上 下
43 / 87

043 / 光る人影

しおりを挟む
「どこから行こう」

「まず、あの小川の水質を調べたいな。幸い空き瓶がある。持ち帰って、もし可能ならアーネに鑑定呪を唱えてもらおう。飲めるなら水の補給地点として使えるだろ」

「たしかに! 拭うだけじゃなくて、顔も洗えるね」

「なんなら水浴びもできるぞ」

「……覗かないでね?」

「覗かないって。俺わりと紳士で通してるんだから」

「へへ、冗談だよー。リュータがそういうことしないの、ちゃんと知ってるもん」

 いつの間にか篤《あつ》い信頼を勝ち得ていた。
 元より覗きなどする気はないが、これではますます裏切れない。

「ただ、それをするにしても、しっかりと安全を確保してからだな」

「そうだね。ひとまず、そこの階段から小川へ下りてみよう」

「ああ」

 石造りの階段を下り、小川の様子を確認する。
 涼やかな音を立てながら流れゆく清水には、一点の曇りも存在しない。
 新鮮な湧き水がそのまま流れているような印象を受ける。

「──…………」

 指先で、ちょんと触れる。
 冷たい。
 恐らくはただの水だろう。
 俺は、小川の水を瓶に詰めると、コルクで蓋をした。

「よし、と」

「飲めたらいいな」

「もし飲めたときのために、拠点を確保しておこう。水が潤沢にあれば、携行食だけじゃなくて炊事もできるし」

「あ、そうか。焼き米とか戻せれば、荷物を削減できるもんね」

「そうそう。差し当たり──」

 周囲を見渡す。
 傍らにある朽ちた遺跡が気になった。
 鐘撞《かねつ》き堂にも似た形状の三階建ての遺跡は、大樹に半ばほど飲み込まれており、そのさまが荘厳な雰囲気をさらに深めていた。

「あの遺跡、かな。手頃な大きさに見える」

「わかった! あたしが先導するね」

 そう言って、フェリテがずんずん遺跡へと歩いていく。

「警戒は怠るなよ」

「わかってるよー……」

 心外とばかりに苦笑してみせると、フェリテが遺跡の入口で立ち止まった。
 そして、手頃な大きさの石を遺跡内へと放る。
 なるほど、上手い手だ。
 五感の鋭い魔物がいれば、なんらかの反応が返ってくるだろう。
 待ち伏せされて先制攻撃を食らう可能性を、かなり低減させることができる。

「もしかして、冒険譚で得た知識か?」

「そうだよ。罠や魔物の探知方法として一般的みたい」

「なるほど……」

 俺も、有名どころの冒険譚は読んでおかなければ。
 アーネに借りよう。
 石を投げ込んでしばらく待ったが、遺跡内からはなんの反応も見られなかった。

「警戒は解けないけど、ひとまずは大丈夫そうだね」

「そうだな」

「じゃ、入ってみる」

 フェリテが、顔だけを入口へと差し入れ、中の様子を窺った。
 大丈夫だと判断したのか、恐る恐る足を踏み入れていく。
 靴底が石畳を叩くかすかな音が聞こえてくる。
 異常はなさそうだ。

「入口付近は大丈夫みたい。入ってきていいよ」

「わかった」

 フェリテの後を追い、遺跡に入る。
 外に比べてほの暗いが、窓から射し込む精霊の光のおかげで、視界の確保には事欠かない。
 一階を探ると、この遺跡が、かつて普通の民家であったことがわかる。
 炊事場やトイレらしき場所など、生活に必要な施設の痕跡が随所に見られるのだ。
 数百年か、あるいは数千年前か──遥か昔、人々がここで暮らしていたのかもしれない。
 もっとも、このダンジョン自体、俺か神が創り上げたものという可能性は否めないのだが。

「じゃ、次は二階だね。三階建てに見えたから、二階と三階を制圧しておけば、安心して拠点にできるはず」

「だな」

 毎回安全を確認する必要はあるが、中継拠点があるのは大きい。
 魔法の鍵を上手く使えば、他の冒険者のことを気にせず必要なものを運び込んでおくこともできるだろう。
 俺は、フェリテに続き、二階への階段を上がっていった。

「……?」

 フェリテが不審げに小首をかしげる。

「なんか、明るい」

 言われて気付く。
 二階から光が溢れている。
 構造的に、外を飛び交う精霊の光がここまで射し込んでいるとは考えづらい。

「フェリテ、気を付けて」

「──…………」

 フェリテがこくりと頷く。
 そして、階段を上りきる前に、二階を覗き込んだ。

「……っ」

 溢れそうになる驚愕の声を両手で塞ぎ、フェリテがこちらを振り返った。

「人が、いる。光る人……」

「……光る、人?」

「普通に生活してる……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

処理中です...