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第二章 遺物三都
3/ペルフェン -4 交渉
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憲兵が、とある部屋の扉を叩く。
「──兵長! 客人が来られました!」
「入れ」
渋い声が許可すると同時に、憲兵が扉を開く。
「では、自分はここまでだ。あとは好きにするといい」
そう言って、元来た道を戻っていった。
互いに小さく頷き合い、兵長の部屋へと入る。
「……?」
机で書き物仕事をしていた兵長が、不審そうにこちらをねめ回す。
「誰だね、君たちは。知らない顔だが」
「ええ、ええ。兵長さまに置かれましては、私どもなど御存知ないのも当然です。ともあれ、これを見ていただければ概ねのことはわかるかと」
パーティ登録証を兵長の机に置く。
「ワンダラスト・テイル──冒険者か」
「その通りです」
「して、何用だ。見ての通り、憲兵隊は、とある案件にかかりきりだ。冒険者に割く人的余裕はない」
「いえいえ、用件はすぐに終わります。兵長さまのお手を煩わせるのは最低限で済むかと」
柔和な笑みを崩すことなく、俺は言った。
「オゼロ=プリヤシュと話がしたいのです。ものの十分で構いませんので、どうか許可していただけませんか」
「はっ」
兵長が鼻で笑う。
「オゼロ=プリヤシュは重要参考人だ。面会は認められない。用件はそれだけか?」
「ええ、もちろん。用件はそれだけなのですが──」
金貨を一枚、机に置く。
「話はまだ終わっておりません」
「見くびるな、冒険者。金で解決しようとは見下げ果てたやつめ。いいからその金貨を──」
じゃらり。
金貨を十枚、さらに並べる。
「ッ!?」
「是非、オゼロ=プリヤシュと面会させていただきたいのですが……」
そう言って、さらに一枚足す。
「そ、そう簡単にだな」
さらに足す。
「い、いや、その……」
もう一枚足す。
「──…………」
最後に一枚足して、金貨は十五枚。
ウガルデに尋ねたところ、神代の金貨の価値は、一枚で千四百から千七百シーグルほど。
日本円に換算して、三十万円少々といったところだ。
そりゃ、ウガルデも遠慮するわな。
俺は、兵長の目を覗き込んだ。
心理学に詳しいわけでもないが、すぐにわかる。
これは、既に心は決まっていて、あとはどこまで値段を吊り上げられるか心の中でほくそ笑んでいる顔だ。
「ああ、どうかお願いします。オゼロと話がしたいのです。ほんの五分で構いませんので……」
「それは難しいな……」
さあ、ここからだ。
「そうですか、残念です」
俺は、わざとらしく肩を落としてみせると、十五枚の金貨から一枚を懐に戻した。
「!?」
まだ手に入れていないものを手中に収めたと勘違いした人間は、それが減ることに耐えられない。
この兵長のような輩は、特にだ。
「あと二回だけ言います。オゼロと会わせてください」
二枚を懐に戻す。
「あ──……」
兵長が、情けない顔で、金貨と俺とを見比べた。
「次で最後です」
俺は、すべての金貨をまとめ、言った。
「──オゼロに会わせてください」
「あ、ああ……」
兵長が、浅く頷く。
「……わかった」
やっと折れたか。
ヘレジナが、小声で囁くように言った。
「……今のは、いっそ怖かったぞ」
恐ろしいものを見るような目つきだ。
「そうかあ?」
まだ優しいほうだろ。
「か、かたなは、こういうの得意。カジノのときも、すごかった……!」
「カジノって、ハノンソルのでしか?」
「う、うん。あとで聞かせてあげる、ね? い、一億シーグルの大勝負の、おはなし……」
「一億……!」
ヤーエルヘルが目をまるくする。
少々照れくさい。
「──兵長! 客人が来られました!」
「入れ」
渋い声が許可すると同時に、憲兵が扉を開く。
「では、自分はここまでだ。あとは好きにするといい」
そう言って、元来た道を戻っていった。
互いに小さく頷き合い、兵長の部屋へと入る。
「……?」
机で書き物仕事をしていた兵長が、不審そうにこちらをねめ回す。
「誰だね、君たちは。知らない顔だが」
「ええ、ええ。兵長さまに置かれましては、私どもなど御存知ないのも当然です。ともあれ、これを見ていただければ概ねのことはわかるかと」
パーティ登録証を兵長の机に置く。
「ワンダラスト・テイル──冒険者か」
「その通りです」
「して、何用だ。見ての通り、憲兵隊は、とある案件にかかりきりだ。冒険者に割く人的余裕はない」
「いえいえ、用件はすぐに終わります。兵長さまのお手を煩わせるのは最低限で済むかと」
柔和な笑みを崩すことなく、俺は言った。
「オゼロ=プリヤシュと話がしたいのです。ものの十分で構いませんので、どうか許可していただけませんか」
「はっ」
兵長が鼻で笑う。
「オゼロ=プリヤシュは重要参考人だ。面会は認められない。用件はそれだけか?」
「ええ、もちろん。用件はそれだけなのですが──」
金貨を一枚、机に置く。
「話はまだ終わっておりません」
「見くびるな、冒険者。金で解決しようとは見下げ果てたやつめ。いいからその金貨を──」
じゃらり。
金貨を十枚、さらに並べる。
「ッ!?」
「是非、オゼロ=プリヤシュと面会させていただきたいのですが……」
そう言って、さらに一枚足す。
「そ、そう簡単にだな」
さらに足す。
「い、いや、その……」
もう一枚足す。
「──…………」
最後に一枚足して、金貨は十五枚。
ウガルデに尋ねたところ、神代の金貨の価値は、一枚で千四百から千七百シーグルほど。
日本円に換算して、三十万円少々といったところだ。
そりゃ、ウガルデも遠慮するわな。
俺は、兵長の目を覗き込んだ。
心理学に詳しいわけでもないが、すぐにわかる。
これは、既に心は決まっていて、あとはどこまで値段を吊り上げられるか心の中でほくそ笑んでいる顔だ。
「ああ、どうかお願いします。オゼロと話がしたいのです。ほんの五分で構いませんので……」
「それは難しいな……」
さあ、ここからだ。
「そうですか、残念です」
俺は、わざとらしく肩を落としてみせると、十五枚の金貨から一枚を懐に戻した。
「!?」
まだ手に入れていないものを手中に収めたと勘違いした人間は、それが減ることに耐えられない。
この兵長のような輩は、特にだ。
「あと二回だけ言います。オゼロと会わせてください」
二枚を懐に戻す。
「あ──……」
兵長が、情けない顔で、金貨と俺とを見比べた。
「次で最後です」
俺は、すべての金貨をまとめ、言った。
「──オゼロに会わせてください」
「あ、ああ……」
兵長が、浅く頷く。
「……わかった」
やっと折れたか。
ヘレジナが、小声で囁くように言った。
「……今のは、いっそ怖かったぞ」
恐ろしいものを見るような目つきだ。
「そうかあ?」
まだ優しいほうだろ。
「か、かたなは、こういうの得意。カジノのときも、すごかった……!」
「カジノって、ハノンソルのでしか?」
「う、うん。あとで聞かせてあげる、ね? い、一億シーグルの大勝負の、おはなし……」
「一億……!」
ヤーエルヘルが目をまるくする。
少々照れくさい。
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