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第四章 ウージスパイン魔術大学校

3/魔術研究棟 -5 捜査

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 乗合騎竜車に揺られながら、ウージスパイン魔術大学校の敷地を大きく迂回して北区へ向かう。
 くだんの会社は、すぐに見つかった。
 三階建ての無骨な建造物に、〈アイロート身辺警護〉と看板が出ている──らしい。
 読めないが、それなりに大きな企業であることはわかる。
 ベディルスが、アイロート身辺警護の玄関を押し開き、ずかずかと社内へ入っていく。
「社長室はどこだ」
「お、お客さま。アポイントメントのない方は──」
「社長室はどこだ」
「え、その……」
 受付嬢の視線が、助けを求めるように上階へと振れた。
「上だな」
「ああッ! アポイントメントのない方はあッ!」
 受付嬢を無視し、上階へと向かう。
「……すごいな、あの人」
 プルが、呆然としながら言う。
「は、初めて会ったとき、あんな感じだった、……ね」
「そうだったな……」
 躊躇なく進んで行くベディルスの後を追う。
 そのまま三階まで上がると、ベディルスが社長室の扉を蹴り開くところだった。
「──うおッ! な、なんだアンタたちは!」
 ベディルスが、客用のソファにどっかと腰を下ろす。
「お前のところの社員のことで、話がある」
「常識がないのかね! お、おい! 誰か来てくれ!」
 隣室から、物々しい装備を着けたむくつけき男たちが数人現れる。
「私には、話を聞く権利がある」
「なんだと」
「私の名は、ベディルス=シャン。お前たちが護衛を失敗したツィゴニア=シャンの父親だ」
「──…………」
 場が静まり返る。
 顔を蒼白にした社長が、男たちに言った。
「……お、お茶をお淹れして」
 すごいを通り越して、怖かった。
「君たちも、座れ。まずは話を聞かねばならん」
「あ、はい……」
「本当にただの術具士なのか、貴様は……」
「術具士だとも。アイバ君の右手を見ればわかるだろう。〈ただの〉かどうかは知らんがな」
 アイロート身辺警護は、師範級の武術士と魔術士を総計十一名擁するネウロパニエでも大きな警護会社だ。
 信頼と実績も重ねており、幾度も要人警護を成功させている。
「ツィゴニア様にも贔屓にしていただいておりました。ネウロパニエをお忍びで訪れる際には、必ず指名を賜りまして。このようなことになって、本当に、面目次第もございません……!」
 社長が深々と頭を下げる。
「そんなことはどうだっていい。息子の護衛についたのは、誰だ」
「我が社でも腕利きの者が、四名。彼らがやられるとなれば、相手は奇跡級の武術士、あるいは魔術士であったことは間違いないでしょう」
「裏切る可能性は」
「……裏切る?」
 社長の眉間に皺が寄った。
「それは、あり得ません。彼らは我が社で十年以上雇用しており、信頼関係も築いていたと自負しております。給金の面でも十分な支払いをしておりますから、その面からもトラブルになったことはございませんし」
「ふむ……」
 確認したいことがあった。
「彼らの写真はありますか?」
「ええ、あります」
「見せていただきたいのですが」
「構いませんが……」
 社長が、書棚のファイルから、四名に関する書類を取り出す。
 書類のあいだに金属板が挟まっていた。
 皆で、金属写真を確認する。
「う、うん。見覚え、ある……」
「今から三週間前か。さすがに明確には覚えていないが、アンパニエ・ホテルのロビーで見たような気もする」
「──…………」
「──……」
 俺とヤーエルヘルは、顔を見合わせた。
 互いに頷き合い、口を開く。
「いない」
 ベディルスが、不可解そうに尋ねた。
「……どういう意味だ?」
「俺とヤーエルヘルがアンパニエ・スイートで見た護衛の顔が、ないんです」
 社長が目を見開く。
「まさか。交代したという話は聞いていないが……」
「いちおう、社員全員の写真も見せてもらっていいですか?」
「ええ、わかりました」
 五十枚近い金属写真を確認する。
 だが、あの日俺たちにグラスを運んできた護衛の顔は、どこにもなかった。
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