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第二章 遺物三都

1/ベイアナット -5 冒険者

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「ルインライン=サディクルが亡くなったことが世間に知れ渡ったとき、誰がいちばん被害を被るか」
「あ──」
 プルは今の一言で理解したようだ。
「誰と言われても、師匠は知己が多いゆえな……」
 クイズがしたいわけではないので、さっさと進める。
「答えはパレ・ハラドナだ。一国を揺るがすことのできる武力を、たったの一日で失ったんだからな」
「!」
「あの無数の刺客のなかにはパレ・ハラドナから派遣されたやつもいたはずだ。ルインラインの遺体をパレ・ハラドナ側の人間が見つければ、上手く隠して万々歳。パラキストリ側の人間が見つけていれば、パレ・ハラドナを脅すことができる。どちらにせよ、ルインラインの死は隠蔽されることになる。あくまで仮説だけどな」
「──…………」
 パレ・ハラドナがプルの敵であることは、もはや覆しようのない事実だ。
 気丈な態度を取ってはいるが、本心ではつらいだろうな。
「話を戻します。飛竜騎団の目撃情報もありませんでした。こちらの推察は私から行いましょう」
 こほん、と咳払いをし、ヘレジナが続ける。
「パラキストリは連邦です。連合国家と言い換えてもいい。つまり、各伯領の自治権が非常に強く、伯領間での連携が取りにくいのです。そして、私たちを追っていたザイファス伯領の領地は、地竜窟のあったハバラ湿原まで──」
「ざ、ザイファス伯領の飛竜騎団は、こっちの伯領に入れない、……って、こと?」
「ええ。下手を打てば内戦となる危険すらありますから、判断としては妥当でしょう。加えて、師匠の死が確認されていれば、神託が実現しなかったことは容易に推測できます。つまり、パラキストリには、無理を押してまで私たちを追う理由が既にないのです」
「な、なるほど……!」
 頷くプルを横目に、ふと湧いた疑問をぶつける。
「なら、アインハネスへ急ぐ理由もなくなったのか?」
 ヘレジナが、小さく首を横に振ってみせた。
「無理を押してまでは、と言ったろう。無理でなければ追ってくるし、素性がわかれば捕縛しようとしてくるはずだ。パラキストリにいる限り、私たちはお尋ね者なのだ。なるべく早く出国するという方針に変わりはない」
「つーことは、どっかで稼いでこないとか……」
 賭場でもあればと思ったが、[羅針盤]なしでどうなるかは、既に身を持って知っている。
「か、かたなは、おしごと、すんごく頑張ってきたんだよね……」
「頑張ったと言うか、頑張らされたと言うか、頑張る頑張らないの概念が擦り切れてなくなっても働かされていたというか……」
「あ、相変わらず地獄のような労働環境であるな……」
「だから、普通の仕事だったらなんでもいい。接客でも、力仕事でも、トイレ掃除だって、休憩一時間で八時間労働の契約さえ守ってくれるんなら天国だ」
「か、かたな! ぜったい、そういうおしごと探そうね!」
「探さずとも、たいていの仕事はその範疇に入ると思いますが……」
 咳払いで区切りを設け、ヘレジナが話を続ける。
「仕事の当てはあります。短期間で高収入。腕に覚えさえあれば、未経験者でも大歓迎」
「──…………」
 ここに〈アットホームな職場です〉と付け足せば、ブラック求人そのものである。
 俺も、そんな一文に騙された口だ。
 天井を見上げ、涙をこらえる。
「わ、わ! かたな、なんで泣いてるの!」
「天井の木目が沁みてなあ……」
「……何か、嫌なことを思いだしたのだな。続きは後にするか?」
「いや、大丈夫だ。過ぎたことを言ってても仕方ないしな」
「相分かった」
「で、でも、都合がよすぎて怪しい、……かも」
「なに、私たちに最も適した仕事ですとも」
「具体的には?」
 ヘレジナが、得意げに言った。

「──冒険者、だ!」
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