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第三章 ラーイウラ王国

3/ラーイウラ王城 -10 ここが極楽

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「アーラーヤ=ハルクマータ、か」
 奇跡級上位を標榜する、奇跡級中位。
 アーラーヤと俺は、相性がいい。
 体操術によってルインライン級にまで加速された身のこなしは、たしかに脅威だ。
 だが、俺には神眼がある。
 アーラーヤの強みをまるまる潰せるのだ。
 だが、多少の違和感はあった。
 アーラーヤは、何故、自らが奇跡級上位であると偽ったのだろう。
 わからない。
 わからないが、理性の外での〈引っ掛かり〉は意外と重要事だったりする。
 頭の片隅には入れておくとしよう。
 そんなことを延々と考えていたら、すっかり茹だってしまっていた。
「そろそろ出るか……」
 脱衣所で部屋着に着替え、皆の元へと戻る。
「──あら、お帰り。随分と長風呂だったね」
「ちょいと考え事を……」
「わかった。本戦のことでしょ」
「十割当たるだろ、それ」
 ネルがくすりと笑い、読んでいた本を閉じた。
「はい、左腕出して。リボン巻き直すから」
 ネルに、緑色のリボンを差し出す。
 そのとき、プルが、別の寝室から顔を出した。
「だ、……誰が、いちばん大きいベッド使うか、き、決まった……、よ!」
「俺はどこだ?」
 騎竜車内での雑魚寝とは言え、三人と同じ部屋で寝ることには慣れている。
 どのベッドも寝心地はよさそうだから、どこをあてがわれても文句を言うつもりはなかった。
「カタナさんは主寝室でし! いちばん大きいベッドでしよ!」
「そんなに気遣わんでも……」
「言ったであろう。今日は、私たちの主人のつもりで過ごせ。主人は主寝室で眠るものだぞ」
「そういうもんか」
 ネルがリボンを巻き直してくれるのを待って、ヤーエルヘルが俺の手を引く。
「カタナさん、来てくだし!」
「はいはい」
 導かれるまま主寝室へ入ると、
「──で……ッ、か!」
 キングサイズの二倍は優にある、漫画でしかお目に掛かれないような巨大なベッドが鎮座ましましていた。
「これ、全員でだって寝られるんじゃないか」
「ほう。主人のつもりで過ごせとは言ったが、なかなか挑戦的な発言だな」
「したいってんじゃなくて、可能かどうかの話だっつの!」
「ふふん。そういうことにしておこう」
 謂われのない罪を勝手に許されてしまった。
 なんか納得行かないが、蒸し返すのも癪だ。
 俺は、靴を脱ぎ、そっとベッドの上に上がってみた。
 ──ぎ。
 軋みと共に、スプリングらしき感触が俺の体重を受け止めた。
 質も良さそうだ。
「こいつはいいな。疲れが取れるかも」
「ど、どうぞ、どうぞ……」
 ベッドの上を這い進み、真ん中まで辿り着く。
 両手両足を広げるが、当然、端には届かない。
「うおー……!」
 狭い日本で育った身としては、軽く感動ものである。
 ふと頭上を見ると、ヘッドボードに半輝石セルが埋め込まれていることに気が付いた。
「なんだ、この半輝石セル。仕掛けでもあんのかな」
「あ、そ、それはね?」
 プルが、ヘッドボードの半輝石セルに指を触れ、念じる。
「……あ、れ?」
「プル。首輪首輪」
「そ、そそ、そうでした……!」
「あはは! じゃあ、あたしがやってみるね」
 ネルがベッドに上がり、膝立ちで俺の隣までやってくる。
 そして、縦に二つ並んだ半輝石セルのうち、上側に指を触れた。
 かすかに軋みをあげながら、ベッドの頭側がゆっくり持ち上がっていく。
「おお……!」
「しごい、こんな機能が!」
「こ、これ、上げすぎると、マットレスごと、ずり落ちるん、……だよね」
「あるある。あたしも十年前にここに来たとき、滑り台代わりにして遊んでたもの」
 ネルが下の半輝石セル魔力マナを注ぐと、角度が徐々に戻っていった。
「マジで偉くなった気分……」
 このベッドでふんぞり返りながら、あのクソ社長にクビ宣告してえー。
 ふとスプリングの軋む音がして、そちらへ視線を向けると、ヤーエルヘルがベッドに乗っていた。
「さすらいのマッサージ師がやってきましたよー」
「お、奇遇だなマッサージ師さん。お願いするわ」
 ごろりと寝返りを打ち、うつ伏せになる。
「それなら私は腕を揉んでやろう」
「え」
「わ、わた、わたし、左腕ね」
「ちょ」
「ふくらはぎを揉んで進ぜよー」
「待って──」
 なんだこれ。
 四人の美女と美少女に、寄ってたかって疲れ切った体を揉みほぐされる。
 こんなことがあっていいのか。
 朝になったら肥溜めに肩まで浸かってるんじゃないのか。
 しかし、体は正直で──

「……ここが、極楽……」

 あまりの心地よさ、満足感に、意識がどんどん沈み込んでいく。
 幸せに微睡んだまま、俺は眠りに落ちていった──
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