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29.完全無欠少女、相談!
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人族連合会議。
魔族との戦争に対する作戦立案、対策を目的としたこの会議は40年前から年に一度開催されている。
人族のほとんどの国が参加しているこの会議は参加各国が持ち回りで開催しており、今年はウィリムス王国が主催する番だった。
広い会議室に各国のトップが一堂に会する光景は圧巻の一言だろう。
「……やはりそちらでも同じか」
「はい。
我が国の維持する戦線もここ1年ほど静かなものです」
魔族の占有する領土と隣接する各国はそれぞれ戦線を維持している。
日々魔族からの攻勢を食い止めていた各戦線だが、その攻勢がここ1年ほどみられない。
このようなこと長きに渡る魔族との争いの歴史において一度たりともなかった。
「いったいどういうことだ?」
「魔族内で何かトラブルでもあったのでしょうか?」
「いや、そうとも限らない。
あえて我々に隙を晒すことで奴らの領土へと誘い込み、罠にかける算段を企てている可能性だってある」
「だったらこのまま静観しているのか?」
「いや、今こそ攻めいる好機なのではないか」
様々な意見が飛び交うが、どれが正しい選択なのか誰にもわからない。
あまりにも情報が少なすぎるのだ。
「全く、魔王という存在は攻めて来ても厄介だが、攻めてこなくてもこうも厄介な存在なのか」
誰ともなく呟かれたその言葉に、心の中で首肯する一同であった。
◇
同時刻、魔王城。
魔王とは魔族における武の象徴であると同時に魔族を統べる王でもある。
その為戦場に立つ将としての仕事だけではなく、王としての執務もこなさなければならない。
執務室でペンを片手に書類に目を通す魔王。
戦場での恐ろしい魔王の姿しか知らない人族が見たら己の目を疑うかもしれない。
ペンを滑らせる音だけが響く静かな空間。
そんな穏やかな時間は唐突に終わりを告げた。
バンッ
ノックもなしに開かれる扉。
「魔王、遊びに来たわ!」
そこには笑顔を振り撒くミエリィの姿があった。
「……城内に転移するなと前に言ったはずだが」
「ええ、だからちゃんと門の前に転移したわ」
「門番にはもしお前が来たら報告するよう言ってあったはずだ」
「さあ?
走ってきたから途中で追い抜いちゃったのかもしれないわね」
その時1人の兵が執務室へと入ってきた。
「失礼します。
ミエリィ殿がいらっしゃいまし、た?」
室内にミエリィの姿を認めて困惑する兵士。
普通なら仕事の不備を咎めるところかもしれないが、ミエリィを相手に確実な仕事をこなせというのも酷だろう。
「……見ての通り既に知ってる。
下がっていいぞ」
「はっ。
失礼します」
扉を閉めて兵士は部屋を出ていった。
「……はあ、今日は何のようだ?」
「魔王とお話をしに来たの!」
「俺は仕事中なのだが」
「まあ、それは大変そうね。
私に手伝えることはあるかしら?」
純粋な瞳で見つめてくるミエリィ。
仮にも敵である人族のミエリィに機密情報の塊である書類仕事などさせられるわけがないのは常識的に考えて当たり前なのだが、こいつに常識という言葉は通用しない。
面会の連絡もなしに魔王の執務室に押し掛けるようなふざけたやつだ。
それでいてまっすぐな性格をしているので、真面目に仕事の手伝いを申し出ているからたちが悪い。
「……いや、いい。
我も少し休憩するとしよう」
応接用のソファーにミエリィを誘導し、メイドを呼んで飲み物と菓子類を用意させる。
「話をしに来たと言ったが、何かあったのか?」
紅茶を一口含んでから尋ねた。
今までにも遊びに来たことは何度かあったが、今日のミエリィは少し様子がおかしかった。
はっきりとはわからないが、なんというか、どこかそわそわしている気がする。
美味しそうに菓子を摘まんでいたミエリィの手が止まる。
これまでに見たことがないミエリィの真面目な表情に思わず身構える。
「実は魔王に相談があって来たの」
「相談だと?」
「ええ。
なぜか最近心が落ち着かないの」
このいつも楽しそうで、悩みなんて1つもなさそうなミエリィが相談……。
魔族最強の我をもってしても底がしれない実力の持ち主であるミエリィが抱える悩みとはいったい。
まさかこの世界が崩壊でもするというのか?
「この前ね、友達に守ってもらったの」
「守っただと?
お前を?」
人族にはミエリィに匹敵する強者が他にもいるというのか?
今まで戦場でそのような存在を見たことはないが、それを言ったらミエリィだって戦場には出てきていない。
争いを好まない強者が身を潜めているということか。
それにミエリィを害することができる存在。
そんなものがいるのなら魔族としても最大限の警戒をする必要がある。
場合によっては我自ら出向く必要があるかもしれない。
「怖い顔をしたおじさんたちが私に相手をしてもらう?とか私を使う?とか言いながら近付いて来ようとしたの」
「……ちょっと待て。
お前はそのおじさんとかいうのを無力化することはできなかったのか?」
「できたわ。
最終的に私が眠らせたもの」
これはあれだな。
ミエリィは種族の異なる我から見ても美しい女性だ。
だからこそ不埒な輩に絡まれてしまったということだろう。
この魔王をもってして実力が計り知れないミエリィを襲うなど命知らずにも程があるな。
魔族との戦争に対する作戦立案、対策を目的としたこの会議は40年前から年に一度開催されている。
人族のほとんどの国が参加しているこの会議は参加各国が持ち回りで開催しており、今年はウィリムス王国が主催する番だった。
広い会議室に各国のトップが一堂に会する光景は圧巻の一言だろう。
「……やはりそちらでも同じか」
「はい。
我が国の維持する戦線もここ1年ほど静かなものです」
魔族の占有する領土と隣接する各国はそれぞれ戦線を維持している。
日々魔族からの攻勢を食い止めていた各戦線だが、その攻勢がここ1年ほどみられない。
このようなこと長きに渡る魔族との争いの歴史において一度たりともなかった。
「いったいどういうことだ?」
「魔族内で何かトラブルでもあったのでしょうか?」
「いや、そうとも限らない。
あえて我々に隙を晒すことで奴らの領土へと誘い込み、罠にかける算段を企てている可能性だってある」
「だったらこのまま静観しているのか?」
「いや、今こそ攻めいる好機なのではないか」
様々な意見が飛び交うが、どれが正しい選択なのか誰にもわからない。
あまりにも情報が少なすぎるのだ。
「全く、魔王という存在は攻めて来ても厄介だが、攻めてこなくてもこうも厄介な存在なのか」
誰ともなく呟かれたその言葉に、心の中で首肯する一同であった。
◇
同時刻、魔王城。
魔王とは魔族における武の象徴であると同時に魔族を統べる王でもある。
その為戦場に立つ将としての仕事だけではなく、王としての執務もこなさなければならない。
執務室でペンを片手に書類に目を通す魔王。
戦場での恐ろしい魔王の姿しか知らない人族が見たら己の目を疑うかもしれない。
ペンを滑らせる音だけが響く静かな空間。
そんな穏やかな時間は唐突に終わりを告げた。
バンッ
ノックもなしに開かれる扉。
「魔王、遊びに来たわ!」
そこには笑顔を振り撒くミエリィの姿があった。
「……城内に転移するなと前に言ったはずだが」
「ええ、だからちゃんと門の前に転移したわ」
「門番にはもしお前が来たら報告するよう言ってあったはずだ」
「さあ?
走ってきたから途中で追い抜いちゃったのかもしれないわね」
その時1人の兵が執務室へと入ってきた。
「失礼します。
ミエリィ殿がいらっしゃいまし、た?」
室内にミエリィの姿を認めて困惑する兵士。
普通なら仕事の不備を咎めるところかもしれないが、ミエリィを相手に確実な仕事をこなせというのも酷だろう。
「……見ての通り既に知ってる。
下がっていいぞ」
「はっ。
失礼します」
扉を閉めて兵士は部屋を出ていった。
「……はあ、今日は何のようだ?」
「魔王とお話をしに来たの!」
「俺は仕事中なのだが」
「まあ、それは大変そうね。
私に手伝えることはあるかしら?」
純粋な瞳で見つめてくるミエリィ。
仮にも敵である人族のミエリィに機密情報の塊である書類仕事などさせられるわけがないのは常識的に考えて当たり前なのだが、こいつに常識という言葉は通用しない。
面会の連絡もなしに魔王の執務室に押し掛けるようなふざけたやつだ。
それでいてまっすぐな性格をしているので、真面目に仕事の手伝いを申し出ているからたちが悪い。
「……いや、いい。
我も少し休憩するとしよう」
応接用のソファーにミエリィを誘導し、メイドを呼んで飲み物と菓子類を用意させる。
「話をしに来たと言ったが、何かあったのか?」
紅茶を一口含んでから尋ねた。
今までにも遊びに来たことは何度かあったが、今日のミエリィは少し様子がおかしかった。
はっきりとはわからないが、なんというか、どこかそわそわしている気がする。
美味しそうに菓子を摘まんでいたミエリィの手が止まる。
これまでに見たことがないミエリィの真面目な表情に思わず身構える。
「実は魔王に相談があって来たの」
「相談だと?」
「ええ。
なぜか最近心が落ち着かないの」
このいつも楽しそうで、悩みなんて1つもなさそうなミエリィが相談……。
魔族最強の我をもってしても底がしれない実力の持ち主であるミエリィが抱える悩みとはいったい。
まさかこの世界が崩壊でもするというのか?
「この前ね、友達に守ってもらったの」
「守っただと?
お前を?」
人族にはミエリィに匹敵する強者が他にもいるというのか?
今まで戦場でそのような存在を見たことはないが、それを言ったらミエリィだって戦場には出てきていない。
争いを好まない強者が身を潜めているということか。
それにミエリィを害することができる存在。
そんなものがいるのなら魔族としても最大限の警戒をする必要がある。
場合によっては我自ら出向く必要があるかもしれない。
「怖い顔をしたおじさんたちが私に相手をしてもらう?とか私を使う?とか言いながら近付いて来ようとしたの」
「……ちょっと待て。
お前はそのおじさんとかいうのを無力化することはできなかったのか?」
「できたわ。
最終的に私が眠らせたもの」
これはあれだな。
ミエリィは種族の異なる我から見ても美しい女性だ。
だからこそ不埒な輩に絡まれてしまったということだろう。
この魔王をもってして実力が計り知れないミエリィを襲うなど命知らずにも程があるな。
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