かがみゆえのショートショート集【恋愛】

【完結】求めること勿れ（⚠️セフレ、死ネタ、後味悪い）

後編

　.




　あなたに産婦人科へ付き添ってあげて、堕胎手術の手続きをしたその一週間後だった。

　あなたは、───死んだ。

　あなたが死ぬ次の日に、堕胎手術が行われるはずだったのに。

　なに前日に死んでんだか。

　不要なものを腹から出して、空っぽになったあなたを抱く気満々だったのに。

　せっかくたまには甘い言葉でも囁いて、優しく抱いてあげようと思ってたのに。




　あなたの葬儀で、泣いている人たちがいることに笑った。

　あなたは沢山の人間に愛されていたのか。

　あなたが自ら生命を絶ったと知って、更に周りの人たちが泣いた。




〈お前１人だけ痛くて、
　苦しい思いはさせない。
　ママも一緒に逝くから、
　さみしくないよ。〉




　こんな遺書を遺してどうする。

　ボクとあなたの２人しか知らなかったのに、あなたが孕んでいたことが周りにバレたじゃないか。

　父親は誰だ、と血眼になって馬鹿みたいに捜し出す人たち。

　誰もそれがボクだと知るよしもない。


　………何だ、あなたは母になりたかったのか。

　不要なボクの分身とやらを、人間にして腹から出したかったのか。

　まだ産まれてない不要なそれなんかの為に、生命を絶つなんて馬鹿じゃないのか。


「結婚しよう、とでも言ってあげれば良かったのかな？」


　ボクはまだ結婚出来る年でもなければ、結婚指輪も用意してなかったけど。

　あなたとボクは身体の相性だけは良いから、堕胎手術が終わったら、これを機に恋人同士にでもなりましょうか。

　今回はダメだったけど、そんなにボクの分身とやらが欲しいなら数年後にまた孕ませてあげても良いですよ。

　そんな次に繋ぐ言葉を言えば良かったの？

　そうすれば、まだあなたはボクの側にいてくれたのかな……？


「……！」


　……何だ、ボクはあなたと一緒にいたかったのか？

　まだ存在もしない不要なものに、あなたを取られるなんて……。

　憎らしい……。

　羨ましい……。

　おぞましい……！


　ボクの腹の中に抱えるあなたへのものが何だったのか気付いて、ボクは心臓が痛くなった。

　……この痛みは、あなたにしか治すことが出来ないんだろうね。





-　END　-