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第四章 ウージスパイン魔術大学校
2/魔術大学校 -3 異物
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朝礼で、担任教官が俺の紹介をしたのち、しばらくすると座学が始まった。
「──このように、山脈と河川の多いトートアネマでは肉食文化が盛んではなく、タンパク質の摂取を川魚に頼っているため、貿易輸出品の中で魚醤の占める割合が──」
濃緑色ではなく漆黒の黒板に、白墨で文字が書かれていく。
「──…………」
わからん。
何もかも、わからん。
ほんの二ヶ月前に来たばかりの世界の行ったことない国の輸出入品の統計割合なんて、知るものか。
俺は、貿易の教科書をイオタに押し付けると、ノートを開くだけ開いて窓の外を眺めた。
綺麗に整備されたグラウンドで、初等部と思しき子供たちが、飽きることなく垂直跳びを繰り返している。
垂直跳びは、体操術を学ぶ際の初歩であるらしい。
制御を下半身に集中できるし、身体能力のみの場合との差異を実感しやすいのがその理由だ。
その後は、幅跳び、短距離走、長距離走といったように、徐々に難易度を上げていくのだとヘレジナが語っていた。
大変だなあ。
頑張れよ、子供たち。
「──おい、編入生!」
教師の厳しい声が教室に響き渡る。
「あ、はい」
「手を止めて余所見とは、随分余裕じゃないか」
「すみません……」
「トートアネマの特産品を三つ、挙げてみろ」
「わかりません……」
教師が、深々と溜め息をつく。
「……その年でわざわざ編入してきて、このざまか。まあいい。教科書の142ページだ」
「──…………」
そう言われてもな。
「おい、教科書はどうした。配付されなかったのか?」
「いえ、もらったんですけど……」
「けど?」
「……まあ、いいじゃないですか」
「いいわけがあるか!」
そりゃそうだ。
「す、すみません。ぼ、ぼ、僕に、貸してくれたんです……」
イオタが、おずおずと口を開いた。
「……ああ、シャン君か。また教科書を紛失したんだったな」
「はい……」
教師が、哀れみの視線をイオタに送る。
何が行われているのか、把握はしているのだろう。
「しかし、右も左もわからない編入生から教科書を借りるのはよくないな。教科書がなければ授業がどこまで進んでいるのかもわからないだろう」
「……す、すみません……」
イオタが、俺に教科書を返そうと立ち上がる。
それを手で制して、言う。
「いいんです。あげたんですよ、俺」
「……あげた、とは?」
「文字、読めないんです。あっても意味ないですから」
その瞬間、教室が、どっと沸いた。
エイザンが、心底愉快そうに俺を見つめている。
再び溜め息をつくと、教師が呟くように言った。
「君は、どうしてここにいるんだ……」
「はは……」
乾いた笑いしか出ない。
「わかった。なんとか耳で覚えなさい」
「はい」
正直、申し訳なかった。
皆、自分の将来のため真面目に授業を受けているのに、俺はその邪魔しかしていない。
できれば空気のように扱ってもらいたいのだが、それも難しいのだろう。
他の座学では、せめて板書を写しているふりくらいはしておこうと思った。
「──このように、山脈と河川の多いトートアネマでは肉食文化が盛んではなく、タンパク質の摂取を川魚に頼っているため、貿易輸出品の中で魚醤の占める割合が──」
濃緑色ではなく漆黒の黒板に、白墨で文字が書かれていく。
「──…………」
わからん。
何もかも、わからん。
ほんの二ヶ月前に来たばかりの世界の行ったことない国の輸出入品の統計割合なんて、知るものか。
俺は、貿易の教科書をイオタに押し付けると、ノートを開くだけ開いて窓の外を眺めた。
綺麗に整備されたグラウンドで、初等部と思しき子供たちが、飽きることなく垂直跳びを繰り返している。
垂直跳びは、体操術を学ぶ際の初歩であるらしい。
制御を下半身に集中できるし、身体能力のみの場合との差異を実感しやすいのがその理由だ。
その後は、幅跳び、短距離走、長距離走といったように、徐々に難易度を上げていくのだとヘレジナが語っていた。
大変だなあ。
頑張れよ、子供たち。
「──おい、編入生!」
教師の厳しい声が教室に響き渡る。
「あ、はい」
「手を止めて余所見とは、随分余裕じゃないか」
「すみません……」
「トートアネマの特産品を三つ、挙げてみろ」
「わかりません……」
教師が、深々と溜め息をつく。
「……その年でわざわざ編入してきて、このざまか。まあいい。教科書の142ページだ」
「──…………」
そう言われてもな。
「おい、教科書はどうした。配付されなかったのか?」
「いえ、もらったんですけど……」
「けど?」
「……まあ、いいじゃないですか」
「いいわけがあるか!」
そりゃそうだ。
「す、すみません。ぼ、ぼ、僕に、貸してくれたんです……」
イオタが、おずおずと口を開いた。
「……ああ、シャン君か。また教科書を紛失したんだったな」
「はい……」
教師が、哀れみの視線をイオタに送る。
何が行われているのか、把握はしているのだろう。
「しかし、右も左もわからない編入生から教科書を借りるのはよくないな。教科書がなければ授業がどこまで進んでいるのかもわからないだろう」
「……す、すみません……」
イオタが、俺に教科書を返そうと立ち上がる。
それを手で制して、言う。
「いいんです。あげたんですよ、俺」
「……あげた、とは?」
「文字、読めないんです。あっても意味ないですから」
その瞬間、教室が、どっと沸いた。
エイザンが、心底愉快そうに俺を見つめている。
再び溜め息をつくと、教師が呟くように言った。
「君は、どうしてここにいるんだ……」
「はは……」
乾いた笑いしか出ない。
「わかった。なんとか耳で覚えなさい」
「はい」
正直、申し訳なかった。
皆、自分の将来のため真面目に授業を受けているのに、俺はその邪魔しかしていない。
できれば空気のように扱ってもらいたいのだが、それも難しいのだろう。
他の座学では、せめて板書を写しているふりくらいはしておこうと思った。
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