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第三章 ラーイウラ王国
4/最上拝謁の間 -9 起こすこと、それが奇跡
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【ネルを助ける】
【ネルを見捨てる】
「──…………」
ネルは死んだ。
もう、生き返らない。
俺は、ネルを見捨てた。
青の選択肢に目が眩んで、思考を停止した。
俺は──
同じ選択肢を突きつけられたにも関わらず、またネルを見捨てるのか?
「──見捨てない。絶対に」
そう口にした瞬間、脳裏で鳳仙花が弾けた。
そうだ。
まだ試していないことがある。
諦めるのは、すべての手を尽くしてからでいい。
俺は、王の間へと駆け出した。
「おい、カタナ!」
ヘレジナの声を背に浴びながら王の間へと戻り、テーブルに置いてあった美酒の瓶を掴み取る。
足りなかったのかもしれない。
あるいは、摂取の方法が間違っていたのかもしれない。
俺は、最上拝謁の間へと取って返し、ネルの上体を抱きかかえた。
「カタナ、何を……?」
「サザスラーヤの血潮を飲ませる」
「……血潮は、もう、傷口に注いだではないか」
「ラライエは、サザスラーヤの肉を食らい、その血潮を飲んでいた。サザスラーヤは命を司る陪神であり、そして──」
瓶を傾け、ネルの口に中身を注ぐ。
「ラライエは、千年を生きた」
「!」
「頼む、手伝ってくれ。このままじゃ喉の奥まで届かない」
「わ、わわ、わかった!」
プルが、ネルの首の角度を固定する。
俺は、口の端から溢れた血潮を指で拭うと、もう一度ネルの口に瓶を傾けた。
「──ネル、聞こえてるか。見捨てて、ごめん。助けられなくて、ごめん。言い訳なんてしない。起きて、俺のことを怒ってくれ。俺のことを、殴ってくれ」
涙が溢れる。
ネルの頬に、しずくが落ちる。
「起きてくれ、ネル……ッ!」
そのとき、ネルの首筋がかすかに動いた。
血潮を飲み下したのだ。
「ネル!」
そして、
「──まッ、ずーい!」
ネルが、飛び起きた。
「うお!」
「生き、返った……?」
目をまるくするアーラーヤとヴェゼルを横目に、俺は、ネルに微笑みかけた。
頬をくすぐる涙を、快く感じながら。
「……地獄の交響曲みたいな味だろ」
「不味さで生き返ったわよ!」
「ネル……!」
プルが、ネルに抱き着く。
ネルは、そんなプルの背中を、優しく撫でた。
「はいはい、プル。ちゃんと生きてるからだいじょーぶ」
「……寝坊だぞ、ネル」
「ヘレジナも、泣かない泣かない」
ヘレジナが、目元を擦りながら怒鳴る。
「泣いとらんわ!」
そして、ネルが俺を見た。
「──カタナ。あなたの声、ちゃんと聞こえてたよ」
「そっか」
「でも、王子さま的には口移しで飲ませてくれてもよかったんじゃない? 減点よ、減点」
「ははっ」
目元を拭いながら、軽口を叩く。
「そりゃ、こんな不味いもの、……なあ?」
「そーゆー理由かい!」
「冗談冗談」
「本当かな……」
ネルが、俺に不信の目を向ける。
仕方ないだろ。
口移しじゃ、喉の奥まで届かないもの。
「──よかった」
ヤーエルヘルが、ぽつりと呟く。
「そうだ。ヤーエルヘル、気分は大丈夫か?」
そう尋ねた瞬間、
「──…………」
ふらり、と。
ヤーエルヘルが、倒れた。
「おわ!」
ヴェゼルが慌ててヤーエルヘルを受け止める。
「ヤーエルヘル!」
アーラーヤが、冷静に言う。
「ひとまず王の間へ運ぶぞ。臭そうだが、ベッドもある」
「シーツくらいはちゃんと交換してると思うけど……」
「加齢臭ってのがな、あるのよ」
実感の篭もった言葉だった。
「では、ヤーエルヘルは私が背負おう。ヴェゼル、乗せてくれんか」
「はいはい。貸し──は、いいか。これくらい」
ヴェゼルが、ヤーエルヘルをヘレジナの背中に乗せる。
俺たちは、ラライエと側近の死体を片付ける間もなく、いったんその場を引き上げた。
【ネルを見捨てる】
「──…………」
ネルは死んだ。
もう、生き返らない。
俺は、ネルを見捨てた。
青の選択肢に目が眩んで、思考を停止した。
俺は──
同じ選択肢を突きつけられたにも関わらず、またネルを見捨てるのか?
「──見捨てない。絶対に」
そう口にした瞬間、脳裏で鳳仙花が弾けた。
そうだ。
まだ試していないことがある。
諦めるのは、すべての手を尽くしてからでいい。
俺は、王の間へと駆け出した。
「おい、カタナ!」
ヘレジナの声を背に浴びながら王の間へと戻り、テーブルに置いてあった美酒の瓶を掴み取る。
足りなかったのかもしれない。
あるいは、摂取の方法が間違っていたのかもしれない。
俺は、最上拝謁の間へと取って返し、ネルの上体を抱きかかえた。
「カタナ、何を……?」
「サザスラーヤの血潮を飲ませる」
「……血潮は、もう、傷口に注いだではないか」
「ラライエは、サザスラーヤの肉を食らい、その血潮を飲んでいた。サザスラーヤは命を司る陪神であり、そして──」
瓶を傾け、ネルの口に中身を注ぐ。
「ラライエは、千年を生きた」
「!」
「頼む、手伝ってくれ。このままじゃ喉の奥まで届かない」
「わ、わわ、わかった!」
プルが、ネルの首の角度を固定する。
俺は、口の端から溢れた血潮を指で拭うと、もう一度ネルの口に瓶を傾けた。
「──ネル、聞こえてるか。見捨てて、ごめん。助けられなくて、ごめん。言い訳なんてしない。起きて、俺のことを怒ってくれ。俺のことを、殴ってくれ」
涙が溢れる。
ネルの頬に、しずくが落ちる。
「起きてくれ、ネル……ッ!」
そのとき、ネルの首筋がかすかに動いた。
血潮を飲み下したのだ。
「ネル!」
そして、
「──まッ、ずーい!」
ネルが、飛び起きた。
「うお!」
「生き、返った……?」
目をまるくするアーラーヤとヴェゼルを横目に、俺は、ネルに微笑みかけた。
頬をくすぐる涙を、快く感じながら。
「……地獄の交響曲みたいな味だろ」
「不味さで生き返ったわよ!」
「ネル……!」
プルが、ネルに抱き着く。
ネルは、そんなプルの背中を、優しく撫でた。
「はいはい、プル。ちゃんと生きてるからだいじょーぶ」
「……寝坊だぞ、ネル」
「ヘレジナも、泣かない泣かない」
ヘレジナが、目元を擦りながら怒鳴る。
「泣いとらんわ!」
そして、ネルが俺を見た。
「──カタナ。あなたの声、ちゃんと聞こえてたよ」
「そっか」
「でも、王子さま的には口移しで飲ませてくれてもよかったんじゃない? 減点よ、減点」
「ははっ」
目元を拭いながら、軽口を叩く。
「そりゃ、こんな不味いもの、……なあ?」
「そーゆー理由かい!」
「冗談冗談」
「本当かな……」
ネルが、俺に不信の目を向ける。
仕方ないだろ。
口移しじゃ、喉の奥まで届かないもの。
「──よかった」
ヤーエルヘルが、ぽつりと呟く。
「そうだ。ヤーエルヘル、気分は大丈夫か?」
そう尋ねた瞬間、
「──…………」
ふらり、と。
ヤーエルヘルが、倒れた。
「おわ!」
ヴェゼルが慌ててヤーエルヘルを受け止める。
「ヤーエルヘル!」
アーラーヤが、冷静に言う。
「ひとまず王の間へ運ぶぞ。臭そうだが、ベッドもある」
「シーツくらいはちゃんと交換してると思うけど……」
「加齢臭ってのがな、あるのよ」
実感の篭もった言葉だった。
「では、ヤーエルヘルは私が背負おう。ヴェゼル、乗せてくれんか」
「はいはい。貸し──は、いいか。これくらい」
ヴェゼルが、ヤーエルヘルをヘレジナの背中に乗せる。
俺たちは、ラライエと側近の死体を片付ける間もなく、いったんその場を引き上げた。
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