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043 / 光る人影
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「どこから行こう」
「まず、あの小川の水質を調べたいな。幸い空き瓶がある。持ち帰って、もし可能ならアーネに鑑定呪を唱えてもらおう。飲めるなら水の補給地点として使えるだろ」
「たしかに! 拭うだけじゃなくて、顔も洗えるね」
「なんなら水浴びもできるぞ」
「……覗かないでね?」
「覗かないって。俺わりと紳士で通してるんだから」
「へへ、冗談だよー。リュータがそういうことしないの、ちゃんと知ってるもん」
いつの間にか篤《あつ》い信頼を勝ち得ていた。
元より覗きなどする気はないが、これではますます裏切れない。
「ただ、それをするにしても、しっかりと安全を確保してからだな」
「そうだね。ひとまず、そこの階段から小川へ下りてみよう」
「ああ」
石造りの階段を下り、小川の様子を確認する。
涼やかな音を立てながら流れゆく清水には、一点の曇りも存在しない。
新鮮な湧き水がそのまま流れているような印象を受ける。
「──…………」
指先で、ちょんと触れる。
冷たい。
恐らくはただの水だろう。
俺は、小川の水を瓶に詰めると、コルクで蓋をした。
「よし、と」
「飲めたらいいな」
「もし飲めたときのために、拠点を確保しておこう。水が潤沢にあれば、携行食だけじゃなくて炊事もできるし」
「あ、そうか。焼き米とか戻せれば、荷物を削減できるもんね」
「そうそう。差し当たり──」
周囲を見渡す。
傍らにある朽ちた遺跡が気になった。
鐘撞《かねつ》き堂にも似た形状の三階建ての遺跡は、大樹に半ばほど飲み込まれており、そのさまが荘厳な雰囲気をさらに深めていた。
「あの遺跡、かな。手頃な大きさに見える」
「わかった! あたしが先導するね」
そう言って、フェリテがずんずん遺跡へと歩いていく。
「警戒は怠るなよ」
「わかってるよー……」
心外とばかりに苦笑してみせると、フェリテが遺跡の入口で立ち止まった。
そして、手頃な大きさの石を遺跡内へと放る。
なるほど、上手い手だ。
五感の鋭い魔物がいれば、なんらかの反応が返ってくるだろう。
待ち伏せされて先制攻撃を食らう可能性を、かなり低減させることができる。
「もしかして、冒険譚で得た知識か?」
「そうだよ。罠や魔物の探知方法として一般的みたい」
「なるほど……」
俺も、有名どころの冒険譚は読んでおかなければ。
アーネに借りよう。
石を投げ込んでしばらく待ったが、遺跡内からはなんの反応も見られなかった。
「警戒は解けないけど、ひとまずは大丈夫そうだね」
「そうだな」
「じゃ、入ってみる」
フェリテが、顔だけを入口へと差し入れ、中の様子を窺った。
大丈夫だと判断したのか、恐る恐る足を踏み入れていく。
靴底が石畳を叩くかすかな音が聞こえてくる。
異常はなさそうだ。
「入口付近は大丈夫みたい。入ってきていいよ」
「わかった」
フェリテの後を追い、遺跡に入る。
外に比べてほの暗いが、窓から射し込む精霊の光のおかげで、視界の確保には事欠かない。
一階を探ると、この遺跡が、かつて普通の民家であったことがわかる。
炊事場やトイレらしき場所など、生活に必要な施設の痕跡が随所に見られるのだ。
数百年か、あるいは数千年前か──遥か昔、人々がここで暮らしていたのかもしれない。
もっとも、このダンジョン自体、俺か神が創り上げたものという可能性は否めないのだが。
「じゃ、次は二階だね。三階建てに見えたから、二階と三階を制圧しておけば、安心して拠点にできるはず」
「だな」
毎回安全を確認する必要はあるが、中継拠点があるのは大きい。
魔法の鍵を上手く使えば、他の冒険者のことを気にせず必要なものを運び込んでおくこともできるだろう。
俺は、フェリテに続き、二階への階段を上がっていった。
「……?」
フェリテが不審げに小首をかしげる。
「なんか、明るい」
言われて気付く。
二階から光が溢れている。
構造的に、外を飛び交う精霊の光がここまで射し込んでいるとは考えづらい。
「フェリテ、気を付けて」
「──…………」
フェリテがこくりと頷く。
そして、階段を上りきる前に、二階を覗き込んだ。
「……っ」
溢れそうになる驚愕の声を両手で塞ぎ、フェリテがこちらを振り返った。
「人が、いる。光る人……」
「……光る、人?」
「普通に生活してる……」
「まず、あの小川の水質を調べたいな。幸い空き瓶がある。持ち帰って、もし可能ならアーネに鑑定呪を唱えてもらおう。飲めるなら水の補給地点として使えるだろ」
「たしかに! 拭うだけじゃなくて、顔も洗えるね」
「なんなら水浴びもできるぞ」
「……覗かないでね?」
「覗かないって。俺わりと紳士で通してるんだから」
「へへ、冗談だよー。リュータがそういうことしないの、ちゃんと知ってるもん」
いつの間にか篤《あつ》い信頼を勝ち得ていた。
元より覗きなどする気はないが、これではますます裏切れない。
「ただ、それをするにしても、しっかりと安全を確保してからだな」
「そうだね。ひとまず、そこの階段から小川へ下りてみよう」
「ああ」
石造りの階段を下り、小川の様子を確認する。
涼やかな音を立てながら流れゆく清水には、一点の曇りも存在しない。
新鮮な湧き水がそのまま流れているような印象を受ける。
「──…………」
指先で、ちょんと触れる。
冷たい。
恐らくはただの水だろう。
俺は、小川の水を瓶に詰めると、コルクで蓋をした。
「よし、と」
「飲めたらいいな」
「もし飲めたときのために、拠点を確保しておこう。水が潤沢にあれば、携行食だけじゃなくて炊事もできるし」
「あ、そうか。焼き米とか戻せれば、荷物を削減できるもんね」
「そうそう。差し当たり──」
周囲を見渡す。
傍らにある朽ちた遺跡が気になった。
鐘撞《かねつ》き堂にも似た形状の三階建ての遺跡は、大樹に半ばほど飲み込まれており、そのさまが荘厳な雰囲気をさらに深めていた。
「あの遺跡、かな。手頃な大きさに見える」
「わかった! あたしが先導するね」
そう言って、フェリテがずんずん遺跡へと歩いていく。
「警戒は怠るなよ」
「わかってるよー……」
心外とばかりに苦笑してみせると、フェリテが遺跡の入口で立ち止まった。
そして、手頃な大きさの石を遺跡内へと放る。
なるほど、上手い手だ。
五感の鋭い魔物がいれば、なんらかの反応が返ってくるだろう。
待ち伏せされて先制攻撃を食らう可能性を、かなり低減させることができる。
「もしかして、冒険譚で得た知識か?」
「そうだよ。罠や魔物の探知方法として一般的みたい」
「なるほど……」
俺も、有名どころの冒険譚は読んでおかなければ。
アーネに借りよう。
石を投げ込んでしばらく待ったが、遺跡内からはなんの反応も見られなかった。
「警戒は解けないけど、ひとまずは大丈夫そうだね」
「そうだな」
「じゃ、入ってみる」
フェリテが、顔だけを入口へと差し入れ、中の様子を窺った。
大丈夫だと判断したのか、恐る恐る足を踏み入れていく。
靴底が石畳を叩くかすかな音が聞こえてくる。
異常はなさそうだ。
「入口付近は大丈夫みたい。入ってきていいよ」
「わかった」
フェリテの後を追い、遺跡に入る。
外に比べてほの暗いが、窓から射し込む精霊の光のおかげで、視界の確保には事欠かない。
一階を探ると、この遺跡が、かつて普通の民家であったことがわかる。
炊事場やトイレらしき場所など、生活に必要な施設の痕跡が随所に見られるのだ。
数百年か、あるいは数千年前か──遥か昔、人々がここで暮らしていたのかもしれない。
もっとも、このダンジョン自体、俺か神が創り上げたものという可能性は否めないのだが。
「じゃ、次は二階だね。三階建てに見えたから、二階と三階を制圧しておけば、安心して拠点にできるはず」
「だな」
毎回安全を確認する必要はあるが、中継拠点があるのは大きい。
魔法の鍵を上手く使えば、他の冒険者のことを気にせず必要なものを運び込んでおくこともできるだろう。
俺は、フェリテに続き、二階への階段を上がっていった。
「……?」
フェリテが不審げに小首をかしげる。
「なんか、明るい」
言われて気付く。
二階から光が溢れている。
構造的に、外を飛び交う精霊の光がここまで射し込んでいるとは考えづらい。
「フェリテ、気を付けて」
「──…………」
フェリテがこくりと頷く。
そして、階段を上りきる前に、二階を覗き込んだ。
「……っ」
溢れそうになる驚愕の声を両手で塞ぎ、フェリテがこちらを振り返った。
「人が、いる。光る人……」
「……光る、人?」
「普通に生活してる……」
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