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what I should love and protect from Cassia・Argan

決意

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 程なくして、クラークが何故銀髪金瞳の子を欲しがっているのか知れた。クラークの専属侍従であるベントリーから聞いたのだ。

「旦那様は幼少期より初代当主様に憧れを抱いておられまして。銀髪は同じなのですが、瞳の色だけが……。」

 それが子に銀髪金瞳を望む理由らしい。自分の代わりに初代と同じ色を持つ子が欲しいと。

 馬鹿馬鹿しいとは思うが、実際クラークはその為にカシアを娶った。結果カシアの実家、ピアーズ伯爵家は支度金という名の援助を受けることが出来たのだ。ならば務めを果たさなければならない。これは少し変わってはいるが政略なのだから。

 婚姻して二年が過ぎた頃、カシアは嫡男クリスを産んだ。しかし髪はくすんだ銀色で瞳はクラークと同じ黄色だった。それでも、アーガン伯爵家を継ぐ子であることに変わりはない。そう思っていたカシアの思いはクラークの一言で打ち砕かれた。

「仕方ない、次にかけるか。」

 クリスを一瞥したのち、カシアを労うこともなく、そう漏らした。それを聞いたカシアの中に、一つの小さな青い火が灯った。

 燃えるような、静かな怒り。

 もし、次も望む色が産まれなかったら。きっと夫は産まれるまでカシアを孕ませるのだろう。そうまでして産んだ子たちは色で区別されるのだ。今産まれたばかりのクリスのように。

 もし、次は望む色が産まれたら。きっと夫は銀髪金瞳の子だけ可愛がり、クリスは居ないものとして扱うだろう。もしかしたら。もっと産めと言い出すかも知れない。

 そしてその、どちらの未来でも、カシアは等しく蔑ろにされるのだ。そんな未来はごめんだった。

「ペイジー、お願いがあるの。」

 ピアーズ伯爵家の領地。その特産は多種多様な薬草だった。カシアもペイジーも幼い頃から慣れ親しんできた為、知識だけはある。密かに、月のものが来なくなる薬草を取り寄せるよう指示した。ペイジー以外には隠し、こっそりと紅茶に混ぜて飲む。

 アーガン伯爵家の専属医師は産後の体調不良で月のものが止まったのだろうと診断した。

 治ったかと思えば、また月のものが止まる。それを幾度となく不定期に繰り返すことで、今すぐは次の子を望めないのだとクラークには思い込ませていった。当然、療養を理由に寝室も別にした。クラークはあっさりと受け入れた。カシアがまだ若かったこともあるが、何より金髪金瞳はカシアしかいなかったからだ。子を産ませようと焦るあまり無理が祟って次が望めなくなることだけは避けたかった。

 結果としてクラークはクリスへ目を向けるようになった。すぐに次の子が望めぬのなら、クリスだけが今のところ血を分けた唯一の子なのだ。嫡男として後継者教育を施し、同時に騎士としても鍛えていった。

 しかし成長するにつれ、クリスはそこそこ体格に恵まれはしても騎士としての芽が出ることはなかった。その間もクラークはカシアに次の子を産ませようと、事あるごとに専属医師をせっついた。しかしクリスが10歳を迎えた年に年齢的にも、カシアに子を望むのは難しいとの診断が下される。

 クラークは騎士団を任せることが出来る子を望み愛妾を迎えた。その翌年、次男クライヴが産まれたのだった。
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