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a harbinger of misfortune

Είκοσι εννέα

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 与えられた客室でぼんやりと椅子に腰掛け、窓から庭を眺めていたステファニアに優しい声が掛けられた。

「 グリゼルダ、今いいかしら?」
「叔母様。」

 振り向くと、微笑んだ叔母が侍女に視線を向けた。テーブルにお茶やお菓子が用意されていく。ステファニアの向かいに腰掛けると、そっと人払いをした。扉が静かに閉められ、二人きりになるとカップを手に取り紅茶を口に含む。

「新しい名前には、もう慣れた?」
「……はい。」

 ステファニアはシーヴァス王国に嫁した父方の叔母、イングリット・キルバーン伯爵夫人を頼りテレンシア皇国から逃げ出した。叔母イングリットは当時公爵令嬢でありながら、決められた婚約から逃げ出しシーヴァス王国のキルバーン伯爵の元に嫁いだ過去を持つ。愛する人以外に嫁ぎたくはない、そう言って全てを捨てた叔母なら必ず味方になってくれる。そう考えたステファニアは真っ先にイングリットを頼った。

 父キャラハンと歳が離れていたイングリットは、ステファニアにとって姉のような存在だった。ワトリング公爵家から除籍され、絶縁されたイングリットとは父や執事長の目を盗み、密かに文通を続けていた。手紙を出す時は皇宮から出し、受け取りは皇宮の部屋付き侍女宛てにしていた。

 貴族学院卒院のあの日。

 いつも通り、ワトリング公爵家の馬車で貴族学院へ向かったステファニアは専属侍女と御者に「帰りは皇宮から迎えが来るから必要ないわ。」と伝えた。実際には卒院式が終わってすぐ、叔母が手配した馬車に飛び乗ると、指示通り持ち出した宝石を路銀にして国境を越えた。シーヴァス王国へ入国すると無事キルバーン伯爵家に保護され、予備爵マカドゥー子爵位を貰い受けたステファニアはグリゼルダ・マカドゥーと名を変えた。

 シーヴァス王国での滞在は、もうすぐ四ヶ月になる。

「あのね、テレンシア皇国のことなんだけれど。」
 カップをソーサーに戻すと、イングリットが意を決したように続ける。

「皇太子殿下の婚約解消はまだ、公表されていないわ。恐らく貴方のことを必死に捜しているんじゃないかしら。」
「そうですか。」

 ドキドキと胸が高鳴る。殿下はやはり、わたくしの心配をして探してくれているのだわ。でなければ、早々に婚約解消が発表されているはずだもの。国内外に殿下と釣り合う相手は、わたくししかいない。未婚の令嬢で今から皇太子妃教育をしても時間がかかり過ぎるから。

 これでもう。殿下がヨランダに構っている暇など、無くなったわよね。

 そっと胸元に飾られたブローチに手を添える。婚約して初めて、殿下から贈られたそれは、わたくしの宝物。これが無くなっていることに誰かが気付き、殿下に進言したのなら。きっと殿下はわたくしを追って来て下さるわ。わたくしの気持ちに気付いて。

「ねぇ、グリゼルダ。貴方良かったら、わたくしについて王宮に出仕してみない?」
「王宮に?わたくしも?」
「ええ。わたくしね、フランシスカ王女殿下のシャペロンに内定したの。」
「まぁ、それはおめでとうございます。」
「ふふ、ありがとう。それで今後は王宮へ週に一度、登城するんだけれど貴方も、わたくしと一緒に上がってみたらどうかしら?きっと気分転換になると思うのよ。」
「わたくしも?よろしいのですか?」
「もちろんよ!貴方ならマナーも教養も完璧だもの!きっと王女殿下に気に入られるわ!」

 シャペロンとは王族女性や貴族令嬢に社交界の仕組みや仕来りなどを教える貴族夫人のことを指す。社交界での後見人と言われ、指名されることは大変名誉なことだと言われていた。

「ありがとうございます、叔母様。わたくし、王女殿下と親しくさせて頂けるよう努めますわ。」

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