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第四章 ウージスパイン魔術大学校
2/魔術大学校 -23 借り物の能力でも
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「でも、それは──」
イオタの言葉を遮る。
「それから、さ。いろいろあったよ。そんで、ラーイウラで師匠と出会った。ヘレジナと一緒に修行もした。この努力は、俺のものだ。この努力は誇れるものだ。俺はそう思ってた。でも、常にうっすらとした罪悪感があったんだ。俺の努力は、俺の強さは、借り物の上に成り立ってる。それを失えば容易に引っ繰り返る程度のもんだってな。だから、強いって褒められたり、すごいって囃し立てられても、どこかピンと来なかった。師匠にもくだらんって言われたんだけど、どうしても頭から抜けなくてな……」
「──…………」
「……自分を非才と呼んで、何十年も修練を重ねた人がいた。手に持つ二刀と、操術で操る二刀。四刀流の使い手で、同時に奇跡級の治癒術士だ。傷つけても傷つけてもいくらでも立ち上がる、不死身のような人がいた」
アーラーヤ=ハルクマータ。
彼の顔と、その強さを思い出す。
「俺は、その人に勝ったよ。でも、言われたんだ。お前は天才だ。だが、お前が努力だと思ってるものは、甘えくさったお遊びだって」
「……ああ」
「効いたよ。後からボディブローみたいに響いた。アーラーヤには、そんな意図はなかったんだろう。でも、俺はその言葉に呪われちまった。なにせ、反論の一つも思いつかないくらいにその通りだったから。しかも俺は、天才ですらないんだ。ハリボテなんだよ。神眼で飛び級しただけの、ただの一般人。──それが、鵜堂 形無の正体だ」
「──…………」
グラウンドに、しばし無音が響く。
そして、
「はあー……」
イオタが、大きく溜め息をついた。
「……わかりました。カタナさんが自分に自信を持てない理由は、わかりましたよ。でも、言わせてください」
俺の胸ぐらを掴んで、断言する。
「──あんたは、馬鹿だ」
「イオタ……」
「ドズマさんに言ってたじゃないですか。どんな手段を使ってもいい。その場にあるものすべてを使って、相手を退けるんだって。あなたはそれを忠実に実行してきただけだ。[羅針盤]があったから、[羅針盤]を利用した。神眼があったから、神眼を利用した。だったら聞かせてください。[羅針盤]も神眼も失われたとき、何も力を持たないからと、あなたはヤーエルヘルさんたちを見捨てるんですか?」
「──…………」
そんなの、考えるまでもない。
「……助ける。絶対に」
「ぼくにはわかる。あなたは、それを成し遂げる。それは、[羅針盤]がすごいのでも、神眼がすごいのでもない。あなたが、すごいからだ」
イオタの言葉が、胸に迫る。
「ぼくが憧れたのは、能力じゃない。あなた自身なんです。だから──」
イオタが、そっと微笑んだ。
「自分を、認めてあげてください。あなたは僕の師匠なんですから」
「──…………」
手の甲で、目元を拭う。
浮かびかけていた涙を、拭う。
ああ、そうか。
俺は。
自分を認めて、よかったんだ。
「……はは。弟子を取った翌日に、もう弟子から教わるなんてな」
「ほんと、情けない師匠ですよ。次に同じことを言ったら、ここで泣いてたことプルさんたちに教えますからね」
「そ、それは勘弁してくれ。あの子の前ではカッコいい俺でいたいんだから……」
「なに、言わなければいいだけですよ」
「……大丈夫」
右手を、固く握り締める。
「もう、言わねえよ。[羅針盤]じゃない。神眼じゃない。俺自身をすごいって言ってくれる弟子がいるから」
「はい。忘れそうになったら、言ってください。いつだって思い出させてあげます」
「はは、そいつはありがたいな。でも──」
「……でも?」
「さっき体操術使ったから、今日は技術トレーニングの前に百回ずつ筋トレだな」
「げ!」
「約束は約束だ」
「……はい」
「さ、戻るべ。三人とも、きっと心配してる」
「はい!」
俺は、俺を認めていい。
鵜堂 形無を認めてもいいんだ。
借り物の能力であろうと、俺が成したことは変わらないから。
これからは、もうすこしだけ、胸を張って歩くことができると思う。
この恩は、イオタを強くすることで返そう。
師匠として弟子にできる最高のことは、きっと、それだから。
なあ、ジグ。
ジグもきっと、こんな気持ちだったんだろう?
イオタの言葉を遮る。
「それから、さ。いろいろあったよ。そんで、ラーイウラで師匠と出会った。ヘレジナと一緒に修行もした。この努力は、俺のものだ。この努力は誇れるものだ。俺はそう思ってた。でも、常にうっすらとした罪悪感があったんだ。俺の努力は、俺の強さは、借り物の上に成り立ってる。それを失えば容易に引っ繰り返る程度のもんだってな。だから、強いって褒められたり、すごいって囃し立てられても、どこかピンと来なかった。師匠にもくだらんって言われたんだけど、どうしても頭から抜けなくてな……」
「──…………」
「……自分を非才と呼んで、何十年も修練を重ねた人がいた。手に持つ二刀と、操術で操る二刀。四刀流の使い手で、同時に奇跡級の治癒術士だ。傷つけても傷つけてもいくらでも立ち上がる、不死身のような人がいた」
アーラーヤ=ハルクマータ。
彼の顔と、その強さを思い出す。
「俺は、その人に勝ったよ。でも、言われたんだ。お前は天才だ。だが、お前が努力だと思ってるものは、甘えくさったお遊びだって」
「……ああ」
「効いたよ。後からボディブローみたいに響いた。アーラーヤには、そんな意図はなかったんだろう。でも、俺はその言葉に呪われちまった。なにせ、反論の一つも思いつかないくらいにその通りだったから。しかも俺は、天才ですらないんだ。ハリボテなんだよ。神眼で飛び級しただけの、ただの一般人。──それが、鵜堂 形無の正体だ」
「──…………」
グラウンドに、しばし無音が響く。
そして、
「はあー……」
イオタが、大きく溜め息をついた。
「……わかりました。カタナさんが自分に自信を持てない理由は、わかりましたよ。でも、言わせてください」
俺の胸ぐらを掴んで、断言する。
「──あんたは、馬鹿だ」
「イオタ……」
「ドズマさんに言ってたじゃないですか。どんな手段を使ってもいい。その場にあるものすべてを使って、相手を退けるんだって。あなたはそれを忠実に実行してきただけだ。[羅針盤]があったから、[羅針盤]を利用した。神眼があったから、神眼を利用した。だったら聞かせてください。[羅針盤]も神眼も失われたとき、何も力を持たないからと、あなたはヤーエルヘルさんたちを見捨てるんですか?」
「──…………」
そんなの、考えるまでもない。
「……助ける。絶対に」
「ぼくにはわかる。あなたは、それを成し遂げる。それは、[羅針盤]がすごいのでも、神眼がすごいのでもない。あなたが、すごいからだ」
イオタの言葉が、胸に迫る。
「ぼくが憧れたのは、能力じゃない。あなた自身なんです。だから──」
イオタが、そっと微笑んだ。
「自分を、認めてあげてください。あなたは僕の師匠なんですから」
「──…………」
手の甲で、目元を拭う。
浮かびかけていた涙を、拭う。
ああ、そうか。
俺は。
自分を認めて、よかったんだ。
「……はは。弟子を取った翌日に、もう弟子から教わるなんてな」
「ほんと、情けない師匠ですよ。次に同じことを言ったら、ここで泣いてたことプルさんたちに教えますからね」
「そ、それは勘弁してくれ。あの子の前ではカッコいい俺でいたいんだから……」
「なに、言わなければいいだけですよ」
「……大丈夫」
右手を、固く握り締める。
「もう、言わねえよ。[羅針盤]じゃない。神眼じゃない。俺自身をすごいって言ってくれる弟子がいるから」
「はい。忘れそうになったら、言ってください。いつだって思い出させてあげます」
「はは、そいつはありがたいな。でも──」
「……でも?」
「さっき体操術使ったから、今日は技術トレーニングの前に百回ずつ筋トレだな」
「げ!」
「約束は約束だ」
「……はい」
「さ、戻るべ。三人とも、きっと心配してる」
「はい!」
俺は、俺を認めていい。
鵜堂 形無を認めてもいいんだ。
借り物の能力であろうと、俺が成したことは変わらないから。
これからは、もうすこしだけ、胸を張って歩くことができると思う。
この恩は、イオタを強くすることで返そう。
師匠として弟子にできる最高のことは、きっと、それだから。
なあ、ジグ。
ジグもきっと、こんな気持ちだったんだろう?
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