上 下
20 / 286
第一章 パラキストリ連邦

2/ハノンソル -7 信頼と重圧

しおりを挟む
「──…………」
「──……」
 兵士の一団がその場を後にすると、往来に活気が戻り始めた。
「なあ、プル」
「は、は、はい……」
「とりあえずメシでも食うか?」
「のんき……!」
「つーても、何していいやら。今から追い掛けて伯爵の家で豪華な晩メシを食うのが悪手だってことはわかるけどな」
「……え、と。わ、わたしの考え、話すね」
「ああ」
 プルが、たどたどしく話し始める。
「伯爵の、も、目的は、わたしたちの旅を遅らせること、……でっす。ぶ、武力じゃ絶対勝てないから、こうして搦め手を使ってきた。だ、だから、ルインラインたちを可能な限り引き止めようとする、……はず」
「なるほど。でも、ルインラインはそれに気付いてたっぽいよな。だからこそ、俺たちを安全圏へと移動させた」
 ふと、身も蓋もないことが脳裏をよぎった。
「……こんなこと言うものなんだけど、大立ち回りしてさっさと逃げたほうが、いっそ合理的だったんじゃないか?」
「わたし、それ、やろうとした……」
「……マジ?」
「さ、騒ぎを起こして、それに乗じて、みんなで逃げようって」
 叫ぼうとしていた時のことか。
「悪い。止めるべきじゃなかったな」
「ううん」
 プルが首を横に振る。
「わ、わたしが騒ぎを起こそうと、起こすまいと、……ルインラインが本気を出せば、何も変わらないから。ど、どんな状況だって、わたしを連れて逃げ出せた、はず」
 ならば、余計におかしい。
 ルインラインは、何故、その選択肢を選ばなかった? 
「え、と、……その」
 何かを迷いながらも、プルが言葉を続ける。
「……ず、ずるいこと、言います」
「ずるいこと……?」
「か、かたな。もしかたながいなかったら、ルインラインは、わたしを連れて逃げてた。ぜったいに、そう。ハノンでの補給は最低限にして、さ、最速でこの街を抜けるのが、いちばんだから……」
「──…………」
「でも、る、ルインラインはそれをしなかった。どうしてか、……わ、わかる?」
「俺が足手まといだったから」
 プルが、ゆっくりと首を振る。
「る、ルインラインは、優しくない、……です。目的のためなら、かたなを平然と、置き去りにする。もともと、ここで別れるつもりだったから、て、手間が省けたって笑いながら言う、……と、思う」
 言いそうだ。
「なら、どうしてだ?」
 どんなに考えても辻褄の合う答えが見つからない。
 だが、プルから伝えられた答えは本当に単純で、だからこそ否定したくなるものだった。
「た、たぶん、かたなに賭けた、……でっす。自分で事を起こすより、かたなにおまかせしたほうが確実、だって。かたなを信じたん、です」
「──…………」
 まさか。
 そんなことがあるはずない。
 そう言いたかった。
「かたな」
「……ああ」
「わ、……わたしを。わたしたちを、また、助けて……」
 予想はしていた。
 だが、ここまで信用されているとは思わなかった。
 信頼とは重みだ。
 強い信頼は重圧に繋がる。
 だが、それでも。
 一度期待を寄せられてしまえば、裏切りたくなくなってしまうものだ。
 俺は、なかば無意識に、プルの頭を優しく撫でていた。
「かたな……?」
「わかったよ。友達を助けるのは当然のことだしな」
「!」
「やるだけやってみよう。駄目だったらごめんだけど」
「かたななら、きっとできる! わたしもがんばる、ます!」
「そこで噛むのかよ」
「う、見逃してくれなかった……」
「ははっ」
 プルと話していると、思わず笑顔になる。
 不思議な子だと思う。
「そうと決まれば、ハノンの靴底ハノンソルへ向かうぞ。ルインラインが俺たちにその名前を聞かせたからには、コンタクトを取れってことだろ。なら、こういうのは早けりゃ早いほうがいい」
「はい!」
 俺たちは、道行く人々に方角を尋ねながら、一路ハノンソルを目指して歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...