上 下
275 / 286
第四章 ウージスパイン魔術大学校

3/魔術研究棟 -10 魔術兵器

しおりを挟む
「ところで、何故こちらへ?」
「パドロ=デイコスに言われて来た」
「パドロ=デイコス──ああ、あの眼鏡の! はー、はー、なるほどなるほど」
 パラガンが、オーバーリアクション気味に何度も頷いた。
「彼、他に何か言ってなかったかな!」
「──…………」
 答えない。
 俺は、この男を信用していない。
 プルたちも、俺の判断を信じてか、何も言わなかった。
「ええー、会話もしてくれないのかい。おじさんつまらないな! まあ、いいけど。道中、我が魔術研究科の理念でも聞いて行きたまえ!」
 無機質な廊下を歩きながら、パラガンが続ける。
「魔術とは探求である。我々には既に手本が用意されている。であれば、その手本を目指し、さらにその先へ行くのが目標であるべきだ」
「──…………」
「魔術研究科では、新規魔術の開発の他、神代魔術の再現を行っている」
 ナナさんのことを思い出してか、ヤーエルヘルが口を開いた。
「それ、純粋魔術──でしか?」
「いやいやいや、もちろん純粋魔術とは異なるとも! 純粋魔術とは、あくまで主義、考え方に過ぎない。純粋魔術の生み出した便利な魔術があったとして、それを避けて通るのはおかしな話だろう? 空を飛べそうだから飛んだ純粋魔術の信奉者とは異なり、目的を持って空を飛ぶことを目指す。そのためには、既に空を飛んだ人々の手法を再現するのが近道だ。我々がやっているのは、それだよ」
 ヘレジナが呟く。
「詭弁のようにも思えるが……」
「ははは、よく言われる言われる! だが、純粋魔術なんかに予算は下りない。我々はあくまで、目的のために魔術を発展させている。それは疑いようのない事実だぜ」
 そう言って、パラガンが足を止める。
「さて、ここだ」
 物々しい扉の脇に、半輝石セルが埋め込まれている。
 パラガンは、懐から金属製のカードを取り出すと、それを半輝石セルの隣のスロットに差し込んだ。
 半輝石セル魔力マナを込めることで、扉が左右に開いていく。
「こういったカードキーも、より良いセキュリティをと探求した成果だ。原理を説明しよう。半輝石セルと機構を繋ぐ術式に隙間を空け、そこに──」
「お前、時間稼ぎをしてるだろ」
「──……ッ」
 パラガンが息を呑む。
「わざと歩く速度を緩めていた。それを誤魔化すために長話をしていた。見ればわかる」
「……敵わないな」
 パラガンが、両手を上げた。
「わかった、わかった。ツィゴニア=シャンに会わせよう」
 扉の向こうに伸びるのは、角度のきつい階段だ。
 俺たちは、地獄に通じているとすら思える階段を、ゆっくりと下って行く。
 長い、長い、きざはしの先──
 地下に広がっていたのは、鋼鉄製の壁に囲まれた広大な空間だった。
 見渡す限り、何もない。
「──さて。ツィゴニア=シャンと会わせるためには、幾つか条件がある」
「条件?」
「戦闘テストに付き合ってもらいたい」
「──…………」
 目をすがめる。
「お前をここで斬って、別の誰かを連れて来てもいい」
「ははは、血気盛んだね! だけど、この空間は既に監視されているんだ。妙な行動を起こした際に、二人の安全は保証しかねるが、よろしいかな」
 エイザンやパドロみたいなことを言う。
「何と戦わせる気だ」
「そうそうそう、そうこなくっちゃ! なに、ちょっとした魔術兵器というやつさ。軍備増強、どこの国だって必要だろう?」
「くだらんな」
 ヘレジナが鼻を鳴らす。
「ウージスパインは、北に接するハウルマンバレー、南に接するクルドゥワ、島国であるアーウェンとも、良好な関係を結んでいると聞く。ラーイウラは王が代替わりし、すぐに国交が開かれるだろう。いったい何と戦うのだ」
「その蜜月が永久に続くと思うのが、素人の浅はかささ。関係が悪化してから増強したって遅いんだぜ。わかるかな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんではないわ!」
「──んで、その魔術兵器のテストを、あわよくば俺たちの始末ついでにしたいわけだ」
「その通り!」
 隠さなくなってきたな。
「勝手にしろよ。魔術兵器だのなんだの、好きに出せばいい」
「ほう! 大きく出たね、よろしい」
 パラガンが大声を張る。
「アーツェを、いるだけ出せ! 全部だ!」
 パラガンの声に呼応するように、

 ──ガコン。

 壁の一部が開いた。
 ざわざわと、人ならぬ声が耳をくすぐる。
 暗闇から現れ出たるものは──

 異形。
 無数の異形だった。

「ひ──」
 ヤーエルヘルが、俺の背中に隠れる。
 漆黒の肉体に三本の足。
 節くれ立った関節からは、幾つも歯が覗いている。
 無数の口の奥にてらてらと光る眼球があり、それらが俺たちを睨んでいるように見えた。
 数人の人間を鍋で煮て、ドロドロになった後に再び固めたような怪物だ。
「──さあ、見せてくれアーツェ! お前たちの戦闘能力を!」
 そう言って、パラガンが階段を上がっていく。
 パラガンが壁に設置されていた半輝石セルに触れると、床から五十段ほどの階段が格納され、俺たちは逃げ場を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...