『これ』が食べたい!

かがみゆえ

文字の大きさ
上 下
84 / 91

さつまいもごはんが食べたい!

しおりを挟む
 .




 さつまいもごはんが食べたい。

 昔、一度だけ作ったことがある。
 作り方は炊飯器に米と乱切りしたさつまいもをセットして炊くだけ。
 材料は、白米2合、さつまいも1本。
 調べたら塩、黒ごま、酒なども必要みたいだけど、

『わたししか食べないからいいや。シンプル・イズ・ベスト!』

 と思い、材料は米とさつまいもだけ。
 炊飯器に入れる水の量は米2合に必要な分だけにした。
 失敗したら失敗したでいいや。
 そんな気持ちで作ったさつまいもごはん。

 炊飯器から炊飯完了のアラームが鳴る。
 炊飯器をオープンすると、さつまいもの甘くて良い匂いがして食欲を刺激した。

 しゃもじでさつまいもをなるべく潰さないように白米とまんべんなく混ぜて、茶碗に盛り付ける。
 料理を作れない自分が、料理を一品完成させたことに感動した。

 出来立てを食べると、さつまいもの甘味と白米がマッチして美味しかった。
 炭水化物×炭水化物の組み合わせだから合うのかななんて、考えていた。

 その時はおかずも無しにさつまいもごはんのみ。
 米2合+さつまいも1本分の量を食べ切るのはきつかった。
 だから、1合分は食べて、残りはおにぎりにして余ったさつまいもごはんは明日食べようと決めた。

 ………次の日、わたしがさつまいもごはんのおにぎりを食べることはなかった。
 父が仕事場に持って行ってしまったから。
 ちゃんと母のお手製弁当が用意されていたのに。
 冷蔵庫の奥に見付からないように隠してたのに。
 何の断りもなく父は勝手に持って行った。

 そして、父は仕事から帰って来て、わたしに言った。

『歯が折れるかと思った。この俺に変なおにぎり食わせやがって。お前、まともに料理も作れねぇのな』

 人の昼食を盗んでおいて、それはないだろう。
 家の中にあるもの=全部俺のものと思っている父には、【盗んだ】という認識はない。
 それは、さつまいもごはんに限らず、度々あることだった。
 ショックでさつまいもごはんは二度と作らないと思った。

 数年経って、ふと過った記憶。
 父から『お前の作るものは全て不味い』と言われ続けた。

(…いや、待て待て。確かにわたしはそんなに料理上手じゃないし、味覚音痴は認めるけど。冷蔵庫に1日入れていたからカチカチに固まったさつまいもごはんのおにぎりをそのまま食べて美味しいわけがないだろう。歯が折れるかと思ったんなら、途中からでもおにぎりが固いと気付いたら、レンジでチンくらいすれば良い話だろう。温かいさつまいもごはんのおにぎりを食べてから感想を言え。だいたい、人から盗んだものにケチをつけるな。つーか、わたしより料理が全く出来ない父さんに言われたくないんだけど!)

 そんなことを思った。
 昔は父にボロクソ言われる度にショックを受けて傷ついてたけど、今はあの頃よりも少しは図太くなれたようだ。

 そういえば、昔はよく買ってたさつまいも、ここ数年家の冷蔵庫で見掛けないな。
 焼き芋やふかしいもやさつまいもスイーツは買っていても、家でさつまいも自体を購入していないことに気付いて驚いている。

.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

オリジナルエロ小説でお金を稼ぐ忘備録

どん丸
エッセイ・ノンフィクション
ノクターンノベルズに始まりpixiv、fantia、FANBOX、DLsite、FANZA、そしてアルファポリスでオリジナルエロ小説を書いて儲けはどんな感じかの忘備録。あくまでも忘備録でこうするといいよ!みたいな話ではありません。書いているのがエロ小説という都合上ちらっとエロ用語が入るのでR15にしています。月の売り上げが出るタイミングで更新します。

心中雪-my heart is always in the snow-

みほこ
エッセイ・ノンフィクション
全て実話です 今までの自分の人生で起こった出来事 毒親のもと育ち 貧乏で風呂無しのまま9歳までを○○○がいるような家で過ごし 虐めにあった学生時代 社会人になっても変わらず毒親&陰湿な虐め 21歳の時に○○ そして夜の蝶へ… 結婚もして子供ができ、今度こそ幸せになれるはずだったのに… こんな事が起こるなんて… それでも一度も自殺だけは考えなかった どんなに辛くても、明るく生きたい タイトルの心中雪は 心はいつも雪の中 my heart is always in the snow 自分の気持ちを押し殺して生きてきた ひとりで抱え込んで、悩んでいた自分を比喩してみました 今なら言える 「あなたはひとりじゃないよ     ひとりで悩まないでいいよ」

処理中です...