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a harbinger of misfortune

τριάντα

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 目の前には、ボロ布を纏い、痩せ細った人々が犇めいていた。城門の外で中に入れてくれと、か細い悲鳴のような声が上がる。それはまるで地獄の底で蠢く亡者たちのようで、知らず悪寒が走るような光景だった。

 城門の上にある、見張り台から眼下を見下ろす。眼鏡がない為、視界が鮮明だった。左瞳に掛かるよう流した前髪が風に靡く。不思議なことに老人や子供はいない。

「カニンガム男爵領に続き、ここレーヴィット伯爵領までですか。」
「ああ。難民として受け入れて欲しいと言っている。」

 二年半程前から、シーヴァス王国に限らずテレンシア皇国やイェイツ王国といった三国に難民が押し寄せるようになっていた。一度の数としては、そこまで多くは無い。せいぜい十~二十人程度だが、一度受け入れれば際限なく増えることが予想された。その為、城門は固く閉ざされ受け入れたことは一度もない。

 酷だとは思うが騎士にとって自国民こそ護るべきものであり、無責任な施しは国を危険に晒すことへと繋がる。

「オレイアス。お前、休暇まで騎士団の仕事やらなくてもいいだろ。」
 伯父のヴィンスが腕を組んで見下ろして来た。子供の頃から何かと世話を焼いてくれる、この伯父はオレイアスの師匠でもある。

「積まなくていい経験なんて、ありませんから。」

 しれっと返すと、伯父が眉間に皺を寄せ唸った。

「そうは言っても見ていて気持ちいいもんじゃないだろ。」
「それはそうですね。」

 見殺しにしているわけですから。

 言葉にせず、瞳を凝らす。例え剣を振るわず弓を番えずとも、ここは血を流さない戦場だと思っている。

「ところで、ヴィンス伯父上。ご婚約おめでとうございます。」
「……誰に聞いた?アルか?エインか?」
「お相手は、テンプルトン子爵令嬢だそうで。大変熱烈に望まれたと伺いました。喜ばしい限りではないですか。」
「はぁ?!」
 ヴィンスが頓狂な声を上げる。

「やっと春が来たと、お祖父様も喜んでいましたよ。」
「ああぁ!くそ!」

 祖父のクライヴが相好を崩し、晩餐の席で高らかに祝杯を上げていた姿を思い出しながら伯父を揶揄った。

 わしわしと髪を掻きむしりながら、ヴィンスがため息を吐く。

「こんなおっさんの、どこがいいんだか。」

 そうは言ってもヴィンスは男ぶりもよく、頼り甲斐のある壮年の男性だ。元々変に、がっついたところもない為、常に余裕があり女性たちからの人気は高かった。派遣された先では黄色い声を上げられることも多い。特に私設騎士団の中では父エリオットに次ぐ実力者で、くすんだ銀色の髪と薄い緑色の瞳は父ほど派手な色では無いが、充分女性から好まれる容姿をしている。まぁ、本人はそれも、あまり興味がないらしい。

「ヴィンス伯父上の良さを分かってくださる女性が嫁して下さるなんて、とても嬉しいです。」
「お前、たまに可愛いこと言うよな。」

 ヴィンスがへらっと笑いながら肩を組んでくる。そのまま、階段へと向かった。

「外の奴らは何日か居座って、受け入れて貰えないと理解したら去っていく。俺たちは不干渉。いいな。」
「はい、分かりました。」

 城門の近くには騎士が駐屯している為、安全だと言える。何日か粘っても無駄だと知れば立ち去るが、その後、運悪く人攫いに遭うこともあるらしい。かといって行き先もない彼らを護衛するわけにもいかない。送り届ける先がないのだから。

 助けを求める人がいても、自分の手は届かない。

 もどかしい思いを抱えつつ、こう言ったことにも折り合いをつけていくことを学ぶ。その為にオレイアスは出来る限り騎士団の仕事をするようにしているのだ。

「さて、飯でも食うか。」
「婚約者の話、聞かせて下さい。」
「まだ言うか!」
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