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Wie läuft's bei dir?
甘くて良い匂い《side 篤臣》
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驚いた。
まさか、ここで逢うとは思わなかった。
契約を結びたいカフェがあると報告を受けて偵察がてら見にきたカフェ、Carm。
一面ガラス張りのカフェは、沢山の観葉植物が絶妙な配置で置かれていて、通行人や隣席からの視線を気にせず、落ち着けるように工夫されていた。しかも閉塞感なく過ごせるよう互いの席には適度な距離がある。奥には予約制の個室もあるらしい。厨房は店内の真ん中に位置していて、全ての席が見えるよう考えられていた。天井には複数のシーリングファンが緩やかに回り、風切音は小さく、うるさくない。
ふぅん。いいな。
第一印象はまずまず。接客と味はどうかな。
ぺろりと舌なめずりして、席を選ぶ。タブレットを出し、CarmのHPを開いて確認した。あまり力を入れてはいないようだなと流し見しているとふと、匂いがした。
甘くて、ふわりと香る。良い匂い。もしかして。いや間違いない。ざわりと首筋が逆立つ。程なくして近寄ってきた店員を見て固まった。
やっぱり、ウルだ。
ぽかんと口を開けたまま、こちらを見つめている、くりくりした瞳。紫がかった濃い青色。緩い癖っ毛の艶々した黒髪。かわいい。全然変わってない。いや前よりかわいくなってないか?
「い、いらっしゃいませ。」
「注文、いいですか?」
「はい。」
へにゃりと微笑んだのを見て、咄嗟に視線を逸らす。メニューを見て、告げた。
「……ホットコーヒーと。それからフィレサンドで、お願いします。」
「あっ……はい。」
こくこくと頷き、オーダーを書き込む。心なしか瞳が潤んで見えた。熱でもあるのか?
ちらちら見てるとウルがおろおろし始めた。手が止まったところを見るにオーダーを聞き漏らしたのかな、と繰り返す。
「……フィレサンド。」
「申し訳ありません。」
泣きそうな顔のウルを見て再び固まる。ぺこりと頭を下げて繰り返した後、慌ただしく厨房へと戻って行った。
動揺を隠す為、再びタブレットへと視線を戻す。自分でも眉間に力が入っていくのが分かった。
ウルはクシュダートの同級生だった。逢うのは卒業以来。二年は過ぎている。
当時ウルの側にはいつも男が張り付いていた。ウルの雄。そう聞いた。マッシブとは雌雄ではない、男同士の恋人を指す。
ウルからは、いつもあいつの匂いがした。べったりとマーキングして周りを牽制する匂い。
誰が相手のいる奴に。自意識過剰だろう。こっちは全然興味ない。実際そういうふうに振る舞ったし、口にしたこともある。
でも、本音は違う。
かわいい、かわいいウル。本当は俺のものにしたかった。初めて見た時、巣に連れ帰りたいと思った。閉じ込めて俺以外の瞳に触れさせたくないと思った。でも次の瞬間ウルからあいつの匂いがして。
だから気持ちを抑え込んだんだ。なのに。
なぜ、あいつの匂いがしない?ウルの匂いしかしなかった。
まさか、ここで逢うとは思わなかった。
契約を結びたいカフェがあると報告を受けて偵察がてら見にきたカフェ、Carm。
一面ガラス張りのカフェは、沢山の観葉植物が絶妙な配置で置かれていて、通行人や隣席からの視線を気にせず、落ち着けるように工夫されていた。しかも閉塞感なく過ごせるよう互いの席には適度な距離がある。奥には予約制の個室もあるらしい。厨房は店内の真ん中に位置していて、全ての席が見えるよう考えられていた。天井には複数のシーリングファンが緩やかに回り、風切音は小さく、うるさくない。
ふぅん。いいな。
第一印象はまずまず。接客と味はどうかな。
ぺろりと舌なめずりして、席を選ぶ。タブレットを出し、CarmのHPを開いて確認した。あまり力を入れてはいないようだなと流し見しているとふと、匂いがした。
甘くて、ふわりと香る。良い匂い。もしかして。いや間違いない。ざわりと首筋が逆立つ。程なくして近寄ってきた店員を見て固まった。
やっぱり、ウルだ。
ぽかんと口を開けたまま、こちらを見つめている、くりくりした瞳。紫がかった濃い青色。緩い癖っ毛の艶々した黒髪。かわいい。全然変わってない。いや前よりかわいくなってないか?
「い、いらっしゃいませ。」
「注文、いいですか?」
「はい。」
へにゃりと微笑んだのを見て、咄嗟に視線を逸らす。メニューを見て、告げた。
「……ホットコーヒーと。それからフィレサンドで、お願いします。」
「あっ……はい。」
こくこくと頷き、オーダーを書き込む。心なしか瞳が潤んで見えた。熱でもあるのか?
ちらちら見てるとウルがおろおろし始めた。手が止まったところを見るにオーダーを聞き漏らしたのかな、と繰り返す。
「……フィレサンド。」
「申し訳ありません。」
泣きそうな顔のウルを見て再び固まる。ぺこりと頭を下げて繰り返した後、慌ただしく厨房へと戻って行った。
動揺を隠す為、再びタブレットへと視線を戻す。自分でも眉間に力が入っていくのが分かった。
ウルはクシュダートの同級生だった。逢うのは卒業以来。二年は過ぎている。
当時ウルの側にはいつも男が張り付いていた。ウルの雄。そう聞いた。マッシブとは雌雄ではない、男同士の恋人を指す。
ウルからは、いつもあいつの匂いがした。べったりとマーキングして周りを牽制する匂い。
誰が相手のいる奴に。自意識過剰だろう。こっちは全然興味ない。実際そういうふうに振る舞ったし、口にしたこともある。
でも、本音は違う。
かわいい、かわいいウル。本当は俺のものにしたかった。初めて見た時、巣に連れ帰りたいと思った。閉じ込めて俺以外の瞳に触れさせたくないと思った。でも次の瞬間ウルからあいつの匂いがして。
だから気持ちを抑え込んだんだ。なのに。
なぜ、あいつの匂いがしない?ウルの匂いしかしなかった。
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