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第二章 遺物三都

2/ロウ・カーナン -16 通路の果て

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「──はッ!」
 二匹の魔獣を一息に断ち割る。
 折れた神剣に付着した体液を振り払い、改めて索敵を行う。
「ヘレジナ、そっちは大丈夫か?」
「問題ない」
「魔獣は、前からしか現れてません。道は合ってると思いまし」
 蟲の魔獣との遭遇頻度が上がっている。
 目的の場所が近いのかもしれない。
「……か、かたな。気を付けて」
「ああ、わかってる」
 プルの頭を、ぽんと撫でる。
 だが、その最中でも、意識は周囲に向けている。
 一匹たりとも俺の後ろに通さない。
 そのくらいの覚悟で挑まなければ、ヘレジナの域には至れないだろう。
「──……ふー……」
 大きく息を吐く。
 集中がぶつりぶつりと途切れ始めていた。
 俺は、少年漫画の主人公ではない。
 覚悟の一つ、怒りの一つで、都合良く覚醒とは行かない。
 今はただ、泥臭く前へ進むのみだ。
 しばらく進むと、脇道がなくなった。
 直線の道だけが、果てが見えないほど長く伸びている。
「──ヘレジナ! 二匹逃がした!」
「応!」
 逃した二匹を目で追ったのが悪かった。
 背後に気配。
 慌てて首を傾けると、異形の蟲の翅が俺の頬を切り裂いた。
「つ──」
「カタナさんッ!」
 ヤーエルヘルの魔術が視界をかすめた刹那、

 ──ボンッ!

 俺たちの頭上で爆発が起きた。
 ぱたぱたと粘液が降り注ぐ。
「ふぎゃ!」
「あっ! ご、ごめんなし……!」
 灰色の粘液を頭からかぶったプルが、無理をしている様子もなく微笑む。
「だ、だいじょうぶ。帰ったらおふろ、入るから……」
「で、でも、プルさんの髪、きれいなのに」
「そ、それより、かたな。傷、見せて」
「ああ」
 治癒術の光が迷宮をほのかに照らす。
 傷が治癒する際には、突っ張るような痛みを感じることがある。
 だが、プルの腕であればそれも一瞬だ。
「は、はい、終わりー……」
「ありがとうな、プル。ヤーエルヘルも」
「き、傷口に粘液が入ると、よくない……かも。だから、怪我をしたら、すぐ言ってね?」
 とは言え、俺とヘレジナは、蟲の魔獣の体液でとっくにドロドロである。
「さほど臭くもないのが不幸中の幸いか……」
「多少の生臭さはあるが、いっそ一度まみれてしまえば不快さは少ない。ドロドロの山羊のチーズを頭からかぶれと言われるよりは随分ましだ」
「まあな」
 散発的に現れる魔獣を逐一駆除していき、やがて通路の果てへと辿り着く。
 そこにあったものは、優に俺の身長の二倍はある巨大な両開きの扉だった。
 鍵が掛かっていないのか、扉は薄く開いており、今この瞬間も隙間から蟲の魔獣が這い出している。
「──ここか」
「どうしまし……?」
「行くしかあるまい」
 ヘレジナが、這い出してきた蟲を斬り伏せる。
「だが、無闇に吶喊するのは愚策だ。扉の先は魔獣で溢れ返っている。その想定で、どう動くべきかを決めておく。ヤーエルヘル、炎術は使えるな」
「はい、使えまし」
「部屋に入った直後、ヤーエルヘルは頭上を注視しろ。即座に魔獣が襲い掛かってくるようなら、火法か炎術で対処してくれ。上方以外は私がなんとかする」
 プルが、神妙に尋ねる。
「わ、わ、わたしは……?」
「プルさまは扉をくぐらず、いったんこの場で待機していただきたい」
「う」
 プルが、不満そうな、それでいて悲しげな表情を浮かべる。
 戦力外通告を食らったと思ったのだろう。
「当然、プルさまにも役割がございます。重要な役割です。着火係をお願いしたい」
「ちゃ、着火係……?」
「カタナは、自分ひとりでは炎を扱えない。状況に応じ、カタナの神剣に、火法、炎術での着火をお願いいたします」
 それを聞いて、プルが満足げに頷く。
「う、うん! まかせて!」
「俺は、その場の判断で構わないか?」
「ああ。カタナほどの手練れであれば、事前に動きを決めておくのは悪手だ。判断を阻害する可能性が高い。好きに動け」
「はいよ」
 ヘレジナとヤーエルヘルが扉の前に立つ。
「ヤーエルヘル、合図はお前が出せ」
「えっ」
「お前が私に合わせるより、私がお前に合わせるほうが確実だ。好きなタイミングでいい」
「は、はい……!」
 ヤーエルヘルが、二回、深呼吸をする。
 そして、
「──行きまし!」
 言葉と同時に、ヘレジナが扉を蹴り開けた。
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