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第一章 パラキストリ連邦
2/ハノンソル -14 ハノンソル・カジノの長い夜(1/10)
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「──…………」
思わず頭を抱える。
何故だ。
「そ、……その、かたな。げ、元気出して……」
「この状況で元気いっぱいだったら、それはそれで限界だろ……」
おかしい。
選択肢が出ない。
青枠を選択し続けて、あれよあれよと億万長者という作戦が、いきなり頓挫してしまった。
小一時間ほどジングル・ジャングルに明け暮れた結果、俺の手に残ったものは、鮮やかに青い10シーグルチップのみだった。
一時は五千シーグルまで増えたのだが、そこで守勢に入ったのが悪かったらしい。
「……手詰まりか?」
ジングル・ジャングルの勝率は、ニーゼロが四分の一、イチイチが二分の一、ゼロニーが四分の一だ。
ニーゼロ、ゼロニーは、当たれば掛け金が四倍。
イチイチでは掛け金が二倍となる。
だが、このシステムでは胴元が得をしない。
それでは、カジノ側がどうやって儲けているかと言えば──
「も、もう、参加料しか残ってない、ね……」
ハノンソル・カジノでは、どのゲームであっても、一勝負につき一律で10シーグルの参加料を徴収される。
手持ちのチップは、奇しくも10シーグル。
参加料を払えたとしても、賭けるチップが既にないのだ。
最後に残ったなけなしの50シーグルチップを情け容赦なく奪い去ったディーラーが、爽やかな笑顔で俺たちに問う。
「お客さま。次の勝負はどうなさいますか?」
わかっているくせに。
随分と嫌味なディーラーだ。
「……いったん席を外す」
「了解致しました」
プルと共に席を立ち、曲面で構成された壁に背を預ける。
ハノンソル・カジノ。
パラキストリ連邦最大のカジノという謳い文句は、伊達や酔狂ではなかった。
数百名の客と、それに近い数のスタッフ。
合わせて千名を優に超える人々を快適に収容できる広大なフロアに、人々の熱気と興奮とが満ち溢れ、今この瞬間にも様々なドラマが生まれている。
「あッつ……」
ネクタイを緩め、ワイシャツの胸元に空気を送り込む。
「──…………」
プルが目を伏せ、おずおずと口を開いた。
「……わ、わたしたち、このまま……、このままルインラインたち、を、待つしかできないのかな……」
「それどころじゃない。このままじゃ無一文で外に放り出されて、二人が解放されるまで飲まず食わずで野宿だぞ」
「ふぎゃ……」
「とっくに退路はないんだよ」
「じゃ、じゃあ……」
プルが、自分の服をつまんでみせる。
「これなら、い、いくらで売れるかな。かたなの服ほどじゃないけど、上等な生地だし、す、すこしは高く売れる、……かも」
「いや、それ脱いだらもう下着だろ」
「う、うん……」
「そんなことさせるくらいなら、俺がスーツの下も質に入れる。もともと上下一揃いの服だからな。向こうも欲しがるだろ」
「で、で、でも!」
プルの気持ちはわかっている。
何もできていない、何も差し出せていない自分に、焦燥を感じているのだろう。
だが、プルを下着で連れ回すのは論外だ。
「──まあ、その前に、だ。ラストチャンスに賭けてみるのも悪くない」
思わず頭を抱える。
何故だ。
「そ、……その、かたな。げ、元気出して……」
「この状況で元気いっぱいだったら、それはそれで限界だろ……」
おかしい。
選択肢が出ない。
青枠を選択し続けて、あれよあれよと億万長者という作戦が、いきなり頓挫してしまった。
小一時間ほどジングル・ジャングルに明け暮れた結果、俺の手に残ったものは、鮮やかに青い10シーグルチップのみだった。
一時は五千シーグルまで増えたのだが、そこで守勢に入ったのが悪かったらしい。
「……手詰まりか?」
ジングル・ジャングルの勝率は、ニーゼロが四分の一、イチイチが二分の一、ゼロニーが四分の一だ。
ニーゼロ、ゼロニーは、当たれば掛け金が四倍。
イチイチでは掛け金が二倍となる。
だが、このシステムでは胴元が得をしない。
それでは、カジノ側がどうやって儲けているかと言えば──
「も、もう、参加料しか残ってない、ね……」
ハノンソル・カジノでは、どのゲームであっても、一勝負につき一律で10シーグルの参加料を徴収される。
手持ちのチップは、奇しくも10シーグル。
参加料を払えたとしても、賭けるチップが既にないのだ。
最後に残ったなけなしの50シーグルチップを情け容赦なく奪い去ったディーラーが、爽やかな笑顔で俺たちに問う。
「お客さま。次の勝負はどうなさいますか?」
わかっているくせに。
随分と嫌味なディーラーだ。
「……いったん席を外す」
「了解致しました」
プルと共に席を立ち、曲面で構成された壁に背を預ける。
ハノンソル・カジノ。
パラキストリ連邦最大のカジノという謳い文句は、伊達や酔狂ではなかった。
数百名の客と、それに近い数のスタッフ。
合わせて千名を優に超える人々を快適に収容できる広大なフロアに、人々の熱気と興奮とが満ち溢れ、今この瞬間にも様々なドラマが生まれている。
「あッつ……」
ネクタイを緩め、ワイシャツの胸元に空気を送り込む。
「──…………」
プルが目を伏せ、おずおずと口を開いた。
「……わ、わたしたち、このまま……、このままルインラインたち、を、待つしかできないのかな……」
「それどころじゃない。このままじゃ無一文で外に放り出されて、二人が解放されるまで飲まず食わずで野宿だぞ」
「ふぎゃ……」
「とっくに退路はないんだよ」
「じゃ、じゃあ……」
プルが、自分の服をつまんでみせる。
「これなら、い、いくらで売れるかな。かたなの服ほどじゃないけど、上等な生地だし、す、すこしは高く売れる、……かも」
「いや、それ脱いだらもう下着だろ」
「う、うん……」
「そんなことさせるくらいなら、俺がスーツの下も質に入れる。もともと上下一揃いの服だからな。向こうも欲しがるだろ」
「で、で、でも!」
プルの気持ちはわかっている。
何もできていない、何も差し出せていない自分に、焦燥を感じているのだろう。
だが、プルを下着で連れ回すのは論外だ。
「──まあ、その前に、だ。ラストチャンスに賭けてみるのも悪くない」
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