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第四章 ウージスパイン魔術大学校

2/魔術大学校 -25 最高の義術具

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「防炎術式に必要な魔力マナは、純輝石アンセルから引く。こちらの術式へは、常に微弱な魔力マナを流し続けることになる。通常の半輝石セルであれば二日と持たんが、純輝石アンセルであれば問題あるまい。ただ、こまめに魔力マナを込めておくことを勧める。純輝石アンセルの容量は膨大だが、込める魔力マナを用意するのは簡単ではない。三人いたとして、無理のない範囲で純輝石アンセルを満たすには、十日ほどは必要となるだろう。この純輝石アンセルは既に魔力マナで満たされていたが、よくここまで込めたものだ」
「あ、魔力マナについては問題ないでし。あちし、魔力マナ量が人より多いので……」
 ヤーエルヘルの言葉に、ベディルスが反駁する。
「多いと言っても限度があるだろう。無理に魔力マナを使い過ぎると、気絶しかねない。常に半分は体内に留めておくべきだ」
「その純輝石アンセル魔力マナ、一度に込めたものなんでし」
「──…………」
 ベディルスが、呆れたように口を開く。
「君たちは、本当に何者なのだ。聞くまい聞くまいとは思っていたが、ここまで人間離れしていると、さすがに尋ねたくもなる」
 俺は、微笑んで答えた。
「ワンダラスト・テイルです。奇跡級の剣術士二人に、奇跡級の治癒術士。そして、徒弟級の魔術士のパーティですよ」
「ワンダラスト・テイル……」
 戸惑うベディルスに、イオタが注釈を入れてくれる。
「遺物三都でのパーティ名なんだって。財宝、見つけたって言ってたよ」
「それは、また」
 ベディルスが苦笑する。
「だが、君たちなら、財宝くらいは掘り当てるだろう。それくらいでは驚かんよ」
「ぼくが思うに、もっととんでもないことにも巻き込まれてるっぽいんだけど、教えてくれないんだよね……」
「ははは」
 正解。
「しかし、なんだな」
 ベディルスが、イオタへと向き直る。
「随分と元気になった。視線が、下ではなく、前を向いている」
「うん。カタナさんの弟子になったんだ。剣術も教えてもらってる」
「そうか」
 ベディルスが、俺に頭を下げる。
「孫を、頼む。昔から気弱な子でな。シィしか友達がいなかった」
「今は大丈夫ですよ」
 イオタと顔を見合わせる。
 彼は、はにかんだように笑ってみせた。
「学校にも、ちゃんと友達がいます。このあと合流して、ネウロパニエを案内してもらう予定なんです」
「それはいい。君たちには、護衛以上のことをしてもらっているな。この礼は、最高の義術具で以てするとしよう」
「ええ、お願いします。その純輝石アンセルは、プルのお婆さんの形見なんです。だから、最高の術具士に頼んで、最高の義術具に仕立ててほしかった」
「ならば、その期待には応えねばならんな」
 きっと、素晴らしい作品が出来上がる。
 その確信があった。
「と、……ところで、ツィゴニアさんは大丈夫、……ですか?」
 プルが、心配そうに尋ねる。
「い、イオタくん、の、安全が確保できたなら、……で、デイコスがツィゴニアさんの暗殺に、躍起になる、……かも」
「ああ。そちらも並行して調査はしている。息子が雇った護衛の他にも、数名の知人に守らせてもいる。ただ、この数日、デイコスの動きがぴたりと止んでいてな。パドロ=デイコスの話が真実であれば、依頼の完遂は不可能として、引き上げた可能性もなくはない」
 ヘレジナが頷く。
「なるほど。だが、ツィゴニアが首都カラスカへ帰還するまでは気が抜けんな」
 逆に言えば、首都カラスカへ帰り着くことができれば安全ということだ。
 それは、デイコスがツィゴニアの暗殺場所として、カラスカから遠く離れたネウロパニエを選んだことからも明らかである。
「そう言や、ツィゴニアさん、息子の参観会を見に来たって言ってたな。イオタ、参観会って何だ?」
「あ、言ってませんでしたっけ。全優科の門戸がネウロパニエの市民に開放される唯一の日です。クラス単位で出し物を行って、市民に投票してもらう。そして、その年の最優等クラスを決めるんです。他にもさまざまなイベントが用意されていて、ちょっとしたお祭りみたいなんですよ」
「なるほどな。学園祭みたいなもんか」
「……み、みやぎにも、同じような催し、あったの?」
 プルの言葉に、高校の頃を思い出しつつ答える。
「ああ、あったあった。お化け屋敷やら、模擬店やら、なんならメイド喫茶やら……」
「ほう、いろいろあるのだな」
「ぎ、銀組は、何するか決まってる、……の?」
「いえ、まだですね。来週決めて、再来週はまるまる準備です」
「何をするのか、楽しみでしね!」
「だな」
 頷き、答える。
「ヤーエルヘルたちの教室にも、絶対行くから」
「はい!」
「ぼ、ぼくも行きますよ!」
「お待ちしておりましー」
「ほほう……」
 ヘレジナが、愉快そうに口の端を上げる。
「な、なんですか……」
「我々も同じクラスであることを忘れてはならんぞ」
「忘れてませんよ!」
 そのとき、
「──くッ」
 黙って話を聞いていたベディルスが、吹き出した。
「ははははっ! 頑張れよ、イオタ。保護者の目は厳しいぞ」
「そんなんじゃないってば!」
「……?」
 ヤーエルヘルが、不思議そうに小首をかしげる。
 知らぬは本人ばかりなり。
「うッし、そろそろ行くか。ドズマとシオニアを待たせてもいけないしな」
「ああ。孫のこと、よろしく頼む」
「はい。義術具、楽しみにしています」
「任せておけ」
 不敵に笑うベディルスに会釈して、俺たちはベディ術具店を後にした。
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