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彼氏に頼まれたからモーニングコールしてたのに彼女じゃないと言われました。だから、モーニングコールするのを止めました。何か問題ありますか?

前編

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 高校生になって人生初の彼氏が出来た。
 それと同時に日課も出来た。

 日課とは、彼氏へのモーニングコールだ。
 学校がある平日、毎朝モーニングコールして欲しいと彼氏である成宮龍之介くんに頼まれてやることになった。

「もしもし、龍之介くん? おはよう!」
『………』
「龍之介くん、おーきーてー!」
『………』
「龍之介くーん!」

 私は毎朝、決まった時間に龍之介くんへモーニングコールをする。
 龍之介くんは電話には出るけど、無意識症状なのかまだ半分寝てたりするから根気よく電話越しに声を掛け続ける。
 眠りが深い龍之介くんは毎日誰かが起こさないとずっと眠り続けてしまうという。

 私たちの通う高校は朝のホームルームが8時45分から始まり、8時30分までに校門を潜らないと遅刻になる。
 龍之介くんの彼女として遅刻させるわけにはいかない。
 私も実は朝起きるのは苦手で、出来るなら時間の許す限りギリギリまで寝ていたい。
 でも、龍之介くんのために毎日頑張って早く起きて、モーニングコールをする。
 この3ヶ月間、1日も欠かさずにモーニングコールをした自分に私自身が驚いている。

 龍之介くんのことが好きだから、頑張った。
 彼女だから、見返りは求めない。
 モーニングコールは恋人の特権だ。
 そう思っていた。




「なぁなぁ、聞いてくれよ~。うちのクラスに古郡いるじゃん? あいつ、俺と委員会が一緒だからL*NEと電話番号教えただけなのに毎日しつこく連絡してくんだけど、やばくね?」

 ある日の放課後、忘れ物を取りに教室へ入ろうとしたら龍之介くんが教室でクラスの男子数人と楽しそうに喋っていた。
 聞こえてきた内容に一瞬、私は呼吸をするのを忘れてしまった。
 一体、何を言っているんだろうか?
 古郡とは私の苗字だ。
 古郡ふるごおり 寿々子すずこ、それが私の名前である。

 クラスの男子たちに龍之介くんが古郡について話している。
 もしかしたら別の古郡さんのことかもしれないと思ったけど、同学年に古郡は私しかいない。
 龍之介くんと同じ保健委員なのは私だ。
 つまり、龍之介くんが話している古郡とは私のことになる。

 龍之介はスマホ画面を男子たちへ見せていた。
 男子たちが『うわっ』とか『マジかよ』とか言っているから、龍之介くんが見せているのは私の通話履歴とL*NEのトーク履歴だろうか?
 モーニングコールを頼んで来たのは龍之介くんの方なのに、どういうことだろう。

「げっ、古郡さん」
「!」

 教室に入れない私にクラスの男子が気付いて声をあげる。
 げっ、とは失礼じゃないだろうか。

「古郡さーん、何しに来たの?」
「忘れ物を取りに来ました」

 自分の所属する教室に入るのに、居心地の悪さを感じる。
 私は男子たちの視線を気にせず、自分の席に置いて来てしまった筆箱を鞄にしまう。

「あのさぁ、古郡さん」
「はい?」

 そそくさと教室を出ようとしたら、呼び止められた。
 シカトすることも出来たけど、感じの悪い女子と思われるのは癪だから返事をした。

「龍之介のスマホ見せてもらったけど、ストーカー行為はダメだよ~」
「……は?」

 ストーカー?
 誰が?
 誰の?

「いくら龍之介が優しいからってこれは異常だろ!」
「毎日ほぼ同じ時間に電話寄越すってホラーなんだけど。古郡さんってばなに、龍之介のこと好きなの?」
「えー! やっだー、龍之介ったら古郡さんみたいな女子にも好かれちゃうのかよ~。可哀想~」

 ゲラゲラ、ゲラゲラ。
 男子たちが私を見て笑う。
 その中に龍之介くんもいて、一緒に笑っていた。

 なんだ、これ?
 どうして、龍之介くんも笑ってるの?

「龍之介くん」
「はっ? 古郡さん、龍之介のこと龍之介くん呼びなの!? 龍之介、許してんの?」
「やべっ、好きに呼べって言っちった!」
「お前なぁ~」
「龍之介くん」

 私は気にせず、龍之介くんを呼んだ。

「うわっ、気安く呼ぶなし!」
「龍之介くん。私たち、付き合ってるよね?」

 静まり返る教室。
 だけど、すぐにまたゲラゲラ、ゲラゲラと男子たちが笑い出す。

「うわー! 妄想ひっでぇ!」
「やべーっ、古郡さんって痛い女子だったんだー!」

 私たちが付き合ってることは内緒にしてたんだから、誰も知る由もない。
 でも、言わないと私は龍之介くんのストーカーだと誤解されたままだ。

「冗談でもやめろよ! 誰がお前みたいなキモい女と付き合うかよ!」
「………え?」

 龍之介くん、何を言ってるの?

「てめぇ、ふざけんなよ! たまたまクラスが一緒で、たまたま同じ委員会になっただけで俺を彼氏にすんなよ! もしかして、連絡先教えただけで彼女になったつもりかよ!? ちゃんと言おう言おうって思ってた! でも女子だから傷つけちゃダメだと思って言わなかっただけで、此処まで妄想が酷い女とは思わなかった! 俺とお前は付き合ってねぇよ! 変な勘違いすんな!」
「よっ! 龍之介、よく言った!」

 私へ怒鳴る龍之介くんに、拍手する男子たち。

「………」

 私は言葉が出なかった。

(うそ、私たち付き合ってなかったの? え、だって、告白してきたのは龍之介くんの方だよ? 私も龍之介くんが好きだったから告白をオッケーして、私たち付き合うことになったんだよね? 休日は会えなかったけど、放課後デートはしたことあるよね? 交際2ヶ月目からはなくなったけど)

 そう言い返したいのにぱくぱくと口は動くだけで、声は出ない。

「そういうことだから、古郡さーん。もう龍之介にストーカーはやめろよ? クラスメートのよしみで今回は見逃すけど、次はねぇからな」
「女の武器を使っても意味ねぇからな! 俺たちが証人だ」
「いや、古郡さんが泣いたって誰も同情しねぇだろ」
「言えてる!」

 ゲラゲラ、ゲラゲラ。
 笑いながら、男子たちは教室を出て行った。

 教室を出て行く時に龍之介くんと一瞬目が合ったけど、すぐに反らされた。


「………」

 教室に一人残られた私。

「………私、龍之介くんと付き合ってなかったんだ。そっか」

 声に出したらストン、と腑に落ちた。

「えっ、待って? じゃあ、付き合ってないなら明日から龍之介くん……成宮にモーニングコールしなくて良いってこと!?」

 パァアと視界がクリアになった。
 成宮龍之介という彼氏はいなかったという事実よりも、もうモーニングコールをしなくて良いことが嬉しくて思わずにやけてしまった。

「明日からギリギリまで寝てて良いんだ! やったー!」

 こうして私は運動音痴だからスキップは出来ないけど、気持ち的には軽やかにスキップしながら帰路についた。
 舞い上がっていて、成宮を好きだった気持ちは何処かに置いてきてしまったことには気付かなかった。

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