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第四章 ウージスパイン魔術大学校
3/魔術研究棟 -10 魔術兵器
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「ところで、何故こちらへ?」
「パドロ=デイコスに言われて来た」
「パドロ=デイコス──ああ、あの眼鏡の! はー、はー、なるほどなるほど」
パラガンが、オーバーリアクション気味に何度も頷いた。
「彼、他に何か言ってなかったかな!」
「──…………」
答えない。
俺は、この男を信用していない。
プルたちも、俺の判断を信じてか、何も言わなかった。
「ええー、会話もしてくれないのかい。おじさんつまらないな! まあ、いいけど。道中、我が魔術研究科の理念でも聞いて行きたまえ!」
無機質な廊下を歩きながら、パラガンが続ける。
「魔術とは探求である。我々には既に手本が用意されている。であれば、その手本を目指し、さらにその先へ行くのが目標であるべきだ」
「──…………」
「魔術研究科では、新規魔術の開発の他、神代魔術の再現を行っている」
ナナさんのことを思い出してか、ヤーエルヘルが口を開いた。
「それ、純粋魔術──でしか?」
「いやいやいや、もちろん純粋魔術とは異なるとも! 純粋魔術とは、あくまで主義、考え方に過ぎない。純粋魔術の生み出した便利な魔術があったとして、それを避けて通るのはおかしな話だろう? 空を飛べそうだから飛んだ純粋魔術の信奉者とは異なり、目的を持って空を飛ぶことを目指す。そのためには、既に空を飛んだ人々の手法を再現するのが近道だ。我々がやっているのは、それだよ」
ヘレジナが呟く。
「詭弁のようにも思えるが……」
「ははは、よく言われる言われる! だが、純粋魔術なんかに予算は下りない。我々はあくまで、目的のために魔術を発展させている。それは疑いようのない事実だぜ」
そう言って、パラガンが足を止める。
「さて、ここだ」
物々しい扉の脇に、半輝石が埋め込まれている。
パラガンは、懐から金属製のカードを取り出すと、それを半輝石の隣のスロットに差し込んだ。
半輝石に魔力を込めることで、扉が左右に開いていく。
「こういったカードキーも、より良いセキュリティをと探求した成果だ。原理を説明しよう。半輝石と機構を繋ぐ術式に隙間を空け、そこに──」
「お前、時間稼ぎをしてるだろ」
「──……ッ」
パラガンが息を呑む。
「わざと歩く速度を緩めていた。それを誤魔化すために長話をしていた。見ればわかる」
「……敵わないな」
パラガンが、両手を上げた。
「わかった、わかった。ツィゴニア=シャンに会わせよう」
扉の向こうに伸びるのは、角度のきつい階段だ。
俺たちは、地獄に通じているとすら思える階段を、ゆっくりと下って行く。
長い、長い、階の先──
地下に広がっていたのは、鋼鉄製の壁に囲まれた広大な空間だった。
見渡す限り、何もない。
「──さて。ツィゴニア=シャンと会わせるためには、幾つか条件がある」
「条件?」
「戦闘テストに付き合ってもらいたい」
「──…………」
目をすがめる。
「お前をここで斬って、別の誰かを連れて来てもいい」
「ははは、血気盛んだね! だけど、この空間は既に監視されているんだ。妙な行動を起こした際に、二人の安全は保証しかねるが、よろしいかな」
エイザンやパドロみたいなことを言う。
「何と戦わせる気だ」
「そうそうそう、そうこなくっちゃ! なに、ちょっとした魔術兵器というやつさ。軍備増強、どこの国だって必要だろう?」
「くだらんな」
ヘレジナが鼻を鳴らす。
「ウージスパインは、北に接するハウルマンバレー、南に接するクルドゥワ、島国であるアーウェンとも、良好な関係を結んでいると聞く。ラーイウラは王が代替わりし、すぐに国交が開かれるだろう。いったい何と戦うのだ」
「その蜜月が永久に続くと思うのが、素人の浅はかささ。関係が悪化してから増強したって遅いんだぜ。わかるかな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんではないわ!」
「──んで、その魔術兵器のテストを、あわよくば俺たちの始末ついでにしたいわけだ」
「その通り!」
隠さなくなってきたな。
「勝手にしろよ。魔術兵器だのなんだの、好きに出せばいい」
「ほう! 大きく出たね、よろしい」
パラガンが大声を張る。
「アーツェを、いるだけ出せ! 全部だ!」
パラガンの声に呼応するように、
──ガコン。
壁の一部が開いた。
ざわざわと、人ならぬ声が耳をくすぐる。
暗闇から現れ出たるものは──
異形。
無数の異形だった。
「ひ──」
ヤーエルヘルが、俺の背中に隠れる。
漆黒の肉体に三本の足。
節くれ立った関節からは、幾つも歯が覗いている。
無数の口の奥にてらてらと光る眼球があり、それらが俺たちを睨んでいるように見えた。
数人の人間を鍋で煮て、ドロドロになった後に再び固めたような怪物だ。
「──さあ、見せてくれアーツェ! お前たちの戦闘能力を!」
そう言って、パラガンが階段を上がっていく。
パラガンが壁に設置されていた半輝石に触れると、床から五十段ほどの階段が格納され、俺たちは逃げ場を失った。
「パドロ=デイコスに言われて来た」
「パドロ=デイコス──ああ、あの眼鏡の! はー、はー、なるほどなるほど」
パラガンが、オーバーリアクション気味に何度も頷いた。
「彼、他に何か言ってなかったかな!」
「──…………」
答えない。
俺は、この男を信用していない。
プルたちも、俺の判断を信じてか、何も言わなかった。
「ええー、会話もしてくれないのかい。おじさんつまらないな! まあ、いいけど。道中、我が魔術研究科の理念でも聞いて行きたまえ!」
無機質な廊下を歩きながら、パラガンが続ける。
「魔術とは探求である。我々には既に手本が用意されている。であれば、その手本を目指し、さらにその先へ行くのが目標であるべきだ」
「──…………」
「魔術研究科では、新規魔術の開発の他、神代魔術の再現を行っている」
ナナさんのことを思い出してか、ヤーエルヘルが口を開いた。
「それ、純粋魔術──でしか?」
「いやいやいや、もちろん純粋魔術とは異なるとも! 純粋魔術とは、あくまで主義、考え方に過ぎない。純粋魔術の生み出した便利な魔術があったとして、それを避けて通るのはおかしな話だろう? 空を飛べそうだから飛んだ純粋魔術の信奉者とは異なり、目的を持って空を飛ぶことを目指す。そのためには、既に空を飛んだ人々の手法を再現するのが近道だ。我々がやっているのは、それだよ」
ヘレジナが呟く。
「詭弁のようにも思えるが……」
「ははは、よく言われる言われる! だが、純粋魔術なんかに予算は下りない。我々はあくまで、目的のために魔術を発展させている。それは疑いようのない事実だぜ」
そう言って、パラガンが足を止める。
「さて、ここだ」
物々しい扉の脇に、半輝石が埋め込まれている。
パラガンは、懐から金属製のカードを取り出すと、それを半輝石の隣のスロットに差し込んだ。
半輝石に魔力を込めることで、扉が左右に開いていく。
「こういったカードキーも、より良いセキュリティをと探求した成果だ。原理を説明しよう。半輝石と機構を繋ぐ術式に隙間を空け、そこに──」
「お前、時間稼ぎをしてるだろ」
「──……ッ」
パラガンが息を呑む。
「わざと歩く速度を緩めていた。それを誤魔化すために長話をしていた。見ればわかる」
「……敵わないな」
パラガンが、両手を上げた。
「わかった、わかった。ツィゴニア=シャンに会わせよう」
扉の向こうに伸びるのは、角度のきつい階段だ。
俺たちは、地獄に通じているとすら思える階段を、ゆっくりと下って行く。
長い、長い、階の先──
地下に広がっていたのは、鋼鉄製の壁に囲まれた広大な空間だった。
見渡す限り、何もない。
「──さて。ツィゴニア=シャンと会わせるためには、幾つか条件がある」
「条件?」
「戦闘テストに付き合ってもらいたい」
「──…………」
目をすがめる。
「お前をここで斬って、別の誰かを連れて来てもいい」
「ははは、血気盛んだね! だけど、この空間は既に監視されているんだ。妙な行動を起こした際に、二人の安全は保証しかねるが、よろしいかな」
エイザンやパドロみたいなことを言う。
「何と戦わせる気だ」
「そうそうそう、そうこなくっちゃ! なに、ちょっとした魔術兵器というやつさ。軍備増強、どこの国だって必要だろう?」
「くだらんな」
ヘレジナが鼻を鳴らす。
「ウージスパインは、北に接するハウルマンバレー、南に接するクルドゥワ、島国であるアーウェンとも、良好な関係を結んでいると聞く。ラーイウラは王が代替わりし、すぐに国交が開かれるだろう。いったい何と戦うのだ」
「その蜜月が永久に続くと思うのが、素人の浅はかささ。関係が悪化してから増強したって遅いんだぜ。わかるかな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんではないわ!」
「──んで、その魔術兵器のテストを、あわよくば俺たちの始末ついでにしたいわけだ」
「その通り!」
隠さなくなってきたな。
「勝手にしろよ。魔術兵器だのなんだの、好きに出せばいい」
「ほう! 大きく出たね、よろしい」
パラガンが大声を張る。
「アーツェを、いるだけ出せ! 全部だ!」
パラガンの声に呼応するように、
──ガコン。
壁の一部が開いた。
ざわざわと、人ならぬ声が耳をくすぐる。
暗闇から現れ出たるものは──
異形。
無数の異形だった。
「ひ──」
ヤーエルヘルが、俺の背中に隠れる。
漆黒の肉体に三本の足。
節くれ立った関節からは、幾つも歯が覗いている。
無数の口の奥にてらてらと光る眼球があり、それらが俺たちを睨んでいるように見えた。
数人の人間を鍋で煮て、ドロドロになった後に再び固めたような怪物だ。
「──さあ、見せてくれアーツェ! お前たちの戦闘能力を!」
そう言って、パラガンが階段を上がっていく。
パラガンが壁に設置されていた半輝石に触れると、床から五十段ほどの階段が格納され、俺たちは逃げ場を失った。
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