『これ』が食べたい！

かつおのたたきが食べたい！

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　かつおのたたきが食べたい。
　かつおのたたきとは、匂いや油を落とす事を目的に火で炙り少し冷やして薬味とともに食べる料理ことである。
　かつおの刺身とは調理方法が違う。
　かつおの刺身は、かつおを捌いた後に生のまま薬味と共に食べるという料理のことだ。
　ここでは、かつおのたたきは『火で炙り冷やす』をあらわしている。

　かつおのたたきは父が好物で小さい頃はよく食卓に並んでいた。
　刺身が大好物なわたしは父にすすめられるまま食べていたが、家族の中でかつおのたたきを好んで食べる者は父以外いなかった。
　姉も食べろと言われたら一切れ食べるが、箸がすすまずにかつおのたたきは減っていかない。
　食べろ食べろとすすめるくせに、いざ食べたら「おれの飯を食いやがって！」とキレる。
　食べないと食べないで、「そんなにおれと同じもんが食いたくねぇのか！」とキレる。
　かつおのたたきを食べても食べなくても、父にキレられるという矛盾が生じる。
　そして、食べ方にもこだわりがあって「ポン酢の量はこのくらい」だの「万能ネギはこのくらい」だの自分の食べ方を強要してくる。
　美味しいには美味しいけれど、違う食べ方をするとキレられる。
　父は人が食べるのをガン見しているから食べづらかった。
　わたしはかつおのたたきをポン酢じゃなくてわさび醤油で食べたかったし、薬味はスライス玉ねぎや大根おろしや紅葉おろしで食べてみたかった。

　かつおのたたきは我が家の夕食の空気を最悪にする
料理の１つだった。

　あまりにも態度が酷いから「かつおのたたきは誰も好きじゃねぇから一人で食え！ こいつらを巻き込むな！」と母が父に怒り、食卓から消えた。
　かつおのたたきは悪くないのに、嫌な記憶のせいで苦手になってしまった。

　大人になった今なら食べられるだろうか？
　かつおのたたきの美味しい食べ方を調べて、調味料や薬味を用意して……。
　嫌な記憶を上書きすることが出来たら、スーパーで見かけたら気兼ねなく買えるだろうか。

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