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第二章 遺物三都
3/ペルフェン -14 送別会
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「──さあさ、飲め飲め! 食え食えィ! 今日はウガルデ様一世一代のお大尽よ!」
「うおおおおおお──ッ!」
「こっち、羊肉の鉄串焼き! 十人前な!」
「死ぬほど酒持ってこいやー!」
酔漢たちが、酒に、料理に溺れていく。
「……これ、俺たちの送別会で合ってるか?」
若干、冒険者特有のノリに置いて行かれた感がある。
「ふへ、へ。も、盛り上がってるかーい……」
プルが小声で何か言っている。
放っておこう。
「店員、飲み物を頼む!」
ヘレジナが声を張り上げると、
「はい!」
反応したのはヤーエルヘルだった。
「いや、ヤーエルヘルではなく、あちらの店員に声を掛けたのだが……」
「つい反射で……」
「店員として勤めていたのだから、わからんでもないが」
「で、でも、注文くらい取りましよ。飲み物のご注文はいかがなさいましか?」
「私はエールで」
さすが二十八歳、アルコールを頼むのに躊躇がない。
「や、ヤーエルヘルの、おすすめ、……は?」
プルの質問に、ヤーエルヘルがしばし思案する。
「シリジンワインなんていかがでしょう」
「酒か……」
「じゃ、じゃあ、……それで」
「俺はいいけど、プルは駄目だろ」
「え、な、なんで?」
心底驚いた表情のプルを見て、気付く。
「……もしかして、サンストプラって、何歳未満は酒飲んだら駄目とかって常識ないのか?」
ヘレジナが答える。
「パレ・ハラドナにはあるぞ。十六歳未満は酒類を飲んではならん」
「プルは?」
「じゅ、十五歳……?」
「駄目じゃねえか」
「こ、ここ、パラキストリだし……」
「そもそもプルさまは、幼少時よりちびちびと盗み飲みしておったからな。いまさらだ」
「止めろよ……」
それでいいのか、従者。
「それに、でしね。ラーイウラ王国では、水を飲むという習慣がないそうなのでし」
「水を飲まない……?」
「はい。代わりにシリジンワインを飲むそうでしよ。シリジンの果実は糖度が低めでしから、アルコール度数の低いワインになりまし。それを水代わりに飲んでいるのだと聞きました」
「はー……」
そう言えば、古代ヨーロッパでも、ビールとワインを水代わりに飲んでいたと聞いたことがあるな。
魔術で発展した異世界と、技術で発展した現代世界。
まったく別のアプローチで発達した文明がところどころ似通っているのは興味深い。
収斂進化のようなものだろうか。
「なら、俺もそのシリジンワインってやつ頼むわ。飲み水代わりになるなら慣れておかないとな」
「わ、わたしもー……」
「了解でし」
ヤーエルヘルが、カウンターまで注文を届けに行く。
数分後、四人分のジョッキを両手で危なげなく持ちながら、ヤーエルヘルが戻ってきた。
「ヘレジナさん。これ、エールでし」
「ああ、ありがとう」
「そして、こちらがシリジンワインでしね」
俺とプルの前に、ほぼ透明な液体の入ったジョッキが置かれる。
「ヤーエルヘルのはなんだ? なんか黒いけど」
「スグリ酒でし」
「酒じゃん……」
「甘酸っぱくて美味しいでしよ。あちし、昔からスグリ酒が好きで」
「ええ……」
いいのか、それ。
「ヤーエルヘルって何歳なんだよ」
「十二でしよ?」
「……いつから飲んでるんだ」
「物心ついたときから飲んでましけど……」
「な、なかま、なかま」
「仲間でしー」
「──…………」
呑兵衛ばっかりか、このパーティ。
わかってる。
わかってるんだ。
恐らくいちばん飲まない俺が、酔っ払いを介抱する係に回されるんだ。
旅行積立金が給料から天引きされているにも関わらず自腹で行かされる社員旅行で、何度も何度も貧乏くじを引いたのだから。
「トレロ・マ・レボロは寒いので、お酒を飲んで体を温めるのでし。魔法が忌避されていて、火をつけるのも一苦労。なんらかの方法で体温を高めないと凍死しかねません」
「ああ、そういうことか」
理由があるなら納得できる。
むしろ、理由もないのに飲んでいるプルが悪い。
プルを白い目で見つめながら、シリジンワインを口に運ぶ。
「──すっぱ!」
味は悪くないのだが、レモンもかくやという酸味だ。
そのおかげで、アルコールが入っていることを忘れてしまいそうなほどだった。
「わ、お、おいしい、……かも!」
「酸味きつすぎないか?」
「わ、わたしは、このくらい、好き。ふへへ」
「まあ、嫌いではないけど……」
ちびちびとしか飲めないな、これは。
「カタナさん。お口に合わなかったのなら、スグリ酒飲んでみましか?」
ヤーエルヘルが、まだ口をつけていないジョッキを俺に手渡してくれる。
「どれ」
パッと見では黒く見えるスグリ酒だが、よく見ると濃い赤色であることがわかる。
嗅ぐと、甘い香りがした。
ひとくち飲んでみる。
「あ、これカシスに似てる……」
「カシス、でしか?」
「俺もよく知らんけど、近縁種か何かじゃないかな。思ったより甘いし、美味い美味い」
もしキンキンに冷えていれば、もっと美味しかったろうに。
この世界には、火法や炎術はあっても、物を冷やす魔術が存在しないのだ。
「うおおおおおお──ッ!」
「こっち、羊肉の鉄串焼き! 十人前な!」
「死ぬほど酒持ってこいやー!」
酔漢たちが、酒に、料理に溺れていく。
「……これ、俺たちの送別会で合ってるか?」
若干、冒険者特有のノリに置いて行かれた感がある。
「ふへ、へ。も、盛り上がってるかーい……」
プルが小声で何か言っている。
放っておこう。
「店員、飲み物を頼む!」
ヘレジナが声を張り上げると、
「はい!」
反応したのはヤーエルヘルだった。
「いや、ヤーエルヘルではなく、あちらの店員に声を掛けたのだが……」
「つい反射で……」
「店員として勤めていたのだから、わからんでもないが」
「で、でも、注文くらい取りましよ。飲み物のご注文はいかがなさいましか?」
「私はエールで」
さすが二十八歳、アルコールを頼むのに躊躇がない。
「や、ヤーエルヘルの、おすすめ、……は?」
プルの質問に、ヤーエルヘルがしばし思案する。
「シリジンワインなんていかがでしょう」
「酒か……」
「じゃ、じゃあ、……それで」
「俺はいいけど、プルは駄目だろ」
「え、な、なんで?」
心底驚いた表情のプルを見て、気付く。
「……もしかして、サンストプラって、何歳未満は酒飲んだら駄目とかって常識ないのか?」
ヘレジナが答える。
「パレ・ハラドナにはあるぞ。十六歳未満は酒類を飲んではならん」
「プルは?」
「じゅ、十五歳……?」
「駄目じゃねえか」
「こ、ここ、パラキストリだし……」
「そもそもプルさまは、幼少時よりちびちびと盗み飲みしておったからな。いまさらだ」
「止めろよ……」
それでいいのか、従者。
「それに、でしね。ラーイウラ王国では、水を飲むという習慣がないそうなのでし」
「水を飲まない……?」
「はい。代わりにシリジンワインを飲むそうでしよ。シリジンの果実は糖度が低めでしから、アルコール度数の低いワインになりまし。それを水代わりに飲んでいるのだと聞きました」
「はー……」
そう言えば、古代ヨーロッパでも、ビールとワインを水代わりに飲んでいたと聞いたことがあるな。
魔術で発展した異世界と、技術で発展した現代世界。
まったく別のアプローチで発達した文明がところどころ似通っているのは興味深い。
収斂進化のようなものだろうか。
「なら、俺もそのシリジンワインってやつ頼むわ。飲み水代わりになるなら慣れておかないとな」
「わ、わたしもー……」
「了解でし」
ヤーエルヘルが、カウンターまで注文を届けに行く。
数分後、四人分のジョッキを両手で危なげなく持ちながら、ヤーエルヘルが戻ってきた。
「ヘレジナさん。これ、エールでし」
「ああ、ありがとう」
「そして、こちらがシリジンワインでしね」
俺とプルの前に、ほぼ透明な液体の入ったジョッキが置かれる。
「ヤーエルヘルのはなんだ? なんか黒いけど」
「スグリ酒でし」
「酒じゃん……」
「甘酸っぱくて美味しいでしよ。あちし、昔からスグリ酒が好きで」
「ええ……」
いいのか、それ。
「ヤーエルヘルって何歳なんだよ」
「十二でしよ?」
「……いつから飲んでるんだ」
「物心ついたときから飲んでましけど……」
「な、なかま、なかま」
「仲間でしー」
「──…………」
呑兵衛ばっかりか、このパーティ。
わかってる。
わかってるんだ。
恐らくいちばん飲まない俺が、酔っ払いを介抱する係に回されるんだ。
旅行積立金が給料から天引きされているにも関わらず自腹で行かされる社員旅行で、何度も何度も貧乏くじを引いたのだから。
「トレロ・マ・レボロは寒いので、お酒を飲んで体を温めるのでし。魔法が忌避されていて、火をつけるのも一苦労。なんらかの方法で体温を高めないと凍死しかねません」
「ああ、そういうことか」
理由があるなら納得できる。
むしろ、理由もないのに飲んでいるプルが悪い。
プルを白い目で見つめながら、シリジンワインを口に運ぶ。
「──すっぱ!」
味は悪くないのだが、レモンもかくやという酸味だ。
そのおかげで、アルコールが入っていることを忘れてしまいそうなほどだった。
「わ、お、おいしい、……かも!」
「酸味きつすぎないか?」
「わ、わたしは、このくらい、好き。ふへへ」
「まあ、嫌いではないけど……」
ちびちびとしか飲めないな、これは。
「カタナさん。お口に合わなかったのなら、スグリ酒飲んでみましか?」
ヤーエルヘルが、まだ口をつけていないジョッキを俺に手渡してくれる。
「どれ」
パッと見では黒く見えるスグリ酒だが、よく見ると濃い赤色であることがわかる。
嗅ぐと、甘い香りがした。
ひとくち飲んでみる。
「あ、これカシスに似てる……」
「カシス、でしか?」
「俺もよく知らんけど、近縁種か何かじゃないかな。思ったより甘いし、美味い美味い」
もしキンキンに冷えていれば、もっと美味しかったろうに。
この世界には、火法や炎術はあっても、物を冷やす魔術が存在しないのだ。
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