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第四章 ウージスパイン魔術大学校
2/魔術大学校 -31 クラス会議
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「──では、これよりクラス会議を執り行いたいと思う」
級長であるエイザンが、教卓に両手を置く。
「議題はもちろん、参観会での出し物だよ。まず意見を募ろう。銀組に相応しい内容を期待する」
隣席のイオタに、小声で話し掛ける。
「……参観会での出し物って、何が定番なんだ?」
「教室で行うものですから、大掛かりなものはあまり。絵画や彫刻といった共同製作物の展示や、テーマを決めた研究発表。クラスによっては一ヶ月前から練習をして短い歌劇や演劇を披露するところもありますね。成績優秀者の集まる銀組では、研究発表が通例みたいなものですけど……」
「研究発表か」
面白くないとは言わないが、地味だ。
「最優等クラスは市民からの投票で決まるんだろ。研究発表じゃ弱くないか?」
「それはそうですね。実際、銀組が最優等クラスに選ばれたの、見たことないですし」
「──そこ」
エイザンが、俺たちを指差す。
「こそこそ話していないで、意見があるのなら言ってみたらどうだい」
「あー……、いや」
意見と言われてもな。
「エイザン。お前は案とかないのか?」
待ってましたとばかりに、エイザンがその狐目を開く。
「もちろん! 僕は級長だからね。素晴らしい案を持参してきているとも」
そう言って、黒板に何事かを書き付ける。
「──ずばり、ネウロパニエの治水の歴史だ! ネウロパニエの治水、その成り立ちを、レマ川にスポットを当てて追っていく。素晴らしく学術的な研究発表、我ながら最優等クラスも夢ではないテーマだと思うよ」
頭の後ろで手を組んだドズマが、小さく頷く。
「ほーん。ま、悪くはないんじゃね」
他の生徒たちからも、消極的な肯定の意見が出始める。
代案がないから賛成、といった雰囲気だ。
「ふん」
エイザンが、当然とばかりに鼻を鳴らす。
「カタナ君。僕に尋ねたのだから、君も何か意見を出しなよ。すぐに降格するとは言え、それまでは銀組の仲間なのだからね」
「あー……」
高校の学園祭を思い出す。
「俺の地元でも、参観会みたいな催しがあってな。そんときは模擬店を開いた」
「模擬店、とは?」
「料理を作って、売るんだ。露店みたいに」
俺の言葉に、クラスメイトがざわめく。
「──え、それアリなの?」
「食べ物を出すのはまずいんじゃないか……?」
「でも、他にやってるクラス、見たことないよな」
二つ前の席のドズマがこちらを振り返る。
「へえー、面白いじゃん。カタナ、そんときは何売ったんだ?」
「揚げタコ焼き」
イオタが小首をかしげる。
「タコを焼くんですか?」
「いや、ちょっと違うな。卵と小麦粉で作った生地にタコの足をちょいと入れて、揚げ焼きにするんだ。丸くて一口サイズ」
「あ、美味しそう」
「けっこう美味いぞ。外はカリカリ、中はトロトロってやつ」
雰囲気が、変わる。
銀組の生徒たちが興味を抱き始めたのがわかる。
「──ふん、くだらないね。そんな揚げてるのか焼いてるのかもわからない代物」
エイザンがそう言いつつ、黒板に乱暴に書き記す。
模擬店、とでも書いてあるのだろう。
それからしばらく意見を募ったが、他の案は出なかった。
「では、多数決で決めることとしよう。ネウロパニエの治水の歴史を研究すべきという聡明な生徒は手を上げてほしい」
俺は、こちらに手を上げた。
郷に入っては郷に従えと言うし、あまり通例から外れるのもよくはないだろう。
エイザンは、自分の意見に賛同する俺を見て一瞬口角を上げたが、クラスメイトの半数ほどしか手を上げていない様子に気付くと、すぐに表情を変えた。
「十五票……、だって?」
銀組の人数は、三十一名だ。
「い、いや、まだわからない。揚げタコ焼きとかいう正体も不明なものに賛成する輩は手を上げたまえ!」
また、クラスの半数ほどが手を上げる。
その数は、
「……こちらも十五票か。誰か手を上げていない人がいるな」
エイザンが、教室を見渡す。
「ああ、オレだよ」
ドズマがひらひらと手を振った。
「カタナの案はおもしれーし、エイザンの案も悪くねえ。でも、エイザンの言う通り、カタナのほうはまだよくわかんねーだろ。だから、いったん保留だ」
イオタが追従する。
「たしかに、そうですね。面白そうだと思って賛成はしましたけど、揚げタコ焼きの正体もわからないうちから決められないです。揚げタコ焼きはちゃんと作れるのか。味はどうなのか。材料は確保できるのか。売るとして、金銭のやり取りは学校側に認められるのか。そういった部分もクリアして行かないと」
「そりゃそうだ」
ここまで接戦になるとは思っていなかった。
ネウロパニエが好きになり始めている身としては、治水の歴史も興味深い。
エイザンの案が通るなら、俺としてはそれで構わなかった。
「だからよ。作ってみようぜ、その揚げタコ焼きってやつ。話はそれからだろ」
「──くだらない!」
エイザンが教卓を叩く。
「そんな冒険、することはない! 銀組は銀組らしく、格調高い研究発表をすべきだ!」
ドズマが、呆れたように言う。
「でもよ、エイザン。研究発表で優勝したクラス、たぶん全優科の長い歴史ン中でも一度もねーぞ。去年だって、中等部四年の演劇だったじゃねえか」
「そ、それは、客のレベルが低いからであって──」
イオタが反駁する。
「レベルの高い低いはわかりませんけど、客層は基本的に去年と変わりませんよ。来るのはネウロパニエに住んでいる市民なんだから」
「──…………」
黙ってしまった。
「俺は研究発表でいいと思うぞ。テーマも悪くないし」
「カタナ、お前は案を出した責任を果たせ。作んぞ、揚げタコ焼き。んで、明日の放課後みんなで食う。その後で再投票すんべ!」
ドズマがまとめたことで、会議は終わりを迎える。
「じゃ、その揚げタコ焼きってやつ楽しみにしてるから」
「また明日なー!」
「……あー、わかった。なんとか再現はしてみるわ」
三々五々帰って行くクラスメイトたちに、軽く手を振ってみせる。
エイザンは、最後の最後まで、俺を睨みつけていた。
教室に俺たち以外の姿がなくなったあと、
「──てな感じが落としどころだろ」
そう言って、ドズマがウインクをしてみせた。
級長であるエイザンが、教卓に両手を置く。
「議題はもちろん、参観会での出し物だよ。まず意見を募ろう。銀組に相応しい内容を期待する」
隣席のイオタに、小声で話し掛ける。
「……参観会での出し物って、何が定番なんだ?」
「教室で行うものですから、大掛かりなものはあまり。絵画や彫刻といった共同製作物の展示や、テーマを決めた研究発表。クラスによっては一ヶ月前から練習をして短い歌劇や演劇を披露するところもありますね。成績優秀者の集まる銀組では、研究発表が通例みたいなものですけど……」
「研究発表か」
面白くないとは言わないが、地味だ。
「最優等クラスは市民からの投票で決まるんだろ。研究発表じゃ弱くないか?」
「それはそうですね。実際、銀組が最優等クラスに選ばれたの、見たことないですし」
「──そこ」
エイザンが、俺たちを指差す。
「こそこそ話していないで、意見があるのなら言ってみたらどうだい」
「あー……、いや」
意見と言われてもな。
「エイザン。お前は案とかないのか?」
待ってましたとばかりに、エイザンがその狐目を開く。
「もちろん! 僕は級長だからね。素晴らしい案を持参してきているとも」
そう言って、黒板に何事かを書き付ける。
「──ずばり、ネウロパニエの治水の歴史だ! ネウロパニエの治水、その成り立ちを、レマ川にスポットを当てて追っていく。素晴らしく学術的な研究発表、我ながら最優等クラスも夢ではないテーマだと思うよ」
頭の後ろで手を組んだドズマが、小さく頷く。
「ほーん。ま、悪くはないんじゃね」
他の生徒たちからも、消極的な肯定の意見が出始める。
代案がないから賛成、といった雰囲気だ。
「ふん」
エイザンが、当然とばかりに鼻を鳴らす。
「カタナ君。僕に尋ねたのだから、君も何か意見を出しなよ。すぐに降格するとは言え、それまでは銀組の仲間なのだからね」
「あー……」
高校の学園祭を思い出す。
「俺の地元でも、参観会みたいな催しがあってな。そんときは模擬店を開いた」
「模擬店、とは?」
「料理を作って、売るんだ。露店みたいに」
俺の言葉に、クラスメイトがざわめく。
「──え、それアリなの?」
「食べ物を出すのはまずいんじゃないか……?」
「でも、他にやってるクラス、見たことないよな」
二つ前の席のドズマがこちらを振り返る。
「へえー、面白いじゃん。カタナ、そんときは何売ったんだ?」
「揚げタコ焼き」
イオタが小首をかしげる。
「タコを焼くんですか?」
「いや、ちょっと違うな。卵と小麦粉で作った生地にタコの足をちょいと入れて、揚げ焼きにするんだ。丸くて一口サイズ」
「あ、美味しそう」
「けっこう美味いぞ。外はカリカリ、中はトロトロってやつ」
雰囲気が、変わる。
銀組の生徒たちが興味を抱き始めたのがわかる。
「──ふん、くだらないね。そんな揚げてるのか焼いてるのかもわからない代物」
エイザンがそう言いつつ、黒板に乱暴に書き記す。
模擬店、とでも書いてあるのだろう。
それからしばらく意見を募ったが、他の案は出なかった。
「では、多数決で決めることとしよう。ネウロパニエの治水の歴史を研究すべきという聡明な生徒は手を上げてほしい」
俺は、こちらに手を上げた。
郷に入っては郷に従えと言うし、あまり通例から外れるのもよくはないだろう。
エイザンは、自分の意見に賛同する俺を見て一瞬口角を上げたが、クラスメイトの半数ほどしか手を上げていない様子に気付くと、すぐに表情を変えた。
「十五票……、だって?」
銀組の人数は、三十一名だ。
「い、いや、まだわからない。揚げタコ焼きとかいう正体も不明なものに賛成する輩は手を上げたまえ!」
また、クラスの半数ほどが手を上げる。
その数は、
「……こちらも十五票か。誰か手を上げていない人がいるな」
エイザンが、教室を見渡す。
「ああ、オレだよ」
ドズマがひらひらと手を振った。
「カタナの案はおもしれーし、エイザンの案も悪くねえ。でも、エイザンの言う通り、カタナのほうはまだよくわかんねーだろ。だから、いったん保留だ」
イオタが追従する。
「たしかに、そうですね。面白そうだと思って賛成はしましたけど、揚げタコ焼きの正体もわからないうちから決められないです。揚げタコ焼きはちゃんと作れるのか。味はどうなのか。材料は確保できるのか。売るとして、金銭のやり取りは学校側に認められるのか。そういった部分もクリアして行かないと」
「そりゃそうだ」
ここまで接戦になるとは思っていなかった。
ネウロパニエが好きになり始めている身としては、治水の歴史も興味深い。
エイザンの案が通るなら、俺としてはそれで構わなかった。
「だからよ。作ってみようぜ、その揚げタコ焼きってやつ。話はそれからだろ」
「──くだらない!」
エイザンが教卓を叩く。
「そんな冒険、することはない! 銀組は銀組らしく、格調高い研究発表をすべきだ!」
ドズマが、呆れたように言う。
「でもよ、エイザン。研究発表で優勝したクラス、たぶん全優科の長い歴史ン中でも一度もねーぞ。去年だって、中等部四年の演劇だったじゃねえか」
「そ、それは、客のレベルが低いからであって──」
イオタが反駁する。
「レベルの高い低いはわかりませんけど、客層は基本的に去年と変わりませんよ。来るのはネウロパニエに住んでいる市民なんだから」
「──…………」
黙ってしまった。
「俺は研究発表でいいと思うぞ。テーマも悪くないし」
「カタナ、お前は案を出した責任を果たせ。作んぞ、揚げタコ焼き。んで、明日の放課後みんなで食う。その後で再投票すんべ!」
ドズマがまとめたことで、会議は終わりを迎える。
「じゃ、その揚げタコ焼きってやつ楽しみにしてるから」
「また明日なー!」
「……あー、わかった。なんとか再現はしてみるわ」
三々五々帰って行くクラスメイトたちに、軽く手を振ってみせる。
エイザンは、最後の最後まで、俺を睨みつけていた。
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