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第四章 ウージスパイン魔術大学校
2/魔術大学校 -8 剣術教室
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「──一、二、三、四!」
俺の知る体操着とは異なるが動きやすそうな服装に着替えた生徒たちが、裂帛の気合いと共に素振りを行う。
俺はと言えば、体操着が間に合わなかったため、制服の上着を脱いでの参加だ。
「──五、六、七、八!」
体を動かすのは、楽しい。
リィンヤンでの日々で、すっかり運動に目覚めてしまった。
見知らぬ流派の、見知らぬ型。
あまり体に型を覚えさせたくはないのだが、これはこれで新鮮だ。
「編入生、握りが甘い! もっと内側に捻り込め!」
「はい!」
師範も、一人一人をよく見ている。
俺は、あらゆる攻撃に柔軟に対応したいので、柄の握りを柔らかくしている。
それに対し、今習っているテオ剛剣流は、一撃必殺を極意とする。
コンセプトがまったく異なるのだ。
「そうだ、初めてにしては筋がいいぞ。何か武術をやっていたのか?」
「ええと、別の流派の剣術を、すこし」
「なるほど。だが、それはいったん忘れておけ。半端に混ざるのがいちばんよくない」
「わかりました」
指導に筋が通っている。
さすが、全優科で剣術教室を任されるだけのことはある。
模範演技の際に見せた動きは流麗かつ剛猛、剽悍無比のものだったし、優秀な師範なのだろう。
「シャン! お前も、もっと握り込め! 力が足りないから左右に振れる!」
「は、はい!」
イオタは運動が苦手なのか、素振りの際も軸がぶれている。
師範の言う通り、力が足りないのもあるが、踏み込みと振り下ろしのタイミングが合っていないのだ。
すべてが合致し一直線にならなければ、威力は出ない。
「──よし、準備運動はここまで! 次は模擬戦とする! 各自、二人組を作れ!」
小さく息を整えて、イオタへ近付く。
そのとき、ふと背後に気配を感じた。
一歩前に軽く跳躍し、振り返る。
すると、銀組の教室でイオタの背中を叩き損ねた男子生徒が、俺の肩に置こうとした手で空を切り、軽く体勢を崩していた。
「あ、すまん」
「──…………」
びき。
男子生徒のこめかみに、血管が浮き上がった気がした。
彼は、顔を左右に振って気を取り直すと、にんまりと笑みを浮かべて言った。
「あー……、編入生。カタナさんだったかな。オレと組まないか?」
「俺、イオタと組むつもりだったんだけど」
「まあ、まあ、そう言わずにさ」
男子生徒がイオタを睨む。
「え、と……」
イオタが、戸惑うように口を開いた。
「……ぼ、ぼくは、大丈夫ですけど」
「よし、決まりだな!」
男子生徒が、木剣を両肩に乗せ、ストレッチをする。
「いやあ、オレ、この教室でいちばん強くてさァ。相手になるやつがいなくて。カタナさんって剣術やってたんだろう? 是非オレに指南してくれよ」
そう言って、にたりと笑う。
「えー……、と」
やはり、そういうことだろうか。
「もしかして、変な噂とか立ってる……?」
「……あ゛?」
男子生徒の顔が、歪む。
「直接見てンだよ、魔力ナシのオッサンがよォ! 美少女三人引き連れてハーレム気取りか、おい!」
ああ、言われてしまった。
とうとうオッサンと言われてしまった。
一度は絶対言われると覚悟はしていたが、いざ言われるとやはり切ない。
遠くに向きかけていた視線を戻す。
「いや、イオタもいたしな……」
「イオタはお前の次だ!」
「ひ」
イオタが、引き攣った声を漏らす。
「あー……」
それは、ちょっと困るな。
「なら、こうしようぜ」
「あン?」
「お前が俺から一本取れたら、組み合わせを変えよう。取れるまではこのままで」
「──…………」
憤怒の形相で、男子生徒が俺を睨む。
「──やってみさらせ、この野郎ッ!」
不意打ちのつもりなのか、男子生徒がいきなり木剣を振り上げた。
いや、挨拶とかさ。
すこし呆れながら、木剣の切っ先を男子生徒の手首の軌道に置く。
男子生徒が、そのまま木剣を振り下ろし──
「づあッ!」
手首を思いきり打ち付けた。
木剣が、からからと音を立てて足元に転がる。
「まだ開始してないだろ」
「──こら、そこ! 勝手に始めるんじゃあない!」
「ほら」
「──…………」
男子生徒が、無言で木剣を拾い上げる。
その表情に、先程までなかった真剣味が感じられた。
俺を、いたぶる対象ではなく、敵と認識したのだろう。
でもさ。
人は、怒りや覚悟の一つで強くなることはないんだよ。
俺の知る体操着とは異なるが動きやすそうな服装に着替えた生徒たちが、裂帛の気合いと共に素振りを行う。
俺はと言えば、体操着が間に合わなかったため、制服の上着を脱いでの参加だ。
「──五、六、七、八!」
体を動かすのは、楽しい。
リィンヤンでの日々で、すっかり運動に目覚めてしまった。
見知らぬ流派の、見知らぬ型。
あまり体に型を覚えさせたくはないのだが、これはこれで新鮮だ。
「編入生、握りが甘い! もっと内側に捻り込め!」
「はい!」
師範も、一人一人をよく見ている。
俺は、あらゆる攻撃に柔軟に対応したいので、柄の握りを柔らかくしている。
それに対し、今習っているテオ剛剣流は、一撃必殺を極意とする。
コンセプトがまったく異なるのだ。
「そうだ、初めてにしては筋がいいぞ。何か武術をやっていたのか?」
「ええと、別の流派の剣術を、すこし」
「なるほど。だが、それはいったん忘れておけ。半端に混ざるのがいちばんよくない」
「わかりました」
指導に筋が通っている。
さすが、全優科で剣術教室を任されるだけのことはある。
模範演技の際に見せた動きは流麗かつ剛猛、剽悍無比のものだったし、優秀な師範なのだろう。
「シャン! お前も、もっと握り込め! 力が足りないから左右に振れる!」
「は、はい!」
イオタは運動が苦手なのか、素振りの際も軸がぶれている。
師範の言う通り、力が足りないのもあるが、踏み込みと振り下ろしのタイミングが合っていないのだ。
すべてが合致し一直線にならなければ、威力は出ない。
「──よし、準備運動はここまで! 次は模擬戦とする! 各自、二人組を作れ!」
小さく息を整えて、イオタへ近付く。
そのとき、ふと背後に気配を感じた。
一歩前に軽く跳躍し、振り返る。
すると、銀組の教室でイオタの背中を叩き損ねた男子生徒が、俺の肩に置こうとした手で空を切り、軽く体勢を崩していた。
「あ、すまん」
「──…………」
びき。
男子生徒のこめかみに、血管が浮き上がった気がした。
彼は、顔を左右に振って気を取り直すと、にんまりと笑みを浮かべて言った。
「あー……、編入生。カタナさんだったかな。オレと組まないか?」
「俺、イオタと組むつもりだったんだけど」
「まあ、まあ、そう言わずにさ」
男子生徒がイオタを睨む。
「え、と……」
イオタが、戸惑うように口を開いた。
「……ぼ、ぼくは、大丈夫ですけど」
「よし、決まりだな!」
男子生徒が、木剣を両肩に乗せ、ストレッチをする。
「いやあ、オレ、この教室でいちばん強くてさァ。相手になるやつがいなくて。カタナさんって剣術やってたんだろう? 是非オレに指南してくれよ」
そう言って、にたりと笑う。
「えー……、と」
やはり、そういうことだろうか。
「もしかして、変な噂とか立ってる……?」
「……あ゛?」
男子生徒の顔が、歪む。
「直接見てンだよ、魔力ナシのオッサンがよォ! 美少女三人引き連れてハーレム気取りか、おい!」
ああ、言われてしまった。
とうとうオッサンと言われてしまった。
一度は絶対言われると覚悟はしていたが、いざ言われるとやはり切ない。
遠くに向きかけていた視線を戻す。
「いや、イオタもいたしな……」
「イオタはお前の次だ!」
「ひ」
イオタが、引き攣った声を漏らす。
「あー……」
それは、ちょっと困るな。
「なら、こうしようぜ」
「あン?」
「お前が俺から一本取れたら、組み合わせを変えよう。取れるまではこのままで」
「──…………」
憤怒の形相で、男子生徒が俺を睨む。
「──やってみさらせ、この野郎ッ!」
不意打ちのつもりなのか、男子生徒がいきなり木剣を振り上げた。
いや、挨拶とかさ。
すこし呆れながら、木剣の切っ先を男子生徒の手首の軌道に置く。
男子生徒が、そのまま木剣を振り下ろし──
「づあッ!」
手首を思いきり打ち付けた。
木剣が、からからと音を立てて足元に転がる。
「まだ開始してないだろ」
「──こら、そこ! 勝手に始めるんじゃあない!」
「ほら」
「──…………」
男子生徒が、無言で木剣を拾い上げる。
その表情に、先程までなかった真剣味が感じられた。
俺を、いたぶる対象ではなく、敵と認識したのだろう。
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