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036 / 擬態スライムとの戦い(1/2)

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「──フェリテ、足元だ!」

「うん!」

 フェリテの構える巨大な戦斧が、足元の岩場に叩き付けられる。
 予想された金属音は洞窟内には響かなかった。
 その刃を受け止めたものがあったのだ。
 それは、岩に擬態したスライムだった。
 スライムは、戦斧の刃を受けたところから二つにくびられ、分裂したように見えた。

「え、増えた!?」

「増えてない! 核のないほうは動かないはずだ」

 見れば、分裂したスライムの片方が、形を保てずに自壊していく。
 スライムの駆除は、基本的にはこの繰り返しだ。
 核の含まれる部分の体積が一定以下になるか、あるいは核自体を破壊すれば、スライムは死亡する。

「フェリテ、後ろに飛び退け!」

「わかった!」

 俺の指示通りにフェリテが背後へと跳躍する。
 俺は、プログラミングの要領で脳内に呪文を走らせると、詠唱を破棄し火炎呪を放った。
 数本の炎の矢が、小さくなった擬態スライムに突き刺さる。

 ──ジュッ!

 まだ燃えている花火を水に沈めたような音と共に、擬態スライムが蒸発する。

「やった!」

「喜ぶのはまだ早い。こういう手合いは群れでいるんだよ」

「群れ……」

 周囲をぐるりと見渡す。
 地面も、壁も、天井も、すべてがごつごつとした岩場で形作られている。

「……どれがスライムかわっかんないよ!」

「大丈夫だ。いったん外に出よう」

「う、うん」

 俺たちは、細心の注意を払いながら、足を踏み入れたばかりの脇道から抜け出した。

「どうするの?」

「まあ、範囲広げた火炎呪で燃やし尽くすのが手っ取り早いんだけど……」

「でも」

 フェリテの視線が、脇道の先を射抜く。
 突き当たりに無造作に置かれていたのは、未開封の宝箱だ。

「あれ、燃えちゃわない?」

「燃えるな」

「だよね……」

「だから、別の方法で行く」

 再び脳内に呪文を走らせる。
 俺は、火炎呪のスペシャリストだ。
 脳内で呪文を組み換えることで、火炎呪の範疇において、ありとあらゆる効果を引き起こすことができる。

「──そら、煮えろ!」

 右手を脇道へと差し伸ばす。

 ──パチッ!

 空気そのものが弾け、熱を帯び始めた。

「なんか、ぽかぽかするー……」

「あの通路の空気だけ、ゆっくり加熱してるんだよ。これなら燃えないし──」

 脇道の中で、いくつかの岩が蠢《うごめ》くのがわかった。
 地面に二体。
 壁に一体。
 天井に二体だ。

「こうして、擬態野郎どもをあぶり出せるってわけだ」

「あったまいい! さすがリュータ!」

 褒められるのは嬉しいが、それどころではない。

「フェリテ、構えろ。あいつらにだって知能はある。誰が自分を苦しめてるか、そのくらいはわかってる!」

 俺が声を張り上げた瞬間、擬態を解いた五体のスライムが、脇道からこちらへ向けて飛び出してきた。

「フェリテ、左の二体! 俺は右手の三体をやる!」

「はい!」

 腰に佩いた長剣を抜き放ち、三体のスライムへと斬り掛かる。
 正体さえ掴めてしまえば擬態スライムは脅威ではない。
 俺は、手近な一体を一瞬で細切れにすると、フェリテへと視線を向けた。
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