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Hauptteil Akt 12
hundertneunzehn
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クロエにとって、新は天蒼と言う国に来て、栢杠と言う街で偶然得ることのできた最良の友人だった。
子供の頃から周囲でそう呼び合う人々を見かけるたび、何度羨ましく思ったことだろう。フィンレーや篤臣も、もちろん大事な友人に違いない。だが彼らとはどんなに親しくしても、やはりお互い異性としての線引きはあったし、そう言った意味での尊重もしていた。それが悪いわけではなく、単純に新はクロエを一人の人間として扱い、尊重してくれた初めての人だったのだ。彼の言葉は、どんな時でもすんなりと染み込んできたし、何よりフィンレーの元に飛び込む勇気を与えてくれた人でもある。
その新が篤臣のマッシブ、ウルとともに拐われた。ヘンディルの手によって。
そのことを篤臣たちが負傷して帰還した翌日にフィンレーから知らされたクロエは目眩を覚えてソファに座り込んだ。
『フィンレー。どう言うこと?私、新が狙われてたなんて聞いてない。』
『クロエ。』
『ちゃんと話して。もし誤魔化したり嘘をつくなら。あなたを決して許さないから。』
クロエから静かに威圧が漏れる。ソファに凭れ、美しい足を組み、ローテーブルを挟んでフィンレーを見つめる、その双眸は強かった。
クロエのこの強さにこそ、ラ-ガレン時代のフィンレーは惹かれた。もちろん、一目見た時から本能で惹かれたが知り合ってより惹かれたのはクロエのこういう気高さだった。
『私が何故、天蒼に来たと思う?』
『仕事でしょう?』
『ああ、そうだね。でも表のではなく、裏の仕事で来たんだ。』
『……あなた、まさか。』
そう、こういう察しがいいところも好ましい。
『ツェアシュテールのトップなの?』
『正解。リーダーと共に最高責任者の座を継いだ。数ある犯罪組織の中で、今最優先にしているのはヘンディルだ。その首魁の側近を追って天蒼に入った。』
『そうだったの……。』
『笹川くんは偶然、その側近に目を付けられた。護衛は付けてたんだが、私のミスで拐われてしまった。』
『ミス?あなたが?あり得ないわ。一体何をしたの?』
『……保険と言ったところかな。』
『……つまり、新をデコイにしたのね?』
『ああ。もう少しで用意していた作戦の準備が終わるところだった。その間、彼にもし接触があれば側近を捕らえられると思ったんだ。』
『そう……。』
クロエが押し黙る。内心フィンレーは焦っていた。篤臣が言う以上に、クロエは新を大切に思っている。まさかアハトゥと呼ぶほどとは思わなかった。
『正直に言うと、あなたにも私のアハトゥを大事に扱って欲しかったと思うわ。』
『……そうだな、すまない。』
『でも……そうね。あなたは新を知らないし、そんな状態でメイニーの私が親密にしている相手を尊重しろと言うのは。まぁ、難しいと思うわ。その気持ちは理解出来る。』
『……。』
『でも、私の気持ちも理解して。』
『……ああ。』
『新のおかげで、私はあなたというメイニーを得ることが出来たの。彼がいなければ、私はあなた以外の人とゲレンク-パラを済ませていた。』
想像だけで、フィンレーは吐き気が込み上げた。クロエ。私の番。この美しいメイニーを他のものがパートナーとする未来なんて、絶対に許さない。
『フィンレー。新を助けて。私のアハトゥを。とても大事な人なの。』
『もちろんだ。』
『私に出来ることは?なんでもするわ。』
クロエに打ち明けると決めた時から、考えていたことがある。
『では、私と共にディストリクトへ。君の父、ゲオルク・アシェル氏にお会いしたい。』
『父に?』
『そう。二人を救出し、ヘンディルを殲滅する為、協力者になってもらいたい。』
『……じゃあ、準備して。』
『準備?』
『あなたも知っているでしょう?私お見合いから逃げて来たのよ。戻るなら、メイニーを連れて戻らないと。』
『それは……。』
そんな場合ではないと思いつつ、フィンレーの顔が赤く染まる。
『ただ会いたいから時間を作れと言ってもゲオルク・アシェルという男は会わないわ。尤も娘が世界に名だたるグウェイン家のリーダー、フィンレー・グウェインからプロポーズされたとなれば話しは別でしょうね。』
そこで、クロエもつられて顔を赤くしながら立ち上がるとフィンレーを見下ろした。
『だから、ゲレンク-パラを私に申し込んだと父に話すのよ。そうすればすぐに時間を作るわ。』
『……ふっ。』
『なによ。』
『いや、それは確かに。完璧に準備しなければならないな。』
『そうよ。完璧なプロポーズをしてちょうだい。』
『分かった。』
立ち上がってローテーブルを回ると、クロエを抱き締める。
『傷付けてすまない。』
『……次はないから。』
『もちろん。二度としない。』
どんなに強くあろうとしても、クロエの本質は繊細で優しい。フィンレーに腹を立てつつ、その立場を理解しようと努力し。新とウルを心配しつつ、出来ることをしようと奮い立つ。その為ならプロポーズさえ利用しろと言うのだ。
口実に使いはするが改めてもう一度、プロポーズをしよう。別に何度だってしても良いだろう?愛しい番に愛を囁き婚姻を強請る行為は尊いものだ。
フィンレーはクロエの形が良い頭を撫でた。不安が押し寄せたのか、クロエが小さく震え泣き出す。
『新。ウルさん。お願い。無事でいて。』
篤臣の言葉をもっと重く受け止めるべきだった。結果ウルまで拐われて、親友の篤臣は深傷を負い目を覚さない。これほどまでに自分を責めたことはない。だが幸運なことに、次のチャンスがある。
もう、間違えない。
子供の頃から周囲でそう呼び合う人々を見かけるたび、何度羨ましく思ったことだろう。フィンレーや篤臣も、もちろん大事な友人に違いない。だが彼らとはどんなに親しくしても、やはりお互い異性としての線引きはあったし、そう言った意味での尊重もしていた。それが悪いわけではなく、単純に新はクロエを一人の人間として扱い、尊重してくれた初めての人だったのだ。彼の言葉は、どんな時でもすんなりと染み込んできたし、何よりフィンレーの元に飛び込む勇気を与えてくれた人でもある。
その新が篤臣のマッシブ、ウルとともに拐われた。ヘンディルの手によって。
そのことを篤臣たちが負傷して帰還した翌日にフィンレーから知らされたクロエは目眩を覚えてソファに座り込んだ。
『フィンレー。どう言うこと?私、新が狙われてたなんて聞いてない。』
『クロエ。』
『ちゃんと話して。もし誤魔化したり嘘をつくなら。あなたを決して許さないから。』
クロエから静かに威圧が漏れる。ソファに凭れ、美しい足を組み、ローテーブルを挟んでフィンレーを見つめる、その双眸は強かった。
クロエのこの強さにこそ、ラ-ガレン時代のフィンレーは惹かれた。もちろん、一目見た時から本能で惹かれたが知り合ってより惹かれたのはクロエのこういう気高さだった。
『私が何故、天蒼に来たと思う?』
『仕事でしょう?』
『ああ、そうだね。でも表のではなく、裏の仕事で来たんだ。』
『……あなた、まさか。』
そう、こういう察しがいいところも好ましい。
『ツェアシュテールのトップなの?』
『正解。リーダーと共に最高責任者の座を継いだ。数ある犯罪組織の中で、今最優先にしているのはヘンディルだ。その首魁の側近を追って天蒼に入った。』
『そうだったの……。』
『笹川くんは偶然、その側近に目を付けられた。護衛は付けてたんだが、私のミスで拐われてしまった。』
『ミス?あなたが?あり得ないわ。一体何をしたの?』
『……保険と言ったところかな。』
『……つまり、新をデコイにしたのね?』
『ああ。もう少しで用意していた作戦の準備が終わるところだった。その間、彼にもし接触があれば側近を捕らえられると思ったんだ。』
『そう……。』
クロエが押し黙る。内心フィンレーは焦っていた。篤臣が言う以上に、クロエは新を大切に思っている。まさかアハトゥと呼ぶほどとは思わなかった。
『正直に言うと、あなたにも私のアハトゥを大事に扱って欲しかったと思うわ。』
『……そうだな、すまない。』
『でも……そうね。あなたは新を知らないし、そんな状態でメイニーの私が親密にしている相手を尊重しろと言うのは。まぁ、難しいと思うわ。その気持ちは理解出来る。』
『……。』
『でも、私の気持ちも理解して。』
『……ああ。』
『新のおかげで、私はあなたというメイニーを得ることが出来たの。彼がいなければ、私はあなた以外の人とゲレンク-パラを済ませていた。』
想像だけで、フィンレーは吐き気が込み上げた。クロエ。私の番。この美しいメイニーを他のものがパートナーとする未来なんて、絶対に許さない。
『フィンレー。新を助けて。私のアハトゥを。とても大事な人なの。』
『もちろんだ。』
『私に出来ることは?なんでもするわ。』
クロエに打ち明けると決めた時から、考えていたことがある。
『では、私と共にディストリクトへ。君の父、ゲオルク・アシェル氏にお会いしたい。』
『父に?』
『そう。二人を救出し、ヘンディルを殲滅する為、協力者になってもらいたい。』
『……じゃあ、準備して。』
『準備?』
『あなたも知っているでしょう?私お見合いから逃げて来たのよ。戻るなら、メイニーを連れて戻らないと。』
『それは……。』
そんな場合ではないと思いつつ、フィンレーの顔が赤く染まる。
『ただ会いたいから時間を作れと言ってもゲオルク・アシェルという男は会わないわ。尤も娘が世界に名だたるグウェイン家のリーダー、フィンレー・グウェインからプロポーズされたとなれば話しは別でしょうね。』
そこで、クロエもつられて顔を赤くしながら立ち上がるとフィンレーを見下ろした。
『だから、ゲレンク-パラを私に申し込んだと父に話すのよ。そうすればすぐに時間を作るわ。』
『……ふっ。』
『なによ。』
『いや、それは確かに。完璧に準備しなければならないな。』
『そうよ。完璧なプロポーズをしてちょうだい。』
『分かった。』
立ち上がってローテーブルを回ると、クロエを抱き締める。
『傷付けてすまない。』
『……次はないから。』
『もちろん。二度としない。』
どんなに強くあろうとしても、クロエの本質は繊細で優しい。フィンレーに腹を立てつつ、その立場を理解しようと努力し。新とウルを心配しつつ、出来ることをしようと奮い立つ。その為ならプロポーズさえ利用しろと言うのだ。
口実に使いはするが改めてもう一度、プロポーズをしよう。別に何度だってしても良いだろう?愛しい番に愛を囁き婚姻を強請る行為は尊いものだ。
フィンレーはクロエの形が良い頭を撫でた。不安が押し寄せたのか、クロエが小さく震え泣き出す。
『新。ウルさん。お願い。無事でいて。』
篤臣の言葉をもっと重く受け止めるべきだった。結果ウルまで拐われて、親友の篤臣は深傷を負い目を覚さない。これほどまでに自分を責めたことはない。だが幸運なことに、次のチャンスがある。
もう、間違えない。
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