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第四章 ウージスパイン魔術大学校
3/魔術研究棟 -4 現場検証
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乗合騎竜車を利用する距離でもないため、徒歩でアンパニエ・ホテルへと向かう。
ホテルのロビーは騒然としていた。
当然だろう。
よりにもよって、最上階のアンパニエ・スイートから要人が一人姿を消したのだから。
「──シャンさん!」
憲兵の一人が、ベディルスに話し掛ける。
「今なら大丈夫です。上が来るまで、まだ一時間ほどありますから」
ベディルスが憲兵に右手を上げて応じる。
「わかった、礼を言う」
「後ろの方たちは?」
「私の護衛だ」
「こんにちは」
憲兵に会釈をする。
「しかし、ほとんど子供──、ん?」
言い掛けて、憲兵が俺の顔をまじまじと見つめた。
「……あなた、もしかして、参観会の武術大会に出てた、カタナ=ウドウ!?」
「まあ、はい」
「いやー、見てたよ! あの圧倒的強さ! 久し振りに痺れたね!」
「どうも……」
やりにくいな。
困っていると、ベディルスが憲兵の尻を蹴り上げた。
「だッ!」
「今は、それどころではない」
「す、すみません。今、最上階へ案内します……!」
以前と同じように、昇降機を使って最上階へと赴く。
アンパニエ・スイートの扉は、既に開かれていた。
「では、見て見ぬふりができるのは三十分ほどです。お急ぎください」
「魔力痕は確認できたのか」
「いえ、確認できませんでした。血痕も同様です」
アンパニエ・スイートを見渡す。
書類は散乱し、生花は倒れて土を撒き散らし、ソファの座面は切り裂かれ綿が覗いている。
「──…………」
妙だ、と思った。
「憲兵さん、血痕もなかったんですよね」
「ああ、ないよ。綺麗なものだ」
「これだけ争った形跡があるのに、誰一人として怪我をしてない……?」
ヤーエルヘルが続く。
「ツィゴニアさんの護衛、三人以上はいましたよね。そこにデイコスがやってきたとして、どうしてこの状況になるのでしょう……」
「──…………」
ヘレジナが、思案して口を開いた。
「デイコスは、武に長けた連中ではない。真正面から斬り合うことなどするはずもない。やつらがツィゴニアを誘拐するとなれば、まず護衛を暗殺したはず。だが、その痕跡がない」
プルがヘレジナに尋ねた。
「で、デイコスの仕業じゃない、……って、こ、こと?」
「断定はできませんが……」
「──…………」
ソファの座面に触れる。
「……違和感があるんだよ。たとえば、俺やヘレジナが、単独でツィゴニアさんを誘拐しに来たとする。護衛を殺さずに無力化することは可能だ。ただ、その場合、室内はここまで荒れない。護衛を無力化したのが奇跡級ならこの荒れようがおかしいし、師範級が数人であれば血痕がないのがおかしい。まるで、わざと荒らしたみたいに見える」
考えろ。
考えろ。
この不自然な状況を考えろ。
「──…………」
ある一つの可能性が浮上する。
「……護衛が、犯人?」
「な──」
ヘレジナが目をまるくする。
「護衛が犯人なら、この違和感の説明はつく。血痕がないのは争わなかったから。争った形跡があるのは、護衛が犯人であることを隠すため、か」
ベディルスが頷く。
「なるほど、あり得ない話ではない。おい、ツィゴニアの護衛の身許はわかるか」
憲兵が、メモ帳を確認しながら答えた。
「は、はい。要人警護専門の企業でして。かなり実績のある会社なんですが……」
「憲兵は向かっているのか」
「ええ。今回の場合、護衛たちも被害者である可能性が高かったものですから」
「そいつらが犯人かもしれん。社名と住所を教えろ」
「は、はい! しばしお待ちを」
憲兵が、慌てて階下へと降りていく。
「……ベディルスさんって、何者なんです? 憲兵をあごで使って」
「ただ貸しがあるだけだ、気にするな。次は警護会社へ向かおう。細い繋がりだが、追う価値はある」
俺たちは、憲兵から会社名と住所を聞くと、アンパニエ・ホテルを後にした。
ホテルのロビーは騒然としていた。
当然だろう。
よりにもよって、最上階のアンパニエ・スイートから要人が一人姿を消したのだから。
「──シャンさん!」
憲兵の一人が、ベディルスに話し掛ける。
「今なら大丈夫です。上が来るまで、まだ一時間ほどありますから」
ベディルスが憲兵に右手を上げて応じる。
「わかった、礼を言う」
「後ろの方たちは?」
「私の護衛だ」
「こんにちは」
憲兵に会釈をする。
「しかし、ほとんど子供──、ん?」
言い掛けて、憲兵が俺の顔をまじまじと見つめた。
「……あなた、もしかして、参観会の武術大会に出てた、カタナ=ウドウ!?」
「まあ、はい」
「いやー、見てたよ! あの圧倒的強さ! 久し振りに痺れたね!」
「どうも……」
やりにくいな。
困っていると、ベディルスが憲兵の尻を蹴り上げた。
「だッ!」
「今は、それどころではない」
「す、すみません。今、最上階へ案内します……!」
以前と同じように、昇降機を使って最上階へと赴く。
アンパニエ・スイートの扉は、既に開かれていた。
「では、見て見ぬふりができるのは三十分ほどです。お急ぎください」
「魔力痕は確認できたのか」
「いえ、確認できませんでした。血痕も同様です」
アンパニエ・スイートを見渡す。
書類は散乱し、生花は倒れて土を撒き散らし、ソファの座面は切り裂かれ綿が覗いている。
「──…………」
妙だ、と思った。
「憲兵さん、血痕もなかったんですよね」
「ああ、ないよ。綺麗なものだ」
「これだけ争った形跡があるのに、誰一人として怪我をしてない……?」
ヤーエルヘルが続く。
「ツィゴニアさんの護衛、三人以上はいましたよね。そこにデイコスがやってきたとして、どうしてこの状況になるのでしょう……」
「──…………」
ヘレジナが、思案して口を開いた。
「デイコスは、武に長けた連中ではない。真正面から斬り合うことなどするはずもない。やつらがツィゴニアを誘拐するとなれば、まず護衛を暗殺したはず。だが、その痕跡がない」
プルがヘレジナに尋ねた。
「で、デイコスの仕業じゃない、……って、こ、こと?」
「断定はできませんが……」
「──…………」
ソファの座面に触れる。
「……違和感があるんだよ。たとえば、俺やヘレジナが、単独でツィゴニアさんを誘拐しに来たとする。護衛を殺さずに無力化することは可能だ。ただ、その場合、室内はここまで荒れない。護衛を無力化したのが奇跡級ならこの荒れようがおかしいし、師範級が数人であれば血痕がないのがおかしい。まるで、わざと荒らしたみたいに見える」
考えろ。
考えろ。
この不自然な状況を考えろ。
「──…………」
ある一つの可能性が浮上する。
「……護衛が、犯人?」
「な──」
ヘレジナが目をまるくする。
「護衛が犯人なら、この違和感の説明はつく。血痕がないのは争わなかったから。争った形跡があるのは、護衛が犯人であることを隠すため、か」
ベディルスが頷く。
「なるほど、あり得ない話ではない。おい、ツィゴニアの護衛の身許はわかるか」
憲兵が、メモ帳を確認しながら答えた。
「は、はい。要人警護専門の企業でして。かなり実績のある会社なんですが……」
「憲兵は向かっているのか」
「ええ。今回の場合、護衛たちも被害者である可能性が高かったものですから」
「そいつらが犯人かもしれん。社名と住所を教えろ」
「は、はい! しばしお待ちを」
憲兵が、慌てて階下へと降りていく。
「……ベディルスさんって、何者なんです? 憲兵をあごで使って」
「ただ貸しがあるだけだ、気にするな。次は警護会社へ向かおう。細い繋がりだが、追う価値はある」
俺たちは、憲兵から会社名と住所を聞くと、アンパニエ・ホテルを後にした。
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