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第四章 ウージスパイン魔術大学校
3/魔術研究棟 -17 また起き上がるための
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やがて、全優科の生徒たちが集まってくる。
竜の死体に呆然とする者。
無事でいる事実に涙を流す者。
そして、俺を讃える者。
「──カタナ=ウドウ! 竜殺しのカタナ=ウドウだ!」
「す……ッ、げー! こんなの、もう一生見られないって!」
「ありがとう、ウドウ君! ……本当に、ありがとう!」
「えー……、と」
どーすっかな。
「あんま大事にしないでほしいんだが……」
「いや、無理だろ」
ドズマが突っ込む。
「無理無理! アタシたちだけなら秘密にできるけど……」
「はは、だよな……」
ツィゴニアめ。
いろいろな意味で、全優科の生徒たちを巻き込まないでほしかった。
「──ドズマ。シオニア。一緒に来てくれないか。たぶん、二人の力が要る」
「アタシたちの……?」
「そりゃ、いいけどよ。説明はしろよな」
「ああ」
寮の皆に手を振って、魔術研究棟へときびすを返す。
直線水路を遡りながら、ドズマとシオニアに経緯を説明した。
二人の表情が、どんどん険しくなっていく。
「──クソがッ!」
ドズマが、道端の石を思いきり蹴り飛ばした。
「そんなのって──そんなのって、ない……」
プルが、真剣な瞳で二人に頭を下げる。
「……わ、わたしたちは、ずっとここにはいられない、……から。だから、イオタくんを、さ、支えてあげてほしい……」
「当然だッ!」
「うん。友達、だもん……」
「嗚呼──」
俺は、頬を緩めた。
「……なら、安心だ」
きっと、二人がいれば、イオタは大丈夫だ。
そう思えた。
やがて、俺たちは、業火が燃え広がり完全に倒壊した魔術研究棟へと戻ってきた。
──ツィゴニアが、いた。
研究員らに羽交い締めにされ、顔をボコボコに腫らしながら。
──イオタが、いた。
ツィゴニアの正面で、彼を無表情に睨みつけながら。
「──カタナさん! プルさん!」
「やりおったな、竜殺しめ!」
ヤーエルヘルとヘレジナが、俺たちの元へと駆け寄ってくる。
ヤーエルヘルの腕の中には、シィの死体があった。
「──…………」
竜殺し。
なんて嬉しくない二つ名なのだろう。
俺は、イオタの隣に並んだ。
「……や、やあ……」
ツィゴニアが、誤魔化すように右手を上げてみせる。
「気分はどうだ」
「──…………」
「イオタは、もっとつらかったはずだ」
「……す、すまな──」
イオタが、ぽつりと言う。
「喋るな」
「──…………」
ツィゴニアが、口を閉ざした。
イオタが続ける。
「本音を言えば、今すぐお前を殺したい。シィの受けた苦痛を、お前に知らしめたい」
「ひ……」
「でも、そんなことをしても、シィは帰ってこない。幸い、証言者は無数にいる。ここまで明るみに出れば、お前の失脚も、一生涯の拘留も免れない。お前の人生は終わりだよ、〈お父さん〉」
「そ、それだけは……! わ、私がいなくなれば、ウージスパインはどうなる! 私こそがこの国を最も愛しているのだ! それがわからないのか!」
「──…………」
イオタが、ゴミを見るような目で、ツィゴニアを睨む。
そして、ドズマに右手を差し出した。
「ドズマ、その木剣貸して」
「ああ」
ドズマがイオタに木剣を渡す。
「不快だ。気絶させておく」
「な──」
ツィゴニアの頭部に、頸部に、鳩尾に、容赦のない剣撃が放たれる。
その三撃は、体操術を使っていないにも関わらず、恐ろしく鋭くツィゴニアの肉体を穿った。
「ぐべッ」
ツィゴニアが、研究員の手を離れ、その場に倒れ伏した。
「フー……」
構えを解いて、イオタが呟く。
「……シィさえ殺さなければ、許してあげてもよかったのに」
俺は、イオタの肩に手を置いた。
「大丈夫か?」
イオタが微笑む。
「大丈夫、ですよ。このくらい。ぼくは、強くなったから」
「──…………」
ドズマが、イオタの頭頂部に肘を落とす。
「て」
「馬鹿野郎。それは、強さじゃねェ。強がりって言うんだ」
「強、がり……?」
「──イオタ君」
シオニアが、イオタを抱き締める。
「いいんだよ。泣いて、いいんだ。強さって、そういうことじゃないんだと思う。何度転んでも、負けない強さ。起き上がれる強さ。きっと、イオタ君は持ってるから……」
「──…………」
イオタの目から、雫が溢れる。
「……あ、あああ……、うあ、あ──ああああああああ……っ」
イオタは、泣いた。
シオニアの腕の中で、涸れ果てるまで泣いた。
それは、絶望ではない。
彼が、また起き上がるための涙に違いなかった。
竜の死体に呆然とする者。
無事でいる事実に涙を流す者。
そして、俺を讃える者。
「──カタナ=ウドウ! 竜殺しのカタナ=ウドウだ!」
「す……ッ、げー! こんなの、もう一生見られないって!」
「ありがとう、ウドウ君! ……本当に、ありがとう!」
「えー……、と」
どーすっかな。
「あんま大事にしないでほしいんだが……」
「いや、無理だろ」
ドズマが突っ込む。
「無理無理! アタシたちだけなら秘密にできるけど……」
「はは、だよな……」
ツィゴニアめ。
いろいろな意味で、全優科の生徒たちを巻き込まないでほしかった。
「──ドズマ。シオニア。一緒に来てくれないか。たぶん、二人の力が要る」
「アタシたちの……?」
「そりゃ、いいけどよ。説明はしろよな」
「ああ」
寮の皆に手を振って、魔術研究棟へときびすを返す。
直線水路を遡りながら、ドズマとシオニアに経緯を説明した。
二人の表情が、どんどん険しくなっていく。
「──クソがッ!」
ドズマが、道端の石を思いきり蹴り飛ばした。
「そんなのって──そんなのって、ない……」
プルが、真剣な瞳で二人に頭を下げる。
「……わ、わたしたちは、ずっとここにはいられない、……から。だから、イオタくんを、さ、支えてあげてほしい……」
「当然だッ!」
「うん。友達、だもん……」
「嗚呼──」
俺は、頬を緩めた。
「……なら、安心だ」
きっと、二人がいれば、イオタは大丈夫だ。
そう思えた。
やがて、俺たちは、業火が燃え広がり完全に倒壊した魔術研究棟へと戻ってきた。
──ツィゴニアが、いた。
研究員らに羽交い締めにされ、顔をボコボコに腫らしながら。
──イオタが、いた。
ツィゴニアの正面で、彼を無表情に睨みつけながら。
「──カタナさん! プルさん!」
「やりおったな、竜殺しめ!」
ヤーエルヘルとヘレジナが、俺たちの元へと駆け寄ってくる。
ヤーエルヘルの腕の中には、シィの死体があった。
「──…………」
竜殺し。
なんて嬉しくない二つ名なのだろう。
俺は、イオタの隣に並んだ。
「……や、やあ……」
ツィゴニアが、誤魔化すように右手を上げてみせる。
「気分はどうだ」
「──…………」
「イオタは、もっとつらかったはずだ」
「……す、すまな──」
イオタが、ぽつりと言う。
「喋るな」
「──…………」
ツィゴニアが、口を閉ざした。
イオタが続ける。
「本音を言えば、今すぐお前を殺したい。シィの受けた苦痛を、お前に知らしめたい」
「ひ……」
「でも、そんなことをしても、シィは帰ってこない。幸い、証言者は無数にいる。ここまで明るみに出れば、お前の失脚も、一生涯の拘留も免れない。お前の人生は終わりだよ、〈お父さん〉」
「そ、それだけは……! わ、私がいなくなれば、ウージスパインはどうなる! 私こそがこの国を最も愛しているのだ! それがわからないのか!」
「──…………」
イオタが、ゴミを見るような目で、ツィゴニアを睨む。
そして、ドズマに右手を差し出した。
「ドズマ、その木剣貸して」
「ああ」
ドズマがイオタに木剣を渡す。
「不快だ。気絶させておく」
「な──」
ツィゴニアの頭部に、頸部に、鳩尾に、容赦のない剣撃が放たれる。
その三撃は、体操術を使っていないにも関わらず、恐ろしく鋭くツィゴニアの肉体を穿った。
「ぐべッ」
ツィゴニアが、研究員の手を離れ、その場に倒れ伏した。
「フー……」
構えを解いて、イオタが呟く。
「……シィさえ殺さなければ、許してあげてもよかったのに」
俺は、イオタの肩に手を置いた。
「大丈夫か?」
イオタが微笑む。
「大丈夫、ですよ。このくらい。ぼくは、強くなったから」
「──…………」
ドズマが、イオタの頭頂部に肘を落とす。
「て」
「馬鹿野郎。それは、強さじゃねェ。強がりって言うんだ」
「強、がり……?」
「──イオタ君」
シオニアが、イオタを抱き締める。
「いいんだよ。泣いて、いいんだ。強さって、そういうことじゃないんだと思う。何度転んでも、負けない強さ。起き上がれる強さ。きっと、イオタ君は持ってるから……」
「──…………」
イオタの目から、雫が溢れる。
「……あ、あああ……、うあ、あ──ああああああああ……っ」
イオタは、泣いた。
シオニアの腕の中で、涸れ果てるまで泣いた。
それは、絶望ではない。
彼が、また起き上がるための涙に違いなかった。
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