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第四章 ウージスパイン魔術大学校

2/魔術大学校 -46 参観会前日

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「──だあッ!」
 イオタが木剣を右袈裟に振り下ろす。
 型とは本来、何年もかけて身につけるものだ。
 僅かな期間で急激に上達することはない。
 故に、イオタの剣捌きは、修練を始めた頃と大差なかった。
 だが、自分の攻撃に対し相手が反射的にどう動くか、その予測精度は確実に上がっていた。
 現在、イオタが組み上げられるのは、三手まで。
 一度目の予測が外れれば、その後の攻撃は隙だらけとなる。
 故に、一撃目は〈誘い〉の要素が強かった。
 わかりやすい一撃を放ち、わかりやすく対応させる。
 本命は、二撃目、三撃目だ。
 大きく背後に跳び退った俺を追うように、イオタが追撃の左薙ぎを放つ。
 さらに、一歩距離を取る。
 重心がぶれ、体勢が崩れる。
 それがイオタの狙いだった。
「はッ!」
 自らの矮躯を活かした低い一撃が、俺の向こうずねへと襲い掛かる。
 そうだな。
 せっかくの良い一撃だ、もらっておこう。
 俺は、そのまま回避行動を取らずに、イオタの木剣をすねで受け止めた。
 激痛が走る。
 イオタの顔が、驚きに歪んだ。
「──えっ」
「よくできました」
「カタナさん、え、どうして……?」
 イオタが木剣を取り落とす。
「良い一撃だったからな。食らっといた」
「い、痛くないんですか!」
「痛いぞ。すげー痛い。脛に木剣で一撃食らって痛くないわけないだろ」
「──…………」
 イオタの表情に、怒りが混じっていく。
「なんで、避けなかったんですか。カタナさんなら避けられたでしょう!」
「俺の動きは徒弟級上位を想定してる。徒弟級上位であれば、今の攻撃を避けることはできなかった」
「そういうことじゃなくて……!」
 イオタが、右手で髪の毛を掻きむしる。
「……どうして、そこまでするんですか。してくれるんですか」
「ははっ」
 懐かしいな。
「それ、俺も聞いた。俺の師匠せんせいに聞いたよ。あの人、俺に右腕まで斬り飛ばされたんだぜ。それに比べたら平気平気」
「それは、比較対象がおかしいのであって……」
「──…………」
 俺は、イオタの目を見つめた。
「簡単なことだ、イオタ。俺は、俺がしてもらったことを、しているだけだ」
「してもらった、こと……」
「俺が、師匠せんせいにしてもらったこと。将来、お前に弟子ができたとしたら、きっと同じことをする。そのとき、ようやくわかるんだろうな。今の俺の気持ちがさ」
 イオタが、やるせないような、複雑な表情を浮かべる。
「……治癒術、使います。言っておきますけど、まだ徒弟級第四位ですから。時間かかりますからね」
「ああ、頼むわ。ちょっと脂汗出てきた」
「ほんと、無茶する……」
 イオタが俺の前に膝をつき、両手を向こうずねにかざす。
 かすかな光が、患部を温かく包み込んだ。
「イオタ。今のお前は、徒弟級下位と中位の境目にいる。元は徒弟級未満。体操術を禁じた状態で、徒弟級下位だった」
「……強く、なってますか?」
「ああ、なってる。派手な成長じゃない。だが、速度としては申し分ない。よって、体操術の使用を限定的に認めよう」
 イオタが目を見開く。
「使っていいんですか?」
「限定的に、だ。今のお前は、三手までの決め打ちしかできない。一撃目の予測が外れれば、二撃目は隙になる。二撃目の予測が外れれば、三撃目は隙になる。だが、予測を外したとしても、直後の攻撃は止められない」
「はい」
「体操術の使用条件は、必ず決められると確信した連撃の、三手目。それのみだ」
「三手目……」
「何故体操術を禁じたか、覚えてるか?」
「テオ剛剣流の型と、体操術。同時に操ることが、ぼくにはできないから──ですよね」
「ああ。イオタの技術レベルだと、連撃になれば、もう型は関係ない。そもそも、テオ剛剣流自体に連撃の概念が薄いからな。どう足掻いたところで、二撃目、三撃目は、力任せに木剣を振り回すだけになる。なら、体操術を使ってもデメリットは薄いはずだ」
「なるほど……」
 俺は、右足を軽く動かした。
「──よし、もう痛くない」
「よかった」
「次は、三手目を体操術を使って放つ練習だ。明日までに仕上げるぞ」
「はい!」
 参観会は、明日に迫っていた。
 俺たちが全優科を離れる日だ。
 明日の午後、武術大会が開催される。
 イオタの自信に繋がる結果を、なんとしてでも引き寄せよう。
 それが、残された時間で唯一、俺がイオタのために残せるものだと思うからだ。
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