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第四章 ウージスパイン魔術大学校
2/魔術大学校 -5 制服姿の三人娘
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「手、いってえ……」
右手を軽く振りながら、彫刻術の教室を出る。
直方体の石膏塊の上部を丸くするだけで九十分が終わってしまった。
と言うか、彫刻刀一本でする作業ではない。
ノミ持ってこい、ノミ。
「だ、大丈夫、ですか?」
「……彫刻術って、手は疲れないのか?」
「は、はい。魔術ですから」
「いいなあ……」
マジで羨ましい。
「──さすがに腹減ったな。昼食ってどこで食べられるんだ?」
「はい。食堂が三ヶ所あって、それぞれ──」
ふとイオタが視線を向けた先に、人だかりがあった。
「……?」
「移動販売でもしてるのか?」
「い、いえ、見たことないですけど……」
「なんだべ」
積極的に近付く気にもなれず、人だかりを横目に食堂へ向かう。
そのとき、
「カタナさぁーんっ!」
人だかりの中心から、ヤーエルヘルが飛び出してきた。
「ほいっ、と」
軽く抱き留め、くるりと回ってヤーエルヘルを下ろす。
「よかった、会えました! ここ敷地広いでしから……」
「や、ヤーエルヘルさん! ご、御機嫌いかがですか!」
イオタが、ピンと背筋を伸ばしてヤーエルヘルに挨拶する。
「イオタさんも、こんにちは! ごきげんはとってもいいでしよ。二人に会えましたから!」
「そ、そそ、それはよかったです!」
イオタ、なんだか様子がおかしいな。
ヤーエルヘルが相手であるにも関わらず、妙に緊張しているように見える。
「──か、かたな! イオタくん!」
「探したぞ……」
人だかりを抜け、プルとヘレジナもこちらへ小走りで駆けてくる。
「ああ、ちょうどよかった。俺たちこれから昼メシ──」
ふと、視線の圧に気付き、振り返る。
人だかりのほとんどは男子生徒だった。
戸惑いと羨望の入り混じったなんとも言えない表情で、こちらの様子を窺っている。
「まったく。いくらプルさまの器量が素晴らしいとは言え、こう集まられては身動きが取れん。二人が通り掛かってくれて助かった」
ヘレジナが、ほっと安堵の息を吐く。
「──…………」
プルとヘレジナ、ヤーエルヘルを、改めて見つめる。
「……ど、どど、どうしたの? かたな……」
プルが小首をかしげた。
「いや、まあ。……そのだな」
この学園で多くの男女を目にし、改めて気付く。
見慣れて何も思わなくなっていたが、三人ともすこぶる顔立ちがいい。
全優科という箱庭に三人まとめて投げ込まれれば、男子生徒たちが浮き足立つのも無理からぬことだろう。
「ほう」
俺の胸中を察したのか、ヘレジナがにまりと口の端を上げる。
「カタナ。ようやく自らの恵まれた立場に気が付いたようだな」
「ぐ」
言い返せない。
「ね、ね、制服どうでしか?」
ヤーエルヘルが、その場でくるりと回ってみせる。
白一色に赤のラインが入った制服は可憐で、三人によく似合っていた。
「あ、ああ。すごく可愛いぞ! なあ、イオタ」
「……は、はい! す、すごく、似合ってます」
「やったあ!」
ヤーエルヘルが、ぴょんぴょんと跳ねる。
「──…………」
よし。
ヘレジナの視線が痛いが、どうにか有耶無耶にできたな。
「け、……今朝、食材譲ってもらえた、……から、お、お弁当作ってきました! へ、壁泉のとこで、食べ、……よう!」
プルが、ヘレジナの手元に視線を向ける。
ヘレジナが手にしていた大きなバスケットには、五人分の昼食が入っていたらしい。
「さあ行くぞ、カタナ! イオタ!」
「おう!」
壁泉を目指し歩きながらプルに昼食の礼を言っていると、イオタが戸惑いながら口を開いた。
「……ぼ、ぼくも、その。いいんでしょうか……」
「何を言っておる。私たちは、お前の──」
護衛、と言い掛けたのだろう。
だが、自分たちが学園内でどれほど注目されているかを思い出したのか、直前で言葉を変えた。
「友達、だろう?」
「──!」
イオタが目を見張る。
そして、
「は、……はい!」
そう、満面の笑みで頷いた。
右手を軽く振りながら、彫刻術の教室を出る。
直方体の石膏塊の上部を丸くするだけで九十分が終わってしまった。
と言うか、彫刻刀一本でする作業ではない。
ノミ持ってこい、ノミ。
「だ、大丈夫、ですか?」
「……彫刻術って、手は疲れないのか?」
「は、はい。魔術ですから」
「いいなあ……」
マジで羨ましい。
「──さすがに腹減ったな。昼食ってどこで食べられるんだ?」
「はい。食堂が三ヶ所あって、それぞれ──」
ふとイオタが視線を向けた先に、人だかりがあった。
「……?」
「移動販売でもしてるのか?」
「い、いえ、見たことないですけど……」
「なんだべ」
積極的に近付く気にもなれず、人だかりを横目に食堂へ向かう。
そのとき、
「カタナさぁーんっ!」
人だかりの中心から、ヤーエルヘルが飛び出してきた。
「ほいっ、と」
軽く抱き留め、くるりと回ってヤーエルヘルを下ろす。
「よかった、会えました! ここ敷地広いでしから……」
「や、ヤーエルヘルさん! ご、御機嫌いかがですか!」
イオタが、ピンと背筋を伸ばしてヤーエルヘルに挨拶する。
「イオタさんも、こんにちは! ごきげんはとってもいいでしよ。二人に会えましたから!」
「そ、そそ、それはよかったです!」
イオタ、なんだか様子がおかしいな。
ヤーエルヘルが相手であるにも関わらず、妙に緊張しているように見える。
「──か、かたな! イオタくん!」
「探したぞ……」
人だかりを抜け、プルとヘレジナもこちらへ小走りで駆けてくる。
「ああ、ちょうどよかった。俺たちこれから昼メシ──」
ふと、視線の圧に気付き、振り返る。
人だかりのほとんどは男子生徒だった。
戸惑いと羨望の入り混じったなんとも言えない表情で、こちらの様子を窺っている。
「まったく。いくらプルさまの器量が素晴らしいとは言え、こう集まられては身動きが取れん。二人が通り掛かってくれて助かった」
ヘレジナが、ほっと安堵の息を吐く。
「──…………」
プルとヘレジナ、ヤーエルヘルを、改めて見つめる。
「……ど、どど、どうしたの? かたな……」
プルが小首をかしげた。
「いや、まあ。……そのだな」
この学園で多くの男女を目にし、改めて気付く。
見慣れて何も思わなくなっていたが、三人ともすこぶる顔立ちがいい。
全優科という箱庭に三人まとめて投げ込まれれば、男子生徒たちが浮き足立つのも無理からぬことだろう。
「ほう」
俺の胸中を察したのか、ヘレジナがにまりと口の端を上げる。
「カタナ。ようやく自らの恵まれた立場に気が付いたようだな」
「ぐ」
言い返せない。
「ね、ね、制服どうでしか?」
ヤーエルヘルが、その場でくるりと回ってみせる。
白一色に赤のラインが入った制服は可憐で、三人によく似合っていた。
「あ、ああ。すごく可愛いぞ! なあ、イオタ」
「……は、はい! す、すごく、似合ってます」
「やったあ!」
ヤーエルヘルが、ぴょんぴょんと跳ねる。
「──…………」
よし。
ヘレジナの視線が痛いが、どうにか有耶無耶にできたな。
「け、……今朝、食材譲ってもらえた、……から、お、お弁当作ってきました! へ、壁泉のとこで、食べ、……よう!」
プルが、ヘレジナの手元に視線を向ける。
ヘレジナが手にしていた大きなバスケットには、五人分の昼食が入っていたらしい。
「さあ行くぞ、カタナ! イオタ!」
「おう!」
壁泉を目指し歩きながらプルに昼食の礼を言っていると、イオタが戸惑いながら口を開いた。
「……ぼ、ぼくも、その。いいんでしょうか……」
「何を言っておる。私たちは、お前の──」
護衛、と言い掛けたのだろう。
だが、自分たちが学園内でどれほど注目されているかを思い出したのか、直前で言葉を変えた。
「友達、だろう?」
「──!」
イオタが目を見張る。
そして、
「は、……はい!」
そう、満面の笑みで頷いた。
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