上 下
272 / 286
第四章 ウージスパイン魔術大学校

3/魔術研究棟 -7 逆襲

しおりを挟む
 俺たちは、無力感に苛まれながら、ベディ術具店へと帰り着いた。
 懐中時計を視線を落とす。
 既に日付が変わっていた。
「──…………」
 俺の背中で、ヤーエルヘルが寝息を立てている。
 無理もない。
「……さ、さすがに、疲れた、……ね」
 ふらりと上体を揺らすプルを、ヘレジナがそっと支える。
「プルさま、大丈夫ですか。ずっと歩き通しでしたから……」
「う、うん。大丈夫。す、すこし、休めば……」
 ベディルスが、小さく頭を下げる。
「連れ回してしまって、すまない」
「い、いえ。ツィゴニアさんを、み、見つけてあげない、……と」
 プルが、力なく微笑んだ。
「──…………」
 ベディ術具店へと伸びる路地で、ベディルスが足を止める。
「私は、もう、ツィゴニアの生存は絶望的であると考えている」
「ベディルスさん……?」
「姿を消してから、一日が経とうとしている。彼奴らがツィゴニアを誘拐した目的は不明だが、声明のたぐいは一切届いていない。これで生きていると考えるほうが無理な話だ。だから、明日は──」
「諦めるな、ベディルス=シャン!」
 ベディルスの両肩を掴む。
「あんたの孫は、強い! この程度じゃあ諦めない! 孫に胸を張れる祖父であれよ!」
「──…………」
 ベディルスは、見開いた目をゆっくりと細めた。
「……すまん。年を取ると、弱気の虫が疼くものだな。わかった、君たちが良ければ明日も捜索を続けよう」
「ええ、もちろん」
 懐から取り出した鍵を、ベディルスが玄関扉に差し込む。
「──…………」
 その動きが、ぴたりと止まった。
「開いている」
「──!」
 場に緊張が走る。
「私は、魔術の矢をいつでも放てるようにしておく。ウドウ君、扉を開けてもらっていいだろうか」
「はい」
 ヤーエルヘルを下ろし、立たせる。
「……んに?」
「悪い、ヤーエルヘル。ヘレジナの後ろに隠れててくれ」
「は、はい……」
 プルとヤーエルヘルの安全を確保したあと、俺は神眼を発動した。
 扉を開く。
 灯術の明かりが煌々と店内を照らし出している。
 奥のカウンターに、誰かが座っていた。
 新聞を広げている。
「──元老院議員ツィゴニア=シャン、誘拐される。明日には、首都カラスカにこの記事が届くでしょうね」
 それは、聞き覚えのある声だった。
 男が新聞を畳む。
「パドロ=デイコス……ッ!」
「こんばんは、カタナ=ウドウ。随分待ちましたよ」
「デイコス──だと」
 ベディルスが、唸るような低い声でその名を呼んだ。
「おっと」
 パドロが、おどけたように言う。
「ベディルス=シャン。その矢は、お互いに、放たないほうがいい。まず、こちらを見ていただきましょうか」
 パドロが、カウンターに置かれていた細長い布をつまみ上げた。
 俺は、そのリボンに見覚えがあった。
「シオ……、ニア……?」
 それは、シオニアが髪をまとめるのに使っていたリボンのように見えた。
「──シオニアをどうした」
 平静を失いかけているのが、わかる。
 返答によっては、俺はこの男を殺すだろう。
「君の御学友の言葉を借りましょうか」
 パドロが、両の目尻を引き、狐目を作る。
「〈もし僕が犯人だったとしたら、自分を攻撃すれば彼女を殺すよう監視させておくけどね〉」
「……見ていたのか」
「将来有望なお坊ちゃんですね。もっとも、彼は、全優科を除籍になるそうだけれど」
 神眼を再発動し、気配を探る。
 誰もいない。
 だが、魔術か何かで店内を監視されている可能性は否めない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

地球からきた転生者の殺し方 =ハーレム要員の女の子を一人ずつ寝取っていきます

三浦裕
ファンタジー
「地球人てどーしてすぐ転生してくんの!? いや転生してもいいけどうちの世界にはこないで欲しいわけ、迷惑だから。いや最悪きてもいいけどうちの国には手をださんで欲しいわけ、滅ぶから。まじ迷惑してます」  地球から来た転生者に散々苦しめられたオークの女王オ・ルナは憤慨していた。必ずやあのくそ生意気な地球人どもに目にものみせてくれようと。だが―― 「しっかし地球人超つえーからのう……なんなのあの針がバカになった体重計みたいなステータス。バックに女神でもついてんの? 勝てん勝てん」  地球人は殺りたいが、しかし地球人強すぎる。悩んだオ・ルナはある妙案を思いつく。 「地球人は地球人に殺らせたろ。むっふっふ。わらわってばまじ策士」  オ・ルナは唯一知り合いの地球人、カトー・モトキにクエストを発注する。  地球からきた転生者を、オークの国にあだなす前に殺ってくれ。 「報酬は……そうじゃのう、一人地球人を殺すたび、わらわにエ、エッチなことしてよいぞ……?」  カトーはその提案に乗る。 「任せとけ、転生者を殺すなんて簡単だ――あいつはハーレム要員の女を寝取られると、勝手に力を失って弱る」 毎日更新してます。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

幼馴染み達がハーレム勇者に行ったが別にどうでもいい

みっちゃん
ファンタジー
アイ「恥ずかしいから家の外では話しかけて来ないで」 サユリ「貴方と話していると、誤解されるからもう2度と近寄らないで」 メグミ「家族とか気持ち悪、あんたとは赤の他人だから、それじゃ」 義理の妹で同い年のアイ 幼馴染みのサユリ 義理の姉のメグミ 彼女達とは仲が良く、小さい頃はよく一緒遊んでいた仲だった… しかし カイト「皆んなおはよう」 勇者でありイケメンでもあるカイトと出会ってから、彼女達は変わってしまった 家でも必要最低限しか話さなくなったアイ 近くにいることさえ拒絶するサユリ 最初から知らなかった事にするメグミ そんな生活のを続けるのが この世界の主人公 エイト そんな生活をしていれば、普通なら心を病むものだが、彼は違った…何故なら ミュウ「おはよう、エイト」 アリアン「おっす!エイト!」 シルフィ「おはようございます、エイト様」 エイト「おはよう、ミュウ、アリアン、シルフィ」 カイトの幼馴染みでカイトが密かに想いを寄せている彼女達と付き合っているからだ 彼女達にカイトについて言っても ミュウ「カイト君?ただ小さい頃から知ってるだけだよ?」 アリアン「ただの知り合い」 シルフィ「お嬢様のストーカー」 エイト「酷い言われ様だな…」 彼女達はカイトの事をなんとも思っていなかった カイト「僕の彼女達を奪いやがって」

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...