上 下
51 / 238
Hauptteil Akt 4

fünfundvierzig

しおりを挟む
 ウルの親友、新を紹介してもらった篤臣はイロフネストに戻り、与えられた投資事業部本部長室へと向かった。前室には秘書室が設けられており、専属秘書が常駐している。

「部長、弟様がお見えです。」
実臣さねおみが?」
「はい。中で待つと仰いましたのでお待ち頂いております。」
「そうか、ありがとう。」
 頷いて返し、ノックもせず開けると中のソファで寛いでいたらしい金色の髪が揺れた。

「兄さん!」
 飛び上がって立ち上がると駆け寄ってくる。

「実臣。どうした?」
「どうしたって……ひどいじゃないか。連絡しても中々返してくれないから、ここまで来たんだよ。」
「ああ、すまない。」
「忙しいのは分かるけど。返事くらいしてよ。」
 一つ下の弟、実臣は篤臣を誰よりも尊敬し崇拝している。いわゆる強火のブラコンだった。

 そのまま適度にあしらいながらソファに座る。向かいを促すと座り直し、そのまま身を乗り出した。

「ねぇ、兄さん。この記事知ってるよね?これってどこまで本当なの?」
 そう言ってテーブルに置いてあったタブレットを叩き、クロエの記事を画面いっぱいに広げる。

「兄さん、本当にこの人と何かあるの?」
「ないよ。」
「だよね?あー、良かった。びっくりしたよ。だってこの人ライオンでしょ?貴宮のリーダーを務める兄さんの相手は豹でなきゃ。全く!ひやひやしちゃったよ。」
「実臣。俺は別に純血種に拘るつもりはないし、子どもが欲しいと思ったこともないよ。」
「どうしちゃったの?なんでそんなこと言うの?兄さんは優秀なんだから、絶対純血種の子どもを作らないと!その血を残さないなんて、あり得ないよ!」
「あのな。」
「もう!このクロエ・アシェルって人と何もないなら安心だけど、今の感じじゃ心配だよ。大丈夫だよ、僕が探してあげる。きっと兄さんが気に入る純血種の豹を見つけてあげるから!」
「……実臣。」
「誰がいいかな。友だちにも聞いてみるよ。好みのタイプは?どんな感じが好き?僕としては兄さんに釣り合うくらい頭が良くて美人で性格も良い人が良いなぁ。兄さんスペック高いから、釣り合うってなると中々いないだろうけど。任せて!僕頑張るから!」
「実臣。頼むから話を聞いてくれ。」
 片手の平を立て、止める。ぴたりと口が閉じられた。

「俺の相手は俺が決める。」
「でも。」
「実臣。」
「……はい。」
「パートナーは一生を共に過ごす相手だ。俺がね。だから俺が決める。誰の指図も受けない。」
「指図なんてそんな。」
「違うならこれ以上は口を出さないでくれ。」
「でも……。」
 もごもごと不満そうに言葉を呟き俯く。

「実臣。」
「……はい。」
「分かったよな?」
「はい。」
「勝手に何かしたら、許さないからな。」
「何かって。」
「勝手に相手を見つけてきたり。勝手に会わせようとお膳立てしたり。勝手に噂をばら撒いて外堀埋めようとしたり。そう言う類のことだよ。」
 うぐっと実臣が言葉に詰まる。

「お前が俺のためにと考えて行動するのはありがたいとは思う。ただ俺が望んでないことをお前が最良だと勝手に決めて押し付けるのは迷惑だ。」
「兄さん。」
 実臣が絶望したと言うように青ざめる。

「俺の弟はそこまで愚かではないよな?」
「も、勿論だよ。」
「よし。分かってくれて嬉しいよ。」
「うん。」
 しおしおと俯く。篤臣のこととなると実臣は常に暴走気味だった。少し放っておくくらいが丁度いい。ずっと相手をしていると全てに関わってこようとするのだから始末に負えない。

「そう言えば実臣。お前の方はどうなんだ?お見合いしたんだろう?」
「僕?ああ、お相手が豹だって言うから受けたけど。うーん。あまりピンと来なかったな。悪くはないけど。」
「お前、どうしても相手は豹がいいのか?」
「だって僕純血種だし。出来れば子供もそうであって欲しいよ。やっぱり色々と違うでしょ?知力体力共にさ。より強い方が生きやすいのは事実なんだし、子どもに与えられるものは少しでも多い方が良いじゃないか。」
「そうか。良い相手が見つかるといいな。」
 そう言う考え方もあるだろう。否定する気はない。それは実臣にとっての正解であって篤臣にとっての正解ではない。ただそれだけなのだ。
 頷いて同意を示すと、実臣は安心したように微笑んだ。たった一人の弟に、出来れば愛し愛される恋人を見つけて欲しいと思うのは、やはり傲慢な考えなのだろうかと息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたくしレベルの悪役令嬢になれば婚約破棄フラグ管理は完璧ですわ!~今度はハッピーエンドを目指します~

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ある日、婚約破棄の末に死罪になってしまった主人公、サネア・キシュシー。  そんな彼女は記憶を持ったまま転生し、現代日本で目を覚ます。そこで乙女ゲーム『アルコルズ・キス』の存在を見つけ、『サネア・キュシー』が悪役令嬢であることを知り、自身が生きていた世界は乙女ゲーム『アルコルズ・キス』そのものと言っていいほど酷似した世界であると気が付く。  日本で得た乙女ゲーム知識を使い、幸せな結婚生活を夢見て頑張るサネア。なんとかハッピーエンドを目指すものの、失敗しては死罪になったり追放の果てに命を落としたり。そしてそのたびに、次は日本で目を覚まし、日本で命を落とすと以前の世界で目を覚ます。  繰り返し乙女ゲーム世界と日本を行き来し、攻略しようと試みるが、今回からはどうにも様子がおかしいようで……? 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

異世界労働戦記☆スキル×レベル☆生産者ケンタ

のきび
ファンタジー
『女性にモテたいなら生産職』そんな持論でゲームを始めた葛城 健太郎(かつらぎ けんたろう)はゲーム内で生産職を極めた。そんな彼を女神は自分の受け持つスキル制の異世界を変える起爆剤として異世界転移させた。異世界に転移させられた健太郎は情報を集めるために酒場併設の宿屋に引きこもる。それをニートと判断した女神は健太郎を新たな異世界へと追いやる。しかし新たな世界はレベル制、健太郎は女神を呪うがその世界で健太郎は生産しながら暮らしていくうちに、いろいろな事件に巻き込まれていく。

虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました

りつ
恋愛
ミランダは不遇な立場に置かれた異母姉のジュスティーヌを助けるため、わざと我儘な王女――悪女を演じていた。 やがて自分の嫁ぎ先にジュスティーヌを身代わりとして差し出すことを思いつく。結婚相手の国王ディオンならば、きっと姉を幸せにしてくれると思ったから。 しかし姉は初恋の護衛騎士に純潔を捧げてしまい、ミランダが嫁ぐことになる。姉を虐めていた噂のある自分をディオンは嫌悪し、愛さないと思っていたが―― ※他サイトにも掲載しています

神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。 え?助けた女の子が神様? しかもその神様に俺が助けられたの? 助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって? これが話に聞く異世界転移ってやつなの? 異世界生活……なんとか、なるのかなあ……? なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン? 契約したらチート能力? 異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな? ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない? 平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。 基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。 女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。 9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。 1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

ごめんね、でも好きなんだ

オムライス
BL
邪魔をしてごめん。でも、それでも、蓮が好きなんだ。 嫌われてもいい、好きになって欲しいなんて言わない、ただ隣に居させて。 自分の気持ちを隠すため、大好きで仕方がない蓮に、嫌な態度をとってしまう不器用な悠。蓮に嫌われてもそれでも好きで居続ける、切ない物語 めちゃめちゃ素人です。これが初めて書いた小説なので拙い文章ではございますが、暖かい目でご覧ください!!

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

死にかけ令嬢は二度と戻らない

水空 葵
恋愛
使用人未満の扱いに、日々の暴力。 食事すら満足に口に出来ない毎日を送っていた伯爵令嬢のエリシアは、ついに腕も動かせないほどに衰弱していた。 味方になっていた侍女は全員クビになり、すぐに助けてくれる人はいない状況。 それでもエリシアは諦めなくて、ついに助けを知らせる声が響いた。 けれど、虐めの発覚を恐れた義母によって川に捨てられ、意識を失ってしまうエリシア。 次に目を覚ました時、そこはふかふかのベッドの上で……。 一度は死にかけた令嬢が、家族との縁を切って幸せになるお話。 ※他サイト様でも連載しています

処理中です...