慣れてしまった。
「そろそろ着替えに行く?
つきあうよ」
「そだね、行くとするか」
キンキンに冷えたお茶を喉に流し込み席を立つ。
共学ゆえ、さすがに教室で着替えるのははばかられるのだ。
「カーディガンを脱ぐだけでも違うんだろうけどなー」
「透けちゃうもんね。
私は脱いでもいいと思うけど、そんなことしたら男子が雪穂に夢中で授業に集中できなくなっちゃうし」
「夢中かどうかはしらないけど、恥ずかしいしね」
いくらキャミソールを着ているとはいえ、ずぶ濡れになればそれなりに透けてしまう。
どちらかといえばサッパリとした性格の雪穂ではあるが、それでも男子の目はさすがに気になってしまう。
「せっかく雪女なんだから自分で自分を冷やせればいいのにね~」
「できなくはないけど疲れるんだよね、冷気出すのも。
ほら、あれ。
うちわで扇いでいる間は涼しいけど、止めた途端倍の暑さに襲われる感じ」
「なるほどね~。
いつも頑張っていて偉いね~」
よしよしと奏に頭を撫でられる。
「でしょ。
だから今度ご褒美に駅前のアイス奢って」
「まったくすぐ調子にのるんだから。
この、この」
「ごめんて!」
優しくこずかれた腕をさすりながら更衣室の扉を開ける。
手早く服を脱ぐと、予備の制服に着替える。
雪穂は親戚からお下がりとして貰った分も含め5着も制服を所持している。
かなりいたい出費だったが、こればかりは仕方ない。
「雪穂って濡れた服の脱衣選手権あったら優勝できそうだよね。
普通濡れた服って張りついてそんなに早く着替えられないし」
「そうかな」
水浸しの制服をビニール袋に入れながら答える。
確かに脱ぎにくくはあるが、慣れてしまえばどうということはない。
「雪穂~」
突然奏が背後から抱きついてきた。
「冷たくて気持ちいい~!
やっぱり着替えた後の雪穂に抱きついているこの時間が一番幸せ~」
「冬にも同じ台詞をいえるなら、奏専属の抱き枕になってあげるよ。
ほら、次の授業始まるし行くよ」
雪穂は抱きつく奏を引きずりながら更衣室を後にした。
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