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知識

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 一緒に湯浴みをしていたナターシャが、おもむろに立ち上がるとアルマに「ごめんなさい、先に上がるわね。」と告げた。たった今一緒に入ったばかりなのに、何でだろうと首を傾げる。

「どうしたの?ナターシャ姉様。」
「その姉様って言うの、むずむずするんだけど。今はまぁ置いといて。」

 答えたナターシャの白い太ももから赤い筋がいくつも走り、たらたらと流れて湯船に落ちていく。それを見てアルマは真っ青になった。

「血が!ナターシャ姉様!血が出てるわ!」
「あー。違うのよ、アルマ。困ったわ、急に始まっちゃった。」
「違うの?血じゃないの?」
「血は血だけど……そうね、いい機会だから教えておくわ。」

 そう言って、あろうことか片足を浴槽にかけると、秘裂を晒してアルマに向かってこう告げた。

「アルマ。ここ、すごく大事な場所だから。今から言うことをよく聞きなさい。女はね、愛する男にしか、ここを触らせちゃ駄目よ。絶対に。分かった?」
「血が……手当を。痛くないの?怪我は?」
「手当は後でするから。今は痛くないわ。怪我じゃないの。これは女が子を産めるようになったら毎月くる、月のものよ。」
「毎月……月のもの……。」
「そう。アルマは今7歳でしょう?そうね、個人差もあるけれど五年以内には毎月一週間前後、こうやって血が出るようになるわ。そうなったら子を作ることが出来るのよ。」
「……ナターシャ姉様、よく分からないわ。」
「今はこれだけ理解しなさい。血が出ているここ、ここは愛する男にしか触らせない場所よ。分かった?」
「わ、分かったわ。」
「じゃあ私は先に上がって手当するわ。湯を変えるから、アルマは温まって出てきて。その後、詳しく話すわね。」
「……うん。」

 そう言ってタオルで身体を拭ったナターシャは浴室を出ていった。一人取り残されたアルマは茫然としつつも、入れ替わりで入ってきた従業員が新しく張った湯で、なんとか湯浴みを済ませると部屋へと戻った。

 そこにはソファにクッションを並べてナターシャが座っており、お腹には温めた石をタオルで包んで乗せていた。ローテーブルには果実水が置いてある。

「アルマ。驚かせたでしょ?ごめんなさいね。さぁ、こっちにきて座って。」

 ナターシャはアルマとダビデが泊まるこの宿の女主人だ。宿泊の間、ダビデから頼まれてアルマの世話を手伝っている。まだ年若く溌剌としたナターシャをアルマは姉のように慕い、懐いていた。

「そうね。少し昔話をしようかしら。」
「昔話?」
「そう。でも、楽しい話じゃないから。アルマは聞きたくないかもしれないわね。」
「……そうなの?」
「でも、アルマに私みたいな思いはさせたくないから。聞いてくれる?」
「……うん。」
「ありがとう。」

 そう言って微笑んだナターシャは、当時アルマが知る誰よりも綺麗な人だった。

 ダビデがアルマを連れ、国内を旅した三年間。その中で出会った、たくさんの人々の中でも、ナターシャと言う女性はアルマにとって特別な人だった。
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