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Hauptteil Akt 7

zweiundsechzig

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 投資事業部本部長室の椅子に腰掛け、篤臣は昨夜フィンレーから聞いた話を思い返していた。

『ヘンディルの首魁、シュウ・リーウェンには四人の側近がいる。そのうちの一人が天蒼に密入国したと言う情報を半年くらい前かな、掴んでいたんだ。』
『そうなのか。』
『君に協力してもらった、船上パーティーがあっただろう?あの時の男性が側近の密入国を手引きした。彼から話を聞き出すことは出来たんだが、側近は既に行方をくらませた後だった。栢杠のホテルにいたところまでは分かったんだが、そこから先の足取りが掴めていない。』

 ヘンディルはフェティシズムに合わせて拉致や誘拐をする犯罪組織だ。美しい顔立ちのもの。美しい手や足を持つもの。歳の割には幼い容姿のもの。中でも下位種や希少種ミックスは滅多なことでは手に入らない為、見つけたら必ず狩るのだと言う。そうやって集めたものたちをオークションにかけ、世界中の顧客たちに売り飛ばす。

 しかし一つだけ例外があると言う。

 ヘンディルの首魁、シュウ・リーウェン。名前と壮年の男性と言う以外の情報はなく、顔を知っているものは四人の側近たちに限られている。人前では必ず顔を隠すため、潜入させていたアゲンツでさえ、どんな容姿なのか分からなかったと報告を上げていた。彼は自分が気に入ったものだけは売らずに側へ置き、毎日犯して楽しむ性癖の持ち主だと言う。女性よりも男性、フェイよりもグラスを好み、相手が耐えきれず殺してくれと懇願すればするほど執着して手放さないらしい。

『囚われていた男性を運良く救い出すことはできたんだけど、PTSDによる記憶障害があってね。顔を知っているはずなんだが、思い出そうとすると靄がかかって思い出せないらしいんだ。酷い時は呼吸困難を起こして昏倒するんだよ。とてもじゃないが話を聞くことは出来なかった。』

 首魁シュウ・リーウェンの情報を探ることは行き詰まっている。なのでフィンレーはアプローチを変えることにした。天蒼に密入国した側近から辿ることにしたのだ。名前は偽名だった為、分からない。女性。20代後半。肉食種フェイだと思われる派手な容姿。種は不明。髪も目も烏の濡れ羽のように艶やかな黒。肌が抜けるように白く、細身。身長は平均的。ただ、胸だけは豊満で官能的な雰囲気を纏っていると言う。とても人目を惹く容姿で、あの寝取りが性癖の男性曰く、ふるいつきたくなるような美女だったらしい。

 篤臣は溜め息を吐くと立ち上がった。もしかしたらウルが狙われるかもしれない。だとしたらまずは深沢のリーダーである狗狼に自分が知り得た情報を全て話して対策を練った方が良い。狗狼と共同戦線を張らなければウルを守れない。

 そのままドアを開け、廊下に出ようとすると秘書が慌てて立ち上がった。

「本部長、どちらへ。」
「少し外の空気を吸ってくる。」

 短く答えて廊下へと出た。最近、あの秘書はいちいち行き先を尋ねてくるようになった。監視されているような気がしてあまり気分は良くない。

 フィンレーのこともあるし、一度外すか。

 こう言う時に働く勘は侮れない。違和感は必ず何かがあるから生まれるものだ。それが何か具体的に説明出来なくても経験則で感じるものは無視しない。おかしいと感じた時はのだ。

 ポケットからキーを取り出し、役員専用エレベーターへと向かう。足早にCarmへ向かった。
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