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【外伝】貴方にとっては誤算でも俺たちにとっては正に僥倖

fyra

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 リリオラ・アルツベルンは、ごくりと唾を飲み込むと緩く頭を振った。今何やらとんでもないことを言われた気がする。いやだ。絶対無理。

『これは決定事項でね、アルツベルン君。』

 にこやかに微笑む上司。一見人が良さそうに見えるが、とんでもない腹黒だと誰よりもリリオラは知っている。拒否しても無駄だろう、でもいやだ。絶対いやだ。

『出発は来月だ。必要なものは全て揃ってるから。何も心配しなくていいよ。』
『あ、その、ぼ、ぼくは。む、むりじゃ。ない、かなぁって、その。』
『じゃあ引き継ぎ頼んだよ。』
『ぶ、ぶちょ、う。あ、ま、まって。』
 下さい。そう最後まで言い終わる前に、スタスタと上司は机の前から去っていった。

『そ、そんなぁ。』

 がっくりと項垂れる。天蒼出身だからってなんで。そもそも10歳で養子に出されてからずっとディストリクトで生活してきたのに。確かに言葉は分かるけど。でも、だからって。

 ごんごんと机に額を叩きつける。痛いけど、そこまでじゃない。頑丈なこの身が恨めしい。

『お、おい。アルツベルン、やめろよ。』
『そうだぞ?机が凹むじゃないか。』
『次に使うやつが、引き出し出なくなったらどうするんだ。』

 ぼくの心配してよ!

 言い返したいけど言い返せない。同僚とすらまともに口を聞いたことがないから。くすんと鼻を鳴らしながら、天板に頬をぺったり付ける。視界に入り込んだ髪の色を見てうんざりした。

 なんで桃色。

 瞳の色は菫色。どちらも目立って仕方のない色だ。リリオラの種なら髪色は黄色、漆黒。瞳は漆黒が一般的だった。髪の色同様、菫色の瞳は珍しい。

 ウィッグでも被る?そうだ!そうすれば目立たないかも!

 もう行くのは決定事項なのだ、せめて何かしら悪あがきしたい。もそもそと起き上がるとネットで検索を始めた。とにかく目元まで隠れるような、そんな野暮ったいウィッグを探してみよう。

 明後日な方向にやる気を出して、だかだかとキーボードを叩き出す。鬼気迫るリリオラの様子に、同僚たちはそっと視線を逸らした。
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