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第一章 パラキストリ連邦
2/ハノンソル -7 信頼と重圧
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「──…………」
「──……」
兵士の一団がその場を後にすると、往来に活気が戻り始めた。
「なあ、プル」
「は、は、はい……」
「とりあえずメシでも食うか?」
「のんき……!」
「つーても、何していいやら。今から追い掛けて伯爵の家で豪華な晩メシを食うのが悪手だってことはわかるけどな」
「……え、と。わ、わたしの考え、話すね」
「ああ」
プルが、たどたどしく話し始める。
「伯爵の、も、目的は、わたしたちの旅を遅らせること、……でっす。ぶ、武力じゃ絶対勝てないから、こうして搦め手を使ってきた。だ、だから、ルインラインたちを可能な限り引き止めようとする、……はず」
「なるほど。でも、ルインラインはそれに気付いてたっぽいよな。だからこそ、俺たちを安全圏へと移動させた」
ふと、身も蓋もないことが脳裏をよぎった。
「……こんなこと言うものなんだけど、大立ち回りしてさっさと逃げたほうが、いっそ合理的だったんじゃないか?」
「わたし、それ、やろうとした……」
「……マジ?」
「さ、騒ぎを起こして、それに乗じて、みんなで逃げようって」
叫ぼうとしていた時のことか。
「悪い。止めるべきじゃなかったな」
「ううん」
プルが首を横に振る。
「わ、わたしが騒ぎを起こそうと、起こすまいと、……ルインラインが本気を出せば、何も変わらないから。ど、どんな状況だって、わたしを連れて逃げ出せた、はず」
ならば、余計におかしい。
ルインラインは、何故、その選択肢を選ばなかった?
「え、と、……その」
何かを迷いながらも、プルが言葉を続ける。
「……ず、ずるいこと、言います」
「ずるいこと……?」
「か、かたな。もしかたながいなかったら、ルインラインは、わたしを連れて逃げてた。ぜったいに、そう。ハノンでの補給は最低限にして、さ、最速でこの街を抜けるのが、いちばんだから……」
「──…………」
「でも、る、ルインラインはそれをしなかった。どうしてか、……わ、わかる?」
「俺が足手まといだったから」
プルが、ゆっくりと首を振る。
「る、ルインラインは、優しくない、……です。目的のためなら、かたなを平然と、置き去りにする。もともと、ここで別れるつもりだったから、て、手間が省けたって笑いながら言う、……と、思う」
言いそうだ。
「なら、どうしてだ?」
どんなに考えても辻褄の合う答えが見つからない。
だが、プルから伝えられた答えは本当に単純で、だからこそ否定したくなるものだった。
「た、たぶん、かたなに賭けた、……でっす。自分で事を起こすより、かたなにおまかせしたほうが確実、だって。かたなを信じたん、です」
「──…………」
まさか。
そんなことがあるはずない。
そう言いたかった。
「かたな」
「……ああ」
「わ、……わたしを。わたしたちを、また、助けて……」
予想はしていた。
だが、ここまで信用されているとは思わなかった。
信頼とは重みだ。
強い信頼は重圧に繋がる。
だが、それでも。
一度期待を寄せられてしまえば、裏切りたくなくなってしまうものだ。
俺は、なかば無意識に、プルの頭を優しく撫でていた。
「かたな……?」
「わかったよ。友達を助けるのは当然のことだしな」
「!」
「やるだけやってみよう。駄目だったらごめんだけど」
「かたななら、きっとできる! わたしもがんばる、ます!」
「そこで噛むのかよ」
「う、見逃してくれなかった……」
「ははっ」
プルと話していると、思わず笑顔になる。
不思議な子だと思う。
「そうと決まれば、ハノンの靴底へ向かうぞ。ルインラインが俺たちにその名前を聞かせたからには、コンタクトを取れってことだろ。なら、こういうのは早けりゃ早いほうがいい」
「はい!」
俺たちは、道行く人々に方角を尋ねながら、一路ハノンソルを目指して歩き出した。
「──……」
兵士の一団がその場を後にすると、往来に活気が戻り始めた。
「なあ、プル」
「は、は、はい……」
「とりあえずメシでも食うか?」
「のんき……!」
「つーても、何していいやら。今から追い掛けて伯爵の家で豪華な晩メシを食うのが悪手だってことはわかるけどな」
「……え、と。わ、わたしの考え、話すね」
「ああ」
プルが、たどたどしく話し始める。
「伯爵の、も、目的は、わたしたちの旅を遅らせること、……でっす。ぶ、武力じゃ絶対勝てないから、こうして搦め手を使ってきた。だ、だから、ルインラインたちを可能な限り引き止めようとする、……はず」
「なるほど。でも、ルインラインはそれに気付いてたっぽいよな。だからこそ、俺たちを安全圏へと移動させた」
ふと、身も蓋もないことが脳裏をよぎった。
「……こんなこと言うものなんだけど、大立ち回りしてさっさと逃げたほうが、いっそ合理的だったんじゃないか?」
「わたし、それ、やろうとした……」
「……マジ?」
「さ、騒ぎを起こして、それに乗じて、みんなで逃げようって」
叫ぼうとしていた時のことか。
「悪い。止めるべきじゃなかったな」
「ううん」
プルが首を横に振る。
「わ、わたしが騒ぎを起こそうと、起こすまいと、……ルインラインが本気を出せば、何も変わらないから。ど、どんな状況だって、わたしを連れて逃げ出せた、はず」
ならば、余計におかしい。
ルインラインは、何故、その選択肢を選ばなかった?
「え、と、……その」
何かを迷いながらも、プルが言葉を続ける。
「……ず、ずるいこと、言います」
「ずるいこと……?」
「か、かたな。もしかたながいなかったら、ルインラインは、わたしを連れて逃げてた。ぜったいに、そう。ハノンでの補給は最低限にして、さ、最速でこの街を抜けるのが、いちばんだから……」
「──…………」
「でも、る、ルインラインはそれをしなかった。どうしてか、……わ、わかる?」
「俺が足手まといだったから」
プルが、ゆっくりと首を振る。
「る、ルインラインは、優しくない、……です。目的のためなら、かたなを平然と、置き去りにする。もともと、ここで別れるつもりだったから、て、手間が省けたって笑いながら言う、……と、思う」
言いそうだ。
「なら、どうしてだ?」
どんなに考えても辻褄の合う答えが見つからない。
だが、プルから伝えられた答えは本当に単純で、だからこそ否定したくなるものだった。
「た、たぶん、かたなに賭けた、……でっす。自分で事を起こすより、かたなにおまかせしたほうが確実、だって。かたなを信じたん、です」
「──…………」
まさか。
そんなことがあるはずない。
そう言いたかった。
「かたな」
「……ああ」
「わ、……わたしを。わたしたちを、また、助けて……」
予想はしていた。
だが、ここまで信用されているとは思わなかった。
信頼とは重みだ。
強い信頼は重圧に繋がる。
だが、それでも。
一度期待を寄せられてしまえば、裏切りたくなくなってしまうものだ。
俺は、なかば無意識に、プルの頭を優しく撫でていた。
「かたな……?」
「わかったよ。友達を助けるのは当然のことだしな」
「!」
「やるだけやってみよう。駄目だったらごめんだけど」
「かたななら、きっとできる! わたしもがんばる、ます!」
「そこで噛むのかよ」
「う、見逃してくれなかった……」
「ははっ」
プルと話していると、思わず笑顔になる。
不思議な子だと思う。
「そうと決まれば、ハノンの靴底へ向かうぞ。ルインラインが俺たちにその名前を聞かせたからには、コンタクトを取れってことだろ。なら、こういうのは早けりゃ早いほうがいい」
「はい!」
俺たちは、道行く人々に方角を尋ねながら、一路ハノンソルを目指して歩き出した。
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