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5.嫌がらせをしない悪役令嬢
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「ロ、ロンド殿下……」
さすがのリリアットも、王子の前では鳴りを潜めるらしい。
声もいつもより小さいし、なんだか新鮮だ。
「貴様シーアを侮辱するだけではあきたらず、またなにか押しつけていたな。
なんだこれは、スポンジだと?
意味が分からん」
ロンドは私の手にあったスポンジを手に取りながらリリアットを睨む。
ああ、私のスポンジ……。
「殿下、これには訳が……」
「貴様の言い訳など聞きたくないわ。
もういい、貴様との婚約など破棄してくれる!」
「そ、そんな……」
怒りの形相のロンドと、その前に崩れ落ちるリリアット。
二人は婚約者だったんだっけ。
そんな設定もあったような、なかったような……。
それにしても、いきなり婚約破棄だなんて。
いくらリリアットが悪役令嬢ポジションのキャラだからって、なにもしていないのに、むしろいろいろ助けてもらっているのに、婚約を破棄されるのはあんまりだろう。
仕方ない、ここは私が一肌脱ぐとしよう。
「殿下、私は大丈夫ですから。
どうか、お考え直しください。
婚約破棄だなんて、リリアット様があまりにかわいそうです」
「シーアさん……」
涙ぐんだ瞳を向けてくるリリアット。
いつもお世話になっているのだ。
これくらい、お安いご用である。
私はいつもありがとうの意味を込めて、リリアットに微笑んだ。
「シーア、お前が優しい人だということはよく知っている。
だが、いくらなんでも、お前をいじめている奴までかばう必要はないんだぞ」
「私はリリアット様にいじめられてなどおりません。
そうですよね、リリアット様?」
「そ、それは……」
婚約破棄を突きつけられて動揺しているのだろう。
思うように言葉を紡げないでいる姿を見ると、なんだか不憫に思えた。
「大丈夫です。
私はリリアット様の味方ですから」
私は安心させるように、へたりこんでいるリリアットの前にしゃがむと笑顔を向けた。
「シーアさん……っ!
わ、私は……、私はああぁぁっ!!」
頬を涙で濡らしたリリアットは、そのまま私へと抱きついてきた。
抱き合ったことで感じる、同い年とは思えないリリアットの発育に、私は独りダメージをくらう。
「で、殿下、ご覧ください。
もし本当にいじめの関係にあるとしたら、こうして抱き合うことなどしないでしょう?」
「それはそうかもしれないが。
でもなにか違うような……」
どこか納得していない様子のロンドだが、その顔からはすっかり怒りの色が抜けているように見える。
「ほらリリアット様、泣き止んでください。
殿下ももう怒っていませんから」
「シーアさん……。
申し訳ありませんでした。私、心を入れ替えますわ!」
リリアットの濡れた瞳には、なにか決意したような強い意志が見える。
「そんな、別にリリアット様はなにも悪いことなんて……」
「これからはシーアさんのためにこの身を捧げますわ!」
「いや、いいですって!意味分からないですよ!」
「さしあたっては、これからはシーアさんではなく、シーアお姉様とお呼びしますわ!」
「それは止めて!」
そのプロポーションでそんなことを言われると、なんだかいたたまれなくなる。
私はすがりつくリリアットを引き剥がすと、ロンドの手からスポンジを奪い、自室へと逃げ帰った。
私はただ、静かに過ごしたかっただけなのに。
どうしてこうも絡まれるのだろう。
どうせ絡んでくるなら、リリアットも悪役令嬢らしく嫌がらせをしてくれれば、私も動きやすいのに。
人生とはままならないものだと、私はしみじみ思った。
ちなみに、スポンジのざらざらした方でセーターの毛玉を擦り取ったので、もうみすぼらしいとは言わせない。
さすがのリリアットも、王子の前では鳴りを潜めるらしい。
声もいつもより小さいし、なんだか新鮮だ。
「貴様シーアを侮辱するだけではあきたらず、またなにか押しつけていたな。
なんだこれは、スポンジだと?
意味が分からん」
ロンドは私の手にあったスポンジを手に取りながらリリアットを睨む。
ああ、私のスポンジ……。
「殿下、これには訳が……」
「貴様の言い訳など聞きたくないわ。
もういい、貴様との婚約など破棄してくれる!」
「そ、そんな……」
怒りの形相のロンドと、その前に崩れ落ちるリリアット。
二人は婚約者だったんだっけ。
そんな設定もあったような、なかったような……。
それにしても、いきなり婚約破棄だなんて。
いくらリリアットが悪役令嬢ポジションのキャラだからって、なにもしていないのに、むしろいろいろ助けてもらっているのに、婚約を破棄されるのはあんまりだろう。
仕方ない、ここは私が一肌脱ぐとしよう。
「殿下、私は大丈夫ですから。
どうか、お考え直しください。
婚約破棄だなんて、リリアット様があまりにかわいそうです」
「シーアさん……」
涙ぐんだ瞳を向けてくるリリアット。
いつもお世話になっているのだ。
これくらい、お安いご用である。
私はいつもありがとうの意味を込めて、リリアットに微笑んだ。
「シーア、お前が優しい人だということはよく知っている。
だが、いくらなんでも、お前をいじめている奴までかばう必要はないんだぞ」
「私はリリアット様にいじめられてなどおりません。
そうですよね、リリアット様?」
「そ、それは……」
婚約破棄を突きつけられて動揺しているのだろう。
思うように言葉を紡げないでいる姿を見ると、なんだか不憫に思えた。
「大丈夫です。
私はリリアット様の味方ですから」
私は安心させるように、へたりこんでいるリリアットの前にしゃがむと笑顔を向けた。
「シーアさん……っ!
わ、私は……、私はああぁぁっ!!」
頬を涙で濡らしたリリアットは、そのまま私へと抱きついてきた。
抱き合ったことで感じる、同い年とは思えないリリアットの発育に、私は独りダメージをくらう。
「で、殿下、ご覧ください。
もし本当にいじめの関係にあるとしたら、こうして抱き合うことなどしないでしょう?」
「それはそうかもしれないが。
でもなにか違うような……」
どこか納得していない様子のロンドだが、その顔からはすっかり怒りの色が抜けているように見える。
「ほらリリアット様、泣き止んでください。
殿下ももう怒っていませんから」
「シーアさん……。
申し訳ありませんでした。私、心を入れ替えますわ!」
リリアットの濡れた瞳には、なにか決意したような強い意志が見える。
「そんな、別にリリアット様はなにも悪いことなんて……」
「これからはシーアさんのためにこの身を捧げますわ!」
「いや、いいですって!意味分からないですよ!」
「さしあたっては、これからはシーアさんではなく、シーアお姉様とお呼びしますわ!」
「それは止めて!」
そのプロポーションでそんなことを言われると、なんだかいたたまれなくなる。
私はすがりつくリリアットを引き剥がすと、ロンドの手からスポンジを奪い、自室へと逃げ帰った。
私はただ、静かに過ごしたかっただけなのに。
どうしてこうも絡まれるのだろう。
どうせ絡んでくるなら、リリアットも悪役令嬢らしく嫌がらせをしてくれれば、私も動きやすいのに。
人生とはままならないものだと、私はしみじみ思った。
ちなみに、スポンジのざらざらした方でセーターの毛玉を擦り取ったので、もうみすぼらしいとは言わせない。
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